エストニア共和国、通称エストニア。バルト海に面した国土面積45,226㎞²(世界第129位)、人口132万人余りの国である。時代が進むとともに浮き出ている課題「ディスラプション(創造的破壊)」の先に、この北欧の国が築いた新しい「国家」は未来の社会へのヒントを示している。
エストニアのIDカード恩恵は非居住者にも届いている
エストニアは2000年代以降、住民登録や納税、教育、子育てなど、あらゆる行政手続きを電子化した。国民に付与されたIDカードで議会選の投票、預金残高や病院の受診記録など、すべてがインターネットで24時間完了できる。インターネットでできないのは、結婚・離婚・不動産の売買のみである。
また、IDカードは運転免許証や保険証を兼ね、欧州連合(EU)域内ではパスポート代わりにもなる。この恩恵はエストニア国民にとどまらず、非居住者も電子上国民になれる「e-レジデンシ制度」を2014年にはじめ、既に165ヵ国から5万人が登録し、6,600の会社が設立された。日本では安倍首相を含め2,500人が登録している。仮想国民も国民と同じく法人の設立・銀行口座を開設等も可能である。
「国家=領土」ではなく、「国家=データ」と定義したエストニア
エストニアが電子大国への道を急いだのは国家存亡の危機感からであると考えられる。地理的にエストニアは欧州とロシアの境に位置し、13世紀にデンマークからの侵攻を受け、ドイツやスウェーデン、ロシアによる支配が相次いだ。1918年にいったんロシアからは独立するも40年、再びソ連が併合し、独立を維持した期間はわずかである。2007年には世界初の国家を対象にした大規模なサイバー攻撃を受け、政府や銀行のシステムが一時ダウンしたこともある。
そんな中、エストニアは限られた人と金で新生国家を築く切り札として目を付けたのがブロックチェーンだった。個人や企業のデータ、取引記録などを中央集権型で管理せず、分散して管理する。これにより、外部からの攻撃に強く、改ざんはほぼ不可能とされている。政府や病院、企業などは必要に応じて限定されたデータにアクセスできるが、だれがいつアクセスしたかはすべて記録され、国民は自分のデータが閲覧された理由を政府に照会できる。また、不正アクセスに厳しい刑罰を科すことによって、透明性を確保している。
透明性の高い制度に魅了され、世界中の優秀な人材が起業を果たす。
エストニアの新興企業を調査・支援するスタートアップ・エストニアによると、現在550社のスタートアップ企業があるとのことだ。これらの投資額は2018年に約3億2,800万ユーロ(約410億円)と、5年前の10倍に拡大し、その9割が海外からである。通話ソフトのスカイプを筆頭に、国際送金を手掛けるトランスファーワイズ、配車アプリのタクシファイなど、エストニア発企業の活躍が目立っている。(提供:SBJ銀行)