今でこそチェーン居酒屋のメニューで見かけたり、レシピサイトにも掲載されていたりと認知度が高まった「よだれ鶏」だが、『JASIMINE』の一号店である『中華香彩JASMINE広尾本店』をオープンする8年前には、「よだれ鶏」というメニューはまだ一般的には知られていなかった。それが、『JASIMINE』が名物メニューとして「よだれ鶏」を打ち出したことにより、みるみる世間へと広まり、現在では鶏料理には欠かせないメニューのひとつとなった。この名物メニューはどのように誕生したのか? 総料理長の山口祐介さんに話を聞いた。
『中華香彩JASMINE』は8年前に広尾で本店をオープン。その2年後には日本橋、その後中目黒、銀座と、現在では都内に4店舗を運営している。今回取材で伺った中目黒にある『JASMINE 憶江南』は、中目黒駅から徒歩10分ほど歩いた閑静な住宅街に佇む一軒家レストランだ。
お話を伺った総料理長の山口さんに広尾本店と中目黒の店舗の違いを聞いてみると、「初めての店舗なので失敗できなかった本店に比べて、中目黒の店は本当に作りたかった中国の江南料理をメインで出す店なんです」とのこと。江南地方とは、上海などの都市がある長江下流域のことをいう。素材を生かしたあっさりとした味付けの料理が多く、日本人にも受け入れやすいのだそうだ。
子どもの頃食べた中華料理の味に感動し、中華料理人の道へ
腕をオーナーに見込まれて、総料理長として『中華香彩JASMINE』の立ち上げから関わってきた山口さんなくしてこの店は語れない。独創的で斬新なこの店の料理の数々は、山口さんがいたからこそ生み出されたものだ。
「中学1年生の時に中華街でトンポーローを食べたところ、あまりの美味しさに衝撃を受け、それから中華の料理人を志すようになりました。その後調理師専門学校を出て中華レストランなどで働いた後、20歳の時に中国に短期の語学留学をしました。その学校を出たすぐのところにある評判の中華料理店で、一皿の料理に出合ったんです」
メニューに書いてある「口水鳥(日本名でよだれ鶏)」という料理はまだ日本で聞いたことがなかったが、興味があり注文してみることに。
「見た目は真っ赤だけど辛すぎないし、肉も柔らかくてうまい。とにかく感動しました。それから帰国して24、5歳の頃、ホテルに勤める傍ら、中国で食べたあの味を再現しようと、勤務後に同僚と毎日試作を作っては食べ、夜な夜な研究しました。そして30歳の頃に今のオーナーと出会って料理人として広尾に店を開くとなった時、ずっと温め続けてきた当時日本では知られていなかったその料理を、店の名物メニューにすることに決めたんです」