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『煮炊きや おわん』では家庭的なおばんざいが楽しめる(画像=Foodist Media)

社員に「働き方」の選択肢を与えることが大切

飲食店経営者の中には、「店を休んでいる間も家賃は発生するから、できる限り稼働率を上げたほうがいい」という人も多い。実際に柴田さんも同業者からも「なぜ土日休むのか」と聞かれることがあるそうだ。

「僕は100%の力で6日働くよりも、120%の力で5日働いて2日休んだほうがいいと思うタイプなんです。だいたい、1日くらいの休みでは疲れは完全にとれないので、6日働く場合、最後の一日は60%くらいの出力になっているはずなんですよ。それならしっかり休んだほうがいいのではないかと思います。それは価値観の違いです。仕事が生きがいで、自分を酷使してでも働きたい人はバリバリ働けばいいんです。でも、社員の働き方は会社が決めるのではなくて、その人に選択肢を与えてあげることが大切だと思っています。働き方の前に、『どう生きてほしいのか』を考える必要があるんですね。例えば、『onakasuita』では、本気で独立を目指す人がいるなら、資金の提供もしますし、店ごとあげてもいいと考えています。チャレンジできるマインドとスキルがしっかりしていれば、挑戦したほうが楽しいし、毎日の仕事を自分のこととして真剣にとらえるようになります。アイドルタイムに副業を可能にしているのも、どんどん挑戦してほしいという気持ちからですね」

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「社員の働き方は会社が決めるのではなくて、その人に選択肢を与えてあげることが大切」と語る柴田さん(画像=Foodist Media)

独立志向の強い人には会社として支援する一方で、子育てしながら働いている人にも、柔軟な対応をしているそうだ。

「うちは役員3人が結婚していることもあって、働くことと家庭はセットで考えています。例えば、妊活したいという人がいれば勤務日数や勤務時間を減らします。保育園からの急なお迎えの要請があれば、すぐに行ってもらって、お店は残りの人たちで回します。店内で社員の子どもが、宿題をしながらママの仕事が終わるのを待っていたこともありました。そういうことに理解のあるお客さんしか来ていないので、今まで一度もクレームが来たことがないんです。『子どもなんていたら仕事に集中できない』という人も多いですが、ヨーロッパでは子どもと一緒に仕事をしている人をたくさん見かけました。日本は仕事と家庭を切り離しすぎなのかもしれません。子どもがいるからダメ、ではなく、『お互い様だからいいよ』という感じでやっています」

女性は特に、結婚、出産といったライフステージの変化を受けやすい。今まで通り働けなくなったときに「やめる」という選択肢しかないのであれば、貴重な人材を失ってしまう。勤務形態を変えながら、長く続けるという選択肢を用意すれば、社員の働きやすさは格段に向上するだろう。

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「onakasuita」では独立志向の強い社員には、会社として手厚く支援する(画像=Foodist Media)

働きやすい環境を整えると、採用コストが0になる

「onakasuita」で人材を募集する際には、口コミや紹介ですぐに働き手が見つかるそうだ。そのため、採用コストは0だという。

「例えば、毎月採用コストを10万円かけている会社は、年間で120万円かかります。その分のコストを0にして、社員に還元しようというのが僕の考え方です。採用コスト0でいい人材が集まって、長く働いてくれたらそれだけで価値になります。人材がなかなか集まらない飲食店は、働き方に関するブランディング戦略や、マーケティング戦略が弱いのかもしれません。『うちの会社はこういうバリューを出していて、こんなビジョンがあるから一緒にやりましょう』という思いをちゃんと伝えられているお店が少ない気がするんです。例えば弊社であれば『土日・祝日休みの飲食店』ということを広く発信しています。勤務日数や待遇を書いただけのバイト募集に惹かれる人は、今の時代すごく少なくなっています。店としてどうしていきたいのか、働く人にどうなってほしいのかという気持ちをSNSやメディアできちんと発信していくことが大事だと思います」

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(画像=「会社としてのビジョンをしっかりと発信することが大切」だと語る柴田さん(画像=Foodist Media))

「onakasuita」が経営する飲食店は、各店舗に店長がいないというのも特徴だ。店の経営は、メニュー構成も含めて、現場の人たちに任せている。そのため、自分で考えて能動的に動くことがやりがいにつながっているようだ。しかし、世間の飲食店を見渡すと、顔に疲労の色がにじんでいたり、上からの指示待ちで作業的に仕事をこなしたりしているスタッフが多いように見受けられる。いったい何が違うのか聞いてみた。

「日本の飲食店は、トップダウンで指示を出すところは多いのですが、ボトムアップのような形で社員やアルバイトの意見が聞けているところはあまりありません。基本的には、経営者と働き手の考え方は乖離するものなのです。そこをいかにすり合わせる活動をしているかが重要です。僕らの場合は週一回、必ず全員参加のミーティングをします。そのときにたくさんのダメ出しが出るので、1、2週間以内にすべて解決します。そうやってPDCAを回していかないと何も起きないし、現場の人が働きづくなってしまうので。僕らの会社はボトムスアップ型で、顧客と働く人を最優先にしています。その下にミドルや経営者がついて、組織の中で支援をしているという立場です。お客さんのために何ができるかを店単位で考えていくこと。働きたくなる環境を自分で作れることが重要だと思っています」

スタッフが働きにくい会社というのは、不平不満がたまりやすく、突然の離職や、覇気のない接客を招きやすい。さまざまな人材がストレスなく働いていける環境を整えることは、長い目で見たとき、会社にとっても大きなメリットになるのである。

このインタビューで印象的だったのは、柴田さんが決して「従業員」や「人を使う」「雇う」といった言葉を口にしないことだ。繰り返し話してくれたのは「人そのものが価値である」ということ。社長一人が現場に出るならば、一店舗しか経営できない。「多店舗展開できるのは、その店を任せられる人たちがいるから」という、働き手に対する感謝の想いが伝わってきた。飲食店としての価値を提供しながら、働く人の人生を尊重する。そうすれば、多くの人から愛され、働き手が自然と集まる店になるかもしれない。

柴田雄平さん
1986年2月21日生まれ、埼玉県川口市出身。onakasuita 株式会社 、株式会社mannaka 代表取締役社長。埼玉県の高校卒業後、調理師専門学校に通い調理師免許取得後に海外へ家庭料理を学ぶ旅に出る。ヨーロッパ6カ国の一般家庭を中心に交流。 2013年onakasuita株式会社を立ち上げ、外食産業のマーケティング、大手外食・食品企業のプロモーション、ブランディング戦略、セミナー等を行う。外食事業部では門前仲町『おはし kitchen』、日本橋『煮炊きや おわん』を出店。2015年1月、「みんなのまんなかに・インターフェイスの役割を」をテーマに株式会社 mannakaを立ち上げ、企業と消費者の共創マーケティングに特化したプロモーション・経営・ブランド戦略を行う。

(提供:Foodist Media

(執筆者:三原明日香)