はじめに~政府の2020年の女性管理職3割目標達成は厳しい状況、産業による差も
第二次安倍政権による「女性の活躍推進」政策が始まって丸6年が経過しようとしている。政府は、「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度とする」(1)ことを目標としているが、達成は厳しい状況だ。
内閣府「平成30年版男女共同参画白書」によれば、役員や管理職に占める女性の割合は上昇傾向にある。しかし、3割という目標には程遠く、2017年で係長級は18.4%、課長級は10.9%、部長級は6.3%、上場企業の役員は3.7%であり、上位の役職ほど女性比率は低い(図表1)。
また、女性の管理職比率を産業別に見ると、「不動産業、物品賃貸業」や「教育、学習支援業」では3割を越えるが、約半数の産業では1割に満たない(図表2)。また、女性の就業者比率は「医療、福祉」や「宿泊業、飲食サービス業」では6~7割台と高いものの、これらの女性管理職比率は2割台にとどまり、就業者比率と管理職比率の差は4割を超える。
女性の管理職登用が進まない背景については、女性では家庭との両立が困難と考えて管理職になりたくないと考える割合が男性と比べて高いことや、女性は特にリーダーシップやマネジメント面において、男性よりも自己評価が低いことなどが指摘されている(2)。
本稿では、25~59歳の女性約5千名を対象に実施した調査(3)を用いて、働く女性の管理職希望や管理職に興味を持つ理由、あるいは興味を持たない理由について、年齢や学歴、年収、未既婚や子の有無、働き方に関する価値観などの属性による違いを詳しく捉える。
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(1)内閣府「『2020年30%』の目標の実現に向けて」
(2)シェリル・サンドバーグ「LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲」(日本経済新聞出版社、2013/6/26)や三菱UFJリサーチ&コンサルティング「女性管理職の育成・登用に関する調査」(2015/4/16)など。
(3)「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
働く女性の管理職への興味~過半数は興味なし、大学院卒・高収入女性で興味ありが多い
●働く女性の管理職への興味~興味ありは正規雇用者の2割弱。興味が高まるのは40歳前後。
正規雇用者で管理職でない女性に対して、管理職になることへの興味を尋ねたところ、全体では「ない」(56.5%)が過半数を占めて多く、「どちらともいえない」(26.3%)、「ある」(17.1%)と続く(図表3)。
年齢別に見ても、いずれも「ない」が最多だが、「ある」は35~39歳(19.4%)をピークに年齢とともに増え、40歳以上では減る傾向がある。なお、「どちらともいえない」は40~44歳前後で多い。40~44歳では「ある」と「どちらともいえない」を合わせると過半数を占める。つまり、40代前半の過半数は管理職への興味がないわけではない。
30代は企業等で一般的に管理職になり始める時期であり、40代は同年代で管理職が増える時期だ。女性正規雇用者では、管理職に興味が「ある」割合に比べて興味が「ない」割合が圧倒的に多いものの、やはり、同年代が管理職になり始める時期は興味が高まり、同年代で管理職が増える40代前半では、漠然としたものも含めれば、過半数が管理職への興味を持っているようだ。
なお、非正規雇用者の女性では、年齢が若いほど管理職への興味が「ある」割合が高く、25~29歳の嘱託・派遣・契約社員では2割を超える。
管理職の女性に対しても同様に尋ねたところ、全体では「どちらともいえない」(56.8%)が最多で、「ない」(26.5%)、「ある」(16.8%)と続く。年齢別に見ても同様だ。また、管理職への興味が「ある」割合は、おおむね全ての年代で非管理職の女性を僅かながら下回る。つまり、管理職の立場にある女性であっても、必ずしも管理職に興味があるわけではない。むしろ非管理職の女性より興味が薄く、半数以上は迷いを抱えているようだ。
●属性による管理職への興味の違い~大学院卒や高年収、体力あり、キャリア志向が強いと興味あり
女性正規雇用者(非管理職)の管理職への興味について、学歴や本人年収、未既婚、子の有無、配偶者年収、実家や義理の実家との距離、母親のライフコース、体力、働き方や恋愛・結婚についての価値観(4)などの属性による違いを捉えた(5)。
その結果、管理職への興味が「ある」割合は、高学歴ほど高まる傾向があり、大学院卒(48.6%)では半数程度にもなる(図表4)。一方で、「ない」は短期大学卒(63.5%)で高く、「どちらともいえない」は大学卒(女子大)(35.8%)で高い。大学院卒の女性は、専門性の高さから、企業の事務職等と比べれば、研究職などの業務における性別役割分業状況(あるいは意識)の薄い業務に就く女性が多いために、キャリアを積み重ねていく上で自然と管理職への興味が高まるのだろう。一方で、短期大学卒の女性は、企業の一般職など男性総合職の補助的な業務に就くことが多いために、管理職への興味が薄いのだろう。
年収別には、管理職への興味が「ある」割合は、高年収ほど高まり、年収700万円以上では約3割を占める。高年収の女性では、男性と同様に働く中で、自然と管理職が視野に入るということだろう。
配偶者の年収別には、管理職への興味が「ある」割合は、配偶者の年収が700~1,000万円前後で高い。なお、当該層では管理職への興味が「ある」割合の高い年収700万円以上の女性が多い。
また、実家との距離については大きな違いはないが、義理の実家との距離については、同居している女性で管理職への興味が「ない」割合が高い。当該層では管理職への興味が「ない」割合の高い年収300万円未満の女性が多い。
母親のライフコースについては、母親が再就職コースや両立コースなどの働く母親コースであった女性は管理職への興味が「ある」割合が比較的高いようだ。なお、既出レポート(5)にて、母親も働いていた女性ほど、自分自身も働いており、母親の就労経験が影響することを確認している。
体力の程度については、管理職への興味は体力があるほど高まる。
働き方についての価値観では、何より「業績を評価してもらえるなら出世したい」や「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」というキャリア志向が強いと、管理職へ興味の「ある」割合は高い。また、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」や「女性の上司のもとで働くことに抵抗はない」という女性の権利重視志向や、「同じ会社で仕事を続けたい」や「仕事をするなら、やりがいより会社の安定性を重視する」という安定・保守志向も、管理職への興味を高める。
恋愛・結婚についての価値観では、「充実した人生のためには、何度結婚してもかまわない」というリベラル志向や「結婚相手を選ぶ際、相手の年収や職業はとても重要だ」という条件重視志向の強さが管理職への興味を高める。
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(4)働き方や恋愛・結婚についての価値観の因子分析の結果の詳細については、久我尚子「子育て世帯の消費実態~女性の働き方による違いに注目して」、一般社団法人社会文化研究センター調査補助事業報告書(平成30年8月)参照。
(5)これらの属性は女性のライフコース選択についての過去の分析において影響が見られたものである。久我尚子「女性のライフコースの理想と現実」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/11/27)、及び久我尚子「続・女性のライフコースの理想と現実」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/12/12)参照。