はじめに

6月下旬のリスクが高まっている。弊研究所は定性分析と定量分析を重ね合わせて将来の展開可能性を模索している。後者の定量分析ではアライアンス・パートナーから提供を受けた計算エンジンを基に金融指標が将来上昇するのか下落するのかを相当の精度で分析している。それを見ていると、6月下旬にリスクが顕現化される可能性が生じているのだ。

そこで非常に注目してきたのが、中国である。前回の拙稿では中国・ポルトガル関係について触れたが、それもこれに関連してきたものである。同稿でも触れたようにパンダ債の発行を行ったからである。今回も敢えて中国に触れるのは、ここにきて「習近平失脚説」が“喧伝”され始めたからだ。

中国について言及するのは、実は習近平政権の行方だけが理由ではない。中国共産党の放逐という可能性が徐々に生じつつあるからだ。本稿は、揺れ動く中国情勢をよりマクロな視点から分析する。

傾く中国共産党 ~何が起きているのか~

中国を巡っては米中貿易摩擦が長期間にわたり問題になってきたことは読者にとって周知の事実である。レアアースの禁輸すら“喧伝”し始め、いよいよ行きつくところまで行った感がある。

それとは別に2つ問題が生じてきた。天安門事件30周年であり香港における暴動である。天安門事件30周年を巡っては中国政府当局が中国国内から同事件に関するWikipediaへのアクセスを禁止しており、米欧からの批判が高まっていた。他方で、香港での暴動を受けて、たとえば米国において一部連邦議会議員が香港の貿易特別パートナーという地位をはく奪する法案を準備している旨、“喧伝”されている。また台湾政府は学生らを支持する旨公表している。これらを踏まえると、香港というよりは中国共産党とそれに協力する香港政府に対する批判が高まっているという訳だ。

(図表1 天安門事件の様子)

図表1 天安門事件の様子
(画像=National Security Archive)

旧宗主国である英国でも、最後の総督であったクリス・パッテン元香港総督が「民主主義なき自由」とこの事件を受けて現在の香港政府を批判している。なお、その回顧録を読むと目に付くのだが、同総督は香港における民主主義のビルトインを再三強調してきたのだという。

このように2つの爆弾を抱えており、前者はともかく後者は爆発している訳であるが、そもそも中国共産党を巡っては習近平政権以来、非常に不可解な政争があったことをここでは記しておきたい。それは毛沢東の孫である毛新宇の趨勢である。

毛沢東は自身の次男(毛岸青:毛新宇の父親)を冷遇してきたことが知られており、終生毛沢東との仲は良くなかった。この毛岸青はモスクワで学ぶに当たって張学良からの支援を受けるなど、これもまた不可解に見える行動を取ってきたことも知られている。

毛新宇も生前の毛沢東は一度も会わなかったことが知られており、血統を除くとその正統性については留保があったと言える。その毛新宇は2017年9月に第19会党大会代表に落選した。更には昨年(2018年)4月には「毛新宇・死亡」が報道され、一部に衝撃を与えたのだ(なお5月になると公共の場に姿を現した旨報道されている)。中国のみならず東アジアでは血統がその正統性を示す大きな根拠となされてきたが、毛沢東というイコンの“継承者”である毛新宇を巡って死亡説が流れること自体、非常に不可思議なものである。

ここでは詳細を触れることが出来ないが、習近平の躍進と毛沢東には非常に深い関係があるとの非公開情報があり、それを踏まえるとこの毛新宇の失脚には非常に大きな意義がある。すなわち、習近平の「正統性」がこれで保障されたのである。それがここにきて大きく揺さぶられているというわけだ。

おわりに ~「中国×仮想通貨」の再燃可能性~

中国_仮想通貨
(画像=Lukasz Stefanski / Shutterstock.com)

偶然であると批判されかねないのだが、天安門事件は平成バブルの最中に生じてきた。この歴史的相似性を踏まえたとき、中国に対する、また中国における締め付けは何を意味するのだろうか。

言うまでもなくカントリー・リスクの上昇は「キャピタル・フライト(資産逃避)」を惹起する。ウイグル問題を受けてアラブ諸国が中国を批判している中で、米欧アラブが撤退する事態となれば大きな問題となる(もっとも前述したように、ポルトガルといった抜け道がいることも忘れてはならない)。しかし、外国人の逃避よりも中国人自身の逃避を注意すべきであるというのが卑見である。その先として注目すべきは「仮想通貨」である。4月末からの仮想通貨マーケットにおける急上昇も中国人の逃避が大きなインパクトを与えたという。それが再燃する可能性に注目しておきたい。

定量分析上、6月下旬に仮想通貨マーケットが軒並み上昇を始める可能性が生じている。6月28日から29日のG20においては米中首脳会談がある可能性が報道されており、これに先立ち中国を巡り問題が生じる可能性がある。そのような中で、「習近平失脚説」が“喧伝”され始めたことは非常に示唆的である。すなわち、中国リスクが仮想通貨マーケットに再びポジティブ・インパクトを与えかねないのである。

もちろん、失脚説も包含して、すべてがマーケットにおいてボラティリティーを醸成するための“演出”である蓋然性も高い。いずれにせよ中国と6月下旬というタイミングに要注目であることをここで強調しておく。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。