6月28日、鳥取県議会は「鳥取県農作物種子条例案」を可決した。昨年4月1日、「主要農作物種子法(種子法)」が廃止となって以降、これに代わる独自の条例を制定、施行した都道府県は11都道府県におよぶ。9月には宮城県、栃木県の県議会が条例案の審議入りを決めており、岩手県議会も条例制定に関する請願を採択済みだ。
種子法の制定は1952年に遡る。国は米、麦、大豆の増産を目的に、種子の計画的な生産と新品種開発を都道府県に義務付けた。農家は安価に、安定的に種子を入手することが可能となり、これが戦後の食糧生産を支えた。
しかし、供給不足は既に解消しており、需要構造も変わった。内需の成長に限界が見え、生産者の高齢化も進む。TPPなど市場開放圧力も強まる。こうした中、2017年から2018年にかけて農業の競争力強化に軸足を置いた法改正が一挙に進む。種子法の廃止はその一つであり、種子ビジネスへの民間参入を促すことが狙いである。
とは言え、種子ビジネスへの民間参入は1986年の種子法改正で可能となっており、大手肥料メーカーや商社が既に市場参入している。では、もう一段の規制緩和の意味はどこにあるのか。目指されているのはゲノム編集やRNA干渉法など最先端のバイオテクノロジーとIoT、AI(アグリインフォマティクス)によって最適化されるスマート農業、そして、知財戦略の強化による国際競争力の向上と言えよう。
こうした流れは従来、都道府県の管理下にあった、言わば“公共財”としての種子の性格を “資本財” へと変える。日本は今、交渉中のRCEP協議において「品種開発者の権利保護を定めたUPOV(ユポフ)条約の批准を加盟条件とすべき」との主張を展開している。広域経済連携協定における知的財産(=育成者権)の保護強化は必然であり、育成者権が認められた品種の自家採取を禁止する種苗法の改正もその延長にある。
一方、育成者権を特定できない在来種や固定種の扱いは従来どおりであり、自家採取も流通も規制されない。つまり、品種の“流出リスク”が高いまま取り残されるということであり、結果、ブランドとしての商品価値を維持できなくなった品種は “市場” に飲み込まれかねない。
種子法が廃止されたその当日、「埼玉県主要農産物種子条例」を施行した埼玉県は種子法にはなかった「在来種の生産と維持を県が支援」する規定を条例に盛り込んだ。
冒頭に記したとおり種子法の代替条例を施行する動きは全国的なものとなりつつある。しかし、単なる旧法の “原状回復” では農業の未来は見えてこない。農業の国際競争力と地域社会の担い手としての農家をどうバランスさせるか。地域が育ててきた固有のブランドをどう守るのか。生産者の所得向上や産業としての農業振興はもちろん、食の安全、種の多様性、地域社会や地球環境など多面的で複合的な視点からあらためて種子管理制度の在り方を考えてゆきたい。
今週の“ひらめき”視点 6.30 – 7.04
代表取締役社長 水越 孝