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一本一本にこだわりが詰まった焼鳥料理(画像=Foodist Media)

社員の夢を叶え、そして外食産業の地位向上を目指す

企業理念は発信するだけではなく、それを組織に共有し浸透させることが重要だ。同社でも業態変更時、社員をはじめとする周りのスタッフたちと話し合い、理念を共有し足並みを揃えていった。その状況について狩野氏は次のように話す。

「業態を変えるとき、僕は『東京しゃも』という鶏を使いたかったんです。だけど今は生産者が4名しかいません。その希少なしゃもを手に入れるため、奮闘してくれたのが『月山』の店長の齋藤です。しゃもを取り扱っている料理店に何度も頭を下げに行ってくれて、仕入れ先を紹介してもらいました。僕も現場に出ているので、まわりは毎日僕の背中を見ている人間ばかりです。どちらかというと僕は社員の夢のために全力でがんばって、社員は僕の夢のためにがんばってくれています。だからこそ、そこをもっと向き合ってやっていく。そうすれば余計なことを話さなくても芯として理念が共有できているので、今回のように誰かが1羽の鶏を見つけてきてくれます。それが出来たとき、次のステップに行けるという実感を持つことができましたね」

『ろんど』の業態変更を通して、「肝胆相照」の言葉通りの関係性がさらに力強く成り立ったのだ。

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人、モノといった狩野氏が大切にしているものが集う『ろんど』の店内(画像=Foodist Media)

狩野氏が志すのは社員の夢の実現だけにとどまらない。打ち出す戦略の根底にあるのは、外食産業の価値向上への挑戦だ。客単価2,000円の焼鳥屋が多数ある三軒茶屋で、当初、『ろんど』は「絶対に流行らない」と周囲から批判された。それにもかかわらず客単価6,000円という高単価で成り立たせ、その他に6店舗をドミナントで展開している。そこには狩野氏の思いに紐づいた攻めの戦略がある。

「外食産業の価値を向上させる一つのテーマとして、外食産業自体の単価を上げる必要があると思っています。世界基準の金額にもっていけるように焼鳥でも単価は7,000円から8,000円。その代わりめちゃくちゃこだわるし、いろいろなストーリーや思いが乗っかっていないと、もちろんその金額は取れません。そうした次の外食産業を指し示すモデルケースに和音人がなれれば、外食産業の未来もつくっていきやすいのかなと思っています」

それを実現させる力が同社にはある。自社の強みについて、狩野氏はこう話す。

「上場企業や老舗の大衆酒場はたくさんあります。そこと戦うとなるとリスクが相当高いです。僕たちはドミナントというより、一等地の富裕層を囲い込む施策を取っています。出店エリアを三軒茶屋にしたのは、それが一番実現しやすかったからです。カウンターや個室などの店舗デザインにこだわり、富裕層の方が幅広いシーンで使えるようにする。忙しい店に人材を流しやすくして無駄な人件費が省く。こうした工夫を重ねて、三軒茶屋で勝ち残ってきました。そもそもロープライスのプレイヤーは三軒茶屋にはいっぱいいました。しかし、ミドルアッパー層をターゲットにしたプレイヤーはいません。だから僕たちのような無化調で野菜の種までこだわっているというストーリーを持ったプレイヤーが入ってくると、勝手にブルーオーシャンがつくれるのです。そうなるとエリアのマーケットシェアの40%位は取れます。それが僕たちの強みです」

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(画像=飲食の現場はもちろん、生産の現場にも足を運び、外食の価値向上を目指す(画像=Foodist Media))

次世代エースが見据える外食産業の未来と自身のこれから

外食産業の価値向上、そして未来のために第一線で挑み続ける同氏に、外食産業の伸びしろについて尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「伸びしろはとてもあると思います。今、僕がやっている仕事は、5年後には客単価3万円になっているのではないでしょうか。そうじゃない仕事はAIが全部やってくれるので、今、どっちを選ぶかなんです。今日、チェーンオペレーションでやっている企業やメガチェーンなど、それを考えていない人たちは絶対に生き残っていけないでしょう。シンギュラリティ(AIが人類の知能を超える転換点)が起こるのは間違いないし、AIで外食には確実に革命が起こります。その中でうちは人の力でしかできないことに最初から特化しているので、そうした未来を考慮していない人たちには負けないと思います」

産業の将来性に希望を抱く一方、同時に感じている不安もある。狩野氏は「僕の会社はもともと対策ができているのであまり心配はしていないのですが、もうすぐそういった時代が来ることを外食産業の人はあまり知らないので、それが不安です」と話す。

こうした外食産業の現状に対する危機感から、若い世代に情報を共有できる場所を作ろうと「次世代外食オーナーズクラブ 外食5G」という協会を立ち上げた。代表幹事として産業の未来について話したり、他産業からゲストを招いて講演をしてもらったりして、産業が生き残るための活動・情報発信を積極的に行う。

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狩野氏自身、さまざまば場所で講師などを務めており、そうした活動が「外食5G」にもつながっている(画像=Foodist Media)

そんな外食産業の未来のために奔走する日々を送る同氏に、今後のビジョンについて語ってもらった。

「まずは、『ろんど』をさらにステップアップさせた店を作りたいですね。10席くらいの小さな店にして、僕がもっとお客様と話ができれば、さらに色んなストーリーを伝えられるでしょう。そういうオーナーシェフとしての店を作ることは間違いないです。また、今、商工会とやっているアンテナショップのほか、養鶏にも関わるなど、生産者の方を守っていけるような事業を作るモデルケースに僕たちがなれればと思っています。そして、社会貢献事業と若手を育てる『外食5G』を立ち上げたので、とにかく若い経営者とちゃんと話していきたいですね。こういった話をする人は今、外食産業で一人もいません。責任を持って僕が若い子たちに伝えて、『じゃあみんなでどこを目指していこうか』という方向性を打ち出していきたいと思っています」

「ゆくゆくは現場にスポットがあたる時代になっていく」と語る狩野氏。社員教育の中で若手に伝えているのは、「お前らはこれからスーパースターになる、その準備ができているのか」ということ。生産者にスポットライトが当たるようになるには、まずは現場に立つ自分たちにスポットライトが当たるようにならなければならない。その自覚が現場の人間に必要だと説く。

つまるところ、「客のため、仲間のため、そして次世代のため」が、巡り巡って自分のためになっている。ここ、三軒茶屋から聴こえる「ろんど(輪舞曲)」は、この先も鳴りやむことはないのだろう。

『華舞㐂屋 ろんど』
住所/東京都世田谷区太子堂4-22-14
電話番号/03-6805-5959
営業時間/月~土18:00~25:00(FOOD L.O.24:00、DRINK L.O.24:30)、日曜17:00~24:00(FOOD L.O.23:00、DRINK L.O.23:30)
定休日/月曜 ※不定休の場合もあり
席数/22

(提供:Foodist Media

(執筆者:河田早織)