要旨
- 現在習慣的に喫煙している人の割合は、2017年度時点で17.7%(男性が29.3%、女性が7.2%)まで低下している。その原因の一つとして度重なるたばこ税の増税によってたばこ価格が上昇してきたことがある。本稿では、消費抑制の方策としてのたばこ税増税に焦点を当てて、さらに増税すべきかについて考察する。
- たばこ税は、国や地方公共団体の財源の確保(拡大)としての側面から度重なる増税が行われてきた。しかし、2010年度の税制改正大綱によると、「たばこ税については、国民の健康の観点から、たばこの消費を抑制するため、将来に向かって、税率を引き上げていく必要がある」との記載があり、たばこ消費の抑制に向けた増税という側面が強まったと見られる。
- 度重なるたばこ税の増税(たばこ価格の上昇)によって、2018年度のたばこの販売数量はピーク時の4割以下にまで減少しているが、たばこ税等の税収(国税と地方税の合計)は恒常的に2兆円を上回っている。これは、たばこの価格弾力性が小さいため、増税に伴う価格の上昇率ほど、販売数量が減少しない一方で、税収が減少するとも限らない(場合によっては増加する)。すなわち、増税の規模やペース次第では、税収の拡大とたばこ消費の抑制の両立が可能であることを示している。
- たばこの税負担と小売価格について国際比較すると、日本は税負担が相対的に重いとは言い難く、小売価格に至ってはOECD加盟36ヵ国で最も安い。また、先行研究におけるたばこがもたらす社会的便益(税収等)と社会的損失(医療費の増大や労働力の損失等)を比較すると、損失が便益を上回っている可能性が高い。以上の2点から現行のたばこ価格は適正とは言えず、さらなる増税が望ましい。
- ただし、たばこの消費抑制の方策は増税だけではない。日本のたばこ対策はWHOによって不十分と評価されており、特に「マスメディアによるたばこの危険性に関する知識の普及」、「たばこの広告、販促活動等の禁止要請」などは最低評価となっている。さらなるたばこ消費の抑制に向けて増税以外のたばこ対策についても十分な議論が行われることを期待したい。