夫婦二人の老後に必要な資産を考えるなら、夫婦の一方が早世した場合の影響も考慮した方がいい。というのも、夫婦の一方が亡くなった後は世帯人員低下により一人当たりの生活コストが割高になるため、公的年金受給額の減少ほどには生活にかかる費用が減少せず、より多くの資金を取り崩す必要が発生するのが一般的だからだ(1)。ここで考慮すべきは、税負担や社会保険料負担の影響である。老齢厚生年金を受給する高齢者が亡くなった場合、その配偶者が遺族厚生年金を受給できる場合があるが、この遺族厚生年金は非課税であるという点に留意しなければならない。

年金,健康管理
(画像=ニッセイ基礎研究所)

所得税法第九条で定める非課税所得の一つとして、恩給、年金その他これらに準ずる給付のうち、遺族の受ける恩給及び年金(死亡した者の勤務に基づいて支給されるものに限る)が掲げられている。税務大学講本 所得税法(平成30年度版)において、非課税所得はその趣旨によって6つに分類されており、遺族の受ける恩給及び年金は、非課税の趣旨が「社会政策的配慮(担税力)に基づくもの」のグループに分類されている。

最初に、共に老齢厚生年金を受給する夫と老齢基礎年金のみ受給する妻を前提に、夫の老齢厚生年金受給額が異なる2夫婦を比較する。一方は夫の老齢厚生年金受給額が月額12万円で夫が妻より先に亡くなる場合、他方は夫の老齢厚生年金受給額が月額9万円で妻が夫より先に亡くなった場合であるが、実は配偶者の死後に両者が受け取る受給総額に差はない。月額12万円の老齢厚生年金を受給する夫を亡くした妻は、遺族厚生年金月額9万円(12万円の75%)と自身の老齢基礎年金を受給し(図表1(1))、妻を亡くした夫は、引き続き老齢厚生年金月額9万円と老齢基礎年金を受給する(図表1(2))。しかし、妻が受け取る遺族厚生年金は非課税なので、所得税額の計算において課税扱いとなる所得金額に差が生じ、税負担や社会保険料負担にも差が生じることとなる。しかしながら、果たしてこの二人の間に担税力の差があると言えるのだろうか。

次に、共に老齢厚生年金受給額月額12万円を受給する夫を有するが、老齢厚生年金を受給できない妻と老齢厚生年金受給額月額6万円を受給する妻から構成される2夫婦を比較する。両夫婦とも夫が妻より先に亡くなった場合、老齢厚生年金を受給できない妻は、遺族厚生年金月額9万円(12万円の75%)と自身の老齢基礎年金を受給する(図表1(1))。一方、老齢厚生年金受給額月額6万円を受給する妻は、自身の老齢厚生年金月額6万円及び老齢基礎年金に加え、遺族厚生年金月額3万円も受給できる(図表1(3))。先の例と同様、両者が受け取る受給総額に差はないのに、前者は非課税の遺族厚生年金が多いため、課税扱いとなる所得金額に差が生じる。収入が公的年金だけならば、そもそも所得が少ないため税負担も社会保険料負担にも実態として差は生じないが(2)、個人年金など他の所得があれば、税負担や社会保険料負担に差が生じる。

年金,健康管理
(画像=ニッセイ基礎研究所)

近年は、共働き世帯の方が専業主婦世帯より倍以上多い状況にある。また、2016年10月から、厚生年金保険・健康保険の加入対象が拡大されているので、自身の老齢厚生年金を受給できる妻は以前よりも増加しているに違いない。しかし、夫に比べて賃金が低かったり、厚生年金加入期間が短かったりして、厚生年金受給額が夫の半分以下の場合、夫が亡くなった後の受給総額は、厚生年金加入期間が0の場合と変わらず、妻の頑張りが全く反映されない(3)。それだけでなく、税負担や社会保険料負担が増加する可能性もあるのだから、経済的にはやはり夫が長生きするよう健康管理を怠らないことをお勧めする。もちろん、夫婦が共に健康でいる方が資金を取り崩す必要が少ないのが一般的なのだから、夫も妻の健康管理を怠らない方が一番いい。

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(1)研究員の眼「年金を通して夫婦を考える(1)-パートナーってありがたい
(2)妻が65歳未満の場合は、税負担や社会保険料負担に多少の差が生じる
(3)研究員の眼「年金受給額アップの落とし穴-夫の健康管理も重要だ

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高岡和佳子(たかおか わかこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

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