●堅調な設備投資にも変調の兆し
高水準の企業収益を背景に設備投資は堅調を維持しているが、ここにきて変調の兆しも見られる。日銀短観2019年6月調査では2018年度の設備投資実績(含むソフトウェア、除く土地投資額)が前年度比6.0%(全規模・全産業)と2006年度(同7.9%)以来の高い伸びとなったが、3月調査からは▲4.1%の大幅下方修正となった。また、2019年度の設備投資計画は当初計画(3月調査)から1.7%上方修正され、前年度比6.3%と底堅さを維持したが、同時期(6月調査)の2017、2018年度の伸びは下回った(図表10)。
6月調査は前年度の計画が下方修正、当年度の計画が上方修正される傾向があるため、過去の6月調査の修正率と比較すると、前年度は「含むソフトウェア、除く土地投資額」の設備投資計画調査が始まった2004年度以降では最大の下方修正幅、当年度は過去3番目に低い上方修正幅となった(図表11)。輸出の減少や企業収益の悪化を受けて、製造業では2018年12月調査以降、設備投資計画の先送りが続いているが、上方修正が続いていた非製造業も2019年6月調査では▲5.1%と過去最大の下方修正幅となった。
企業収益の悪化や景気の先行き不透明感の高まりなどから、設備投資の回復には陰りがみられる。人手不足対応の省力化投資など景気循環に左右されにくい需要は引き続き旺盛であるため、設備投資が大崩れする可能性は低いとみられるが、企業収益が悪化している製造業を中心に設備投資の牽引力が徐々に低下することは避けられないだろう。
●厳しい外部環境
2016年から2017年にかけて景気の牽引役となっていた輸出は2018年後半以降、中国をはじめとした世界経済の減速、グローバルなIT需要の減退を背景に弱い動きが続いている。前回増税前も輸出は低調だったが、消費税率が引き上げられた2014年度入り後に急回復した(図表12)。
その背景には世界経済が緩やかな回復基調となっていたことに加え、日銀の異次元緩和の効果などから為替が大きく円安に振れたことがある。2014年度の外需寄与度(GDP統計)は前年比0.6%のプラスとなり、内需の落ち込み(前年比・寄与度▲1.0%)を一定程度カバーした。
しかし、足もとの輸出環境は前回増税時に比べて非常に厳しい。まず、世界経済が製造業を中心に調整局面に入っていることもあり、世界の貿易取引は縮小している。オランダ経済政策分析局が作成している世界貿易量は2017年中には前年比4~5%程度の高い伸びとなっていが、2018年後半以降伸び率が大きく低下し、足もとではマイナスに転じている(図表13)。
また、為替の動きが前回増税時と大きく異なっている。前回増税時には増税3年前を起点にすると、日銀の異次元緩和を背景として増税前に2割以上円安が進行した後、増税後には円安が加速し、さらに2割以上円安が進んだ。足もとのドル円レートは一進一退で推移しているが、米国で利下げが実施される可能性が高い一方、日銀の追加緩和余地が限られることもあり、大幅な円安が進む可能性は極めて低く、円高が進行するリスクもある。少なくとも為替が輸出の追い風となることは当面期待できないだろう(図表14)。
●2019年度後半に内外需総崩れのリスク
ここまでみてきたように、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響はそれ自体ではそれほど大きくならないだろう。ただし、景気の基調は総じて前回増税前よりも弱く、個人消費を中心に増税に対する耐久力は低くなっている。また、輸出を取り巻く環境は前回増税時よりもかなり厳しく、先行きも大幅な改善は期待できない。
現時点では、グローバルなITサイクルの調整が過去平均並みの1年半程度で終了し、2019年後半には底打ちすることを想定しており、日本の輸出も情報関連財を中心に2019年後半には持ち直すことを見込んでいる。ただし、ITサイクルの底打ち時期については不確実性が高いこと、米中貿易摩擦が一段と激化する可能性があることから、輸出の低迷は長期化するリスクがある。輸出の回復が遅れれば、2019年度後半以降の日本経済は内外需総崩れとなり、景気後退の可能性が高まるだろう。
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任
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