売上のふり幅を作らず、日々の平均値を高くすることで利益を確保
『岩瀬串店』のもう一つの特徴は、その価格だ。串焼きのメイン価格が100~250円、アルコールもハートランドの小瓶やハイボールは350円とリーズナブルさが際立つ。そのため、満足に食事を楽しんでも客単価は1,500円ほど。このコストパフォーマンスを実現するには、仕入れにもさぞ工夫があるだろうと尋ねると「実際のところ、一品当たりの利益は少ないんですよ」と苦笑いの岩瀬さん。だが、「お客さんが必ず、毎日いるお店にしたかったんです」と続ける。
「少ないとはいえ、売れば利益はでます。だから、雨の日も風の日も、お客さんが必ずいるお店にしたいと思ったんです。そうすれば利益がゼロという日はない。売上のふり幅を作らずに、アベレージが高くなるように店づくりを考えました」
キャッシュオン方式は、業務効率化以外にうれしい誤算も
さらに支払いは、キャッシュオン方式を採用。お客は1,000円単位で店オリジナルのコインを購入、コインは席の前にあるグラスにチャージされていて、料理と交換することができる。店側としては最後の会計が不要で業務効率化にもつながっている。コインは使い切れるように、ミニグラスのお酒やチョコレートを50円という価格で用意したり、姉妹店『ポッポしゃん』で人気の「かしわ飯にぎり」を1個100円で持ち帰れるようにしたりとメニューも工夫する。また無理に使い切らなくても、キープコインとして次回に持ち越すことも可能だ。
「キープコインを取り入れることで、リピーター獲得にもつながっています。なかには、月に1度1万円分をコインに替えて、その金額内で通って食事を楽しんでくれるサラリーマンの方もいらっしゃるんです」
さらにコインを取り入れることで思わぬ効果もあった。最近はお酒を飲まない若者が増え、居酒屋でドリンクを頼まず、お冷で食事をする人もいるが、『岩瀬串店』ではお酒を飲まない人のほとんどが、自然とソフトドリンクをオーダーするという。
「オープン前、水を有料にするかどうかを迷っていたんです。ただ、福岡では“居酒屋の水を有料で飲む”という習慣はまだ根付いていない。結局、水は無料で提供することに決めました。でも先にコインを購入すると『使い切ろう』という心理もあってか、お酒を注文しないお客さまもソフトドリンクを頼んでくれるのでありがたいですね」
5月には立ち食いカフェをオープン。「立って食べる文化」を広めたい
立ち飲みと聞くと嫌がる女性もいるが、『岩瀬串店』では、そんな人に少しでも興味を持ってもらうための企画も開催している。例えば、店のショーケースを使ったアクセサリーの販売イベント。普段は串焼きが並ぶケースの中にアクセサリーを並べ、スイーツを提供した。「『ここ、飲食店辞めちゃったんですね』って入ってくる女性もいたんです」と岩瀬さんは笑う。
さらに5月からは店が閉まっている昼間の時間に、同じ店内を活用して『サンド後藤』をオープン予定。こちらはサンド料理を気軽に食べられる“立ち食いカフェ”だ。
「店舗の有効活用というのはもちろんですが、これを機に『立って食べる』文化をもっと広めていきたいと思っているんです。昼間のカフェであれば、女子高生や立ち飲み屋に苦手意識がある女性でもランチなどで気軽に入って食事ができる。まずは立って食事をする機会を作ろうと思って。『立って食べる』ことに抵抗をなくして、そういう文化もあるんだなって思ってもらえることで、これからの立ち飲み屋の未来が見えてくると考えています」
今だけでなく、未来を見つめる『岩瀬串店』の勝負はスタートしたばかり。福岡にどんな立ち食い文化が根づくのか、これからの展開にも目が離せない。
『岩瀬串店』
住所/福岡県福岡市中央区大名1-4-22
電話番号/092-732-7676
営業時間/18:00~25:00
定休日/水曜
席数/20(カウンターでの立ち飲み)
(提供:Foodist Media)
執筆者:戸田千文