研究を重ねて出来上がった「JASMINE よだれ鷄」
よだれ鶏といえば、スパイスの効いた特製ラー油と黒酢ベースの甘酢タレがかけられた料理だ。帰国して再現しようとした時、タレについてはすぐに出来上がった。しかし、油が納得のいく味がなかなかできなかったという。
「真っ赤だけど辛すぎなくて、いろんなスパイスの香りがするんです。なんとかあの北京で食べた中華料理屋のよだれ鶏のソースを再現しようと、温度を上げてみたり、入れるスパイスを変えてみたり。24歳のときから店ができる30歳まで6年ほど研究を続け、開く直前にようやく納得できるものができました」
また、『JASMINE』のよだれ鶏は、肉がプリプリと柔らかい食感なのが特徴だ。広東料理の技法を用いて前日に火を入れて仕込んでいるため、その食感が出せるのだそう。しっとり柔らかい食感は、チープな印象の鶏肉料理をワンランク上の料理に格上げしている。「このタレで餃子を食べたい」という客がいたことから、今ではよだれ鶏のタレで食べる餃子料理もあるそうだ。
来店する客の9割が注文し、全店で売り切れになることも
「JASMINE よだれ鷄」を店に出した8年前は、日本ではまだ「よだれ鶏」という料理を知らない人が多く、メニューとして出している店も無かった。初めて来店した人はその聞き慣れない料理名に、「鶏のよだれが入ってるんですか?」などと聞かれることもあったほど。元々よだれ鶏という名前がついたのは、“その料理のことを考えただけでよだれが出てくるほど美味しい”と中国の作家がある書物に書いたことが始まりだと言われている。
本店を開いてよだれ鶏を看板メニューにすると決めたときに、「オーナーからよだれ鶏を定食にするのはどうかと提案されたんです。料理人の私からすると、前菜であるよだれ鶏で米を食べるのは想像つかなかった」と山口さんは振り返る。
結局よだれ鶏をランチセットとして出したところ宣伝にもなり、今では客の9割が注文する名実ともに看板メニューとなった。昼はよだれ鶏の定食目当てに来る人が多く、常連からは「まだ今日よだれ鶏ある?」と電話がかかってくることもあるとか。夜は前菜として注文されることが多く、このメニューがあることで集客に繋がっていることは間違いないだろう。しかし、「正直、原価率は高いです」と山口さんは語る。
「原価率は3割なので安くはないですが、出卓数は95%とこれがあることで集客に繋がっています。本当は原価率が低くて出卓数の多いメニューが作れれば利益が上がるんでしょうが、なかなかそう上手くはいきませんね」
原価を下げるのか売価を上げるのか、どちらが客のためになるのかがジレンマだとも言う。
商品化や、チェーン店化など、今後の『JASMINE』の展開は?
人気商品だけに、商品化の話なども多いのではないだろうか。また、都内に4店舗あるが今後も店舗を増やしていくのだろうか。気になる今後を聞いてみた。
「商品化のお話をいただいたこともありますが、なかなか店舗と同じクオリティを担保できないので難しいですね。また人手が足りないので、これから店舗を増やしていくのも正直難しいです。初期の店の立ち上げメンバーが4店舗に散っている状態で、これ以上新しい店を出すとなると同じメニューを同じ味で出せないかもしれない。なので、もし今後店を出すとしたら、JASMINEの名前は使わないかもしれないです」
山口さんの料理に対する姿勢は、こんなに売れるメニューを作って、客が詰め掛ける人気店舗を作り上げても、なお一途の一言だ。こうした山口さんの料理への熱意があるからこそ、そのこだわりの味を求めて客が足を運び続けるのだろう。
『JASMINE憶江南』
住所/東京都渋谷区広尾5-22-3 広尾西川ビル1F
電話番号/03-5421-8525
営業時間/11:30~L.O.14:30、18:00~L.O.22:00
定休日/不定休
(提供:Foodist Media)
執筆者:西尾悠希