1店舗でもM&Aで取引できる
M&Aの取引価格は収支、資産内容、業態の稀有さ、その他様々な要因を加味して試算されますが、取引金額に加減はありませんので、数十万や数百万といった取引も対象になります。しかしながら、M&Aの取引価格の大きさに比例して仲介役を務めるM&Aアドバイザーの報酬が決まることから、取引価格の小さな案件が積極的に市場に出ることはありませんでした。そしてそれが飲食業界においてM&Aが活発化せず、居抜き物件の売買が浸透した一つの要因なのです。
しかし現在はどうでしょうか? 少なくとも当社が小規模案件に積極的に着手し、飲食業界に一定の知識とネットワークを有して取り組んでいると、年々案件数は増加する一方です。需要はほかの産業をはるかに超えると、私自身実感しております。最近の当社で成約した売却案件の一例をご紹介します(表参照)。
1店舗での取引事例が多いことがお分かりかと思います。これらは1店舗のみ経営している会社もありますが、複数店舗を経営している中で、業態の異なる1店舗だけを事業譲渡で切り出し売却、残る既存店舗を引き続き経営している事例もあります。飲食店M&Aでは、事業の一部分だけを売買する「事業譲渡」のスキームをとり、1店舗だけ、2店舗だけ売買を行うといったケースも多いのです。
M&Aは物件のように表に情報が出回ることはないため、目にする機会は少ないかと思いますが、このように1店舗~10店舗のいわゆる小規模案件のM&Aによる売買が、昨今では非常に積極的に行われています。
M&Aで始める飲食店開業の魅力
では、M&Aで飲食店を開業することと、イチから開業することの違いは何でしょうか? 最大の魅力としては、居抜き物件の売買とは違い、営業中の店舗をそのまま引き継ぐことができる点にあります。実際に営業している店舗を顧客として訪問でき、なおかつ開示される損益実績や従業員名簿等の資料から、購入後のプランニングをすることができます。
また、売却理由として多いのは「スタッフの採用が大変」「本業に集中するため」「後継者がいない」「赤字で経営が苦しい」などです。買収の目的によっては、マイナスに捉えられる要素もプラスに作用することも少なくありません。たとえば、自社で出店を強化したい業態を持っている会社は、その業態に適した立地店舗であれば赤字の店舗でもOKという考え方があります。
また、人が不足して出店が困難な会社は、M&Aによって社員、アルバイトをそのまま引き継ぐことができ、採用コストが軽減できるうえにそのまま店舗経営が可能になります。つまり、売主の課題と買主の強みが上手くマッチングすることによって、飲食店M&Aは売り手にも、買い手にも大きなビジネスチャンスとなってきます。
飲食店ならではのM&Aにおける留意点
飲食店M&Aには他の業態とは異なる知識が必要になります。まず1つ目に月次損益表の見方や、賃貸契約書をはじめとした各契約内容、業態の優位性など、飲食店ならではの案件視点です。
2つ目に、家主や従業員、取引先への告知のタイミング、承認方法など、引継ぎの組み立て方です。店舗型のビジネスにおいてはうまく引継ぎができるかどうかは案件価値を大きく左右する重要なポイントになってきます。
どのような段取り、タイミングで、何をすべきか、双方に不利益が生まれないように注意すべき点はたくさんあります。これらをM&Aアドバイザーが理解しサポートできないと、譲受後にトラブルになるケースも少なくありません。
以上の点に留意をされながら、M&Aを検討されるとよいのではないかと思います。
株式会社ウィット 代表取締役・三宅宏通氏
2005年UFJ銀行に入行(現・三菱東京UFJ銀行)。上場企業を中心とした融資担当、アシスタントとして活動。2007年に飲食業界に特化したM&A仲介業、人材紹介業を目的にウィットを設立。飲食業界を専門とした仲介サービスの事業者はほとんどなく、毎年問合せ件数、成約件数を伸ばし続けている。
提供:Foodist Media)