要旨
NYダウが史上初めて2万7,000ドルを超えるなど米国株は順調に値上がりしたが、そろそろ息切れしそうだ。米国企業の業績見通しが悪化傾向にもかかわらず、株価上昇が若干スピード違反だった。円高も重なり日経平均は一時的に2万1,000円割れとなった。
米国の主要3指数は史上最高値を更新
7月上旬、NYダウなど米国の主要な株価指数が揃って史上最高値を更新した(図表1)。6月末のG20に合わせて開催された米中首脳会談で「貿易協議を再開する」と合意したため市場心理が改善したこともあるが、株価上昇の主な要因は2つだろう。
ひとつは米FRB(連邦準備制度理事会)が7月末に政策金利を引き下げる(景気拡大を維持するため「予防的利下げ」を実施する)見通しが強まったこと、もうひとつは予想EPS(1株あたり予想利益)が増加傾向にあることだ。図表2のとおり、S&P500ベースの予想EPSは昨年暮れから今年1月にかけて世界的な景気減速懸念などで大きく減少したが、2月以降は上昇に転じ、直近では昨年10月の株価急落前の水準を上回った。これが米国株高を支えている。
米企業の業績は悪化の見通し
一方、米国企業の業績は悪化が見込まれている。今週から決算発表が本格化した2019年4~6月期の純利益(主要500社ベース)は前年同期比2.3%の減益が予想されている。しかもこの予想は日々更新されるが、7月以降、日を追うごとに見通しが悪化傾向で、2四半期連続の減益が確実視される。7~9月期、10~12月期の見通しも同様に下がっており、業績への警戒感が意識されやすい。
自社株買いも株高を演出
業績が悪化する見通しにもかかわらずEPSが増加傾向というのは、ちぐはぐな関係に思えるだろう。もちろんカラクリがある。自社株買いだ。主要500社が実施した自社株買いの金額は、昨年後半以降も高水準が続いている(図表4)。
企業が自社株買いを実施すると、発行済株式数が減ったものとして扱うため、利益自体が変わらなくても計算上はEPSが増える。つまり、大規模な自社株買いがEPSの増加を通じて米国株上昇を演出した面もある。
しかし、米中貿易摩擦や世界景気の減速懸念が燻っており先行きは楽観できない。仮に業績が予想以上に悪化することがあれば自社株買いの規模縮小を余儀なくされることも考えられる。その場合、業績の悪化に加えてEPSの伸び鈍化が意識されて、米国株にはダブルパンチとなりかねない。
そもそも、米国株は割高が意識される水準
自社株買いの影響もあってEPSが増加したとはいえ、最近の米国株上昇はややスピード違反のようだ。株価の割高/割安をみるPER(株価収益率)は17.2倍まで上昇した(図表5)。これは、昨年10月や今年5月に米国株が急落する直前の水準を超えており、いつ米国株の調整局面が訪れてもおかしくない状況だ。
もっとも、教科書的には(FRBの利下げによって)金利が低下すれば高いPERが許容される。しかし、現実は教科書通りとは限らない。FRBが前回、予防的利下げを実施した1998年は、利下げの初期段階はPERが下がった(図表6)。最終的には1999年~2000年のITバブルに突き進んだ点は教科書通りともいえるが、予防的利下げの初期段階では利下げによる効果よりも業績悪化の方が強く意識されやすいためと考えられる。
98年は予防的利下げの初期段階でPERが0.6倍ほど下がった。経済状態やPERの水準が異なるものの、現在のNYダウに単純に当てはめると800~1,000ドル下落する計算だ。仮に米国株が急落すれば日本株も無傷ではいられない。日経平均は一時的に2万1,000円割れとなる可能性もあるだろう。
といったことを「東京マーケット情報」(7月12日、NHK-BS1)、「日経プラス10」(同16日、BSテレビ東京)、「Newsモーニングサテライト」(同18日、テレビ東京)で話した。その後このレポートを執筆している7月18日の取引時間中に日経平均は一時2万993円まで下落し、実際に2万1,000円を割り込んでしまった。筆者の想定より数日早い。
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井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任
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