前回までのまとめ
「つくばエクスプレス」の開通に伴う秋葉原の変革によりオタクの街に変化が
メイドカフェが大衆化・観光スポット化し、オタクの通いづらい場所に

オタクのための「アキバ」から幅広い「アキバブーム」へ

現代消費文化,オタク
(画像=PIXTA)

2005年、「オタクの街」や「電気街」としてのイメージが強かった秋葉原が、観光地化したターニングポイントを迎えた。『電車男』『AKB48』「萌え」の注目によりオタク文化の中心である秋葉原がメディアによって晒された結果、若者を中心に幅広く関心がもたれるようになった。また、今では耳なじみのある「クールジャパン」という言葉が生まれたのも2002年であり、海外からの日本のサブカルチャーを始めとしたソフトパワーに注目が高まっていたころである。余談ではあるが現在クールジャパンとして人気を博している『ワンピース』や『NARUTO』、『遊☆戯☆王』といった人気漫画の連載が始まったのも2000年前後であり、日本の漫画やアニメが世界に向けて(特に欧米)発信され始めた時期でもある。

「つくばエクスプレス」

2005年は、秋葉原とつくばを繋ぐ「つくばエクスプレス」が開通し、インフラもさらに整った。これにより千葉・茨城からのアクセスが良くなった(1),(2)。つくばエクスプレスは秋葉原からつくば間を最速45分で結んでおり、一日あたりの輸送人員は2005年度の15万人から2009年度の27万人へと順調に成長していた。当初は開業20年での目標にしていた単年度黒字化も2010年3月期決算で達成するなど業績も安定していた。この成功の背景には、もちろん沿線のマンション・住宅建設が進んだことと秋葉原地区の就業者人口が増えたことにより通勤客が増加したことが挙げられるが、それ以上に、定期券を使用しない輸送人員は35%占めており、秋葉原への観光目的に使う層が多かったことを示している。

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(1)『アキバが地球を飲み込む日 秋葉原カルチャー進化論』 東洋経済新報社 (2007)より。
(2)週刊ダイヤモンド (2010年9/25号)より。

「買い物もグルメも恋人も私は断然AKIBA系!」

2005年の「アキバブーム」以降、非オタク層や地方在住者にとって、アキバは近寄りがたいオタクの街ではなく、都内で最も流行のスポットへと変わった。これを機に秋葉原へ誘致するターゲットが幅広くなっていく。その中でも首都圏在住20代から30代の女性をターゲットにした雑誌『Hanako』での特集は面白いケースの1つである。『Hanako』といえば発行部数毎号10万部を超える人気雑誌であり、オイシク、オシャレをモットーに「代官山」、「自由が丘」、「中目黒」といったいわゆるおしゃれな街のグルメや美についての情報を提供している。その『Hanako』が2006年11月9日号で「買い物もグルメも恋人も私は断然AKIBA系!」という特集を組んだ。この背景には世界的に人気のあるアニメやマンガの「萌え」に対する偏見を改めてもらうことや、秋葉原が家電のメッカで、関連部品を買いに来る当時話題だった「理系男子」もたくさんいるよ!と、秋葉原に女性が行きやすい風潮を作ることが目的だったようだ。

世界のAKIBAへの道のり

今では秋葉原は訪日客の人気の観光スポットであることは周知の事実であるが、秋葉原への誘致を活性化するために様々なイベントも行われてきた(3),(4)。2007年度のビジット・ジャパン・キャンペーン中核事業の一環として国土交通省は、2007年1月、外国人旅行者を迎える強化月間「Yokoso! Japan Weeks2007」のオープニングセレモニーをアキバ・スクエアで行った。秋葉原がイベント会場に選ばれた理由は、外国人に良く知られた街で先端技術が集結しアニメがある街だからだ。

アキバが外国人にとっての観光スポットに育つまでも様々な取り組みがあった。例えば、秋葉原新発見ツアー」(5)は訪日外国人を対象に秋葉原の主要観光スポットを無料で案内するツアーで、先端技術が集結する「電気の街」の側面とアニメを始めとした「ポップカルチャーの集積地」の側面をもつアキバを約3時間で巡るという、アキバ観光ツアーの先駆けであった。

2008年に発表された訪日外国人旅行者に対して行った「都市・観光地別訪問率ランキング」(6)を見ると「秋葉原」 は、男性8位であった。(ちなみに女性の8位は東京ディズニーリゾートでした。)

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(3)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/index.html 外務省広報文化外交ページ。
(4)『アキバが地球を飲み込む日 秋葉原カルチャー進化論』 東洋経済新報社 (2007)より。
(5)日本ツーリズム産業団体連合(TIJ)によって企画運営
(6)独立行政法人国際観光振興機構(日本政府観光局: JNTO)による2006年から2007年にかけての調査。https://www.jnto.go.jp/jpn/downloads/080205_houmonchi.pdf

現代消費文化,オタク
(画像=ニッセイ基礎研究所)

オタクという「見世物パンダ」

アキバに行きやすくなったことや、観光地としての成長は、オタクにとっては、望ましいものではなかった。今までアングラの地として誰も近づかないからこそ、オタクは人の目を気にせずアキバに向かい、周りのオタクたちと「誰もわかってくれなくていい、自分がわかればいい」という価値観を共鳴させていた。そこへ、アキバ文化やオタク自身を「見世物パンダ」としてたくさんの観光客やメディアが押し寄せてきた。

もちろんオタクは多様化しているし、今でもオタクを自称する人がアキバにいることは否定はしないが、あのころのような秋葉原はもう戻ってこないんだなと思うと、オタキング(オタクキング)と呼ばれる岡田斗司夫が「オタクはすでに死んでいる」(7)と主張するのも納得してしまう。

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(7)岡田斗司夫(2008)『オタクはすでに死んでいる』新潮新書

廣瀨 涼
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
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