中国経済の概況

中国経済の見通し
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2018年夏以降、中国経済は成長の勢いが減速してきている[図表1]。

中国経済の見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

18年に減速した原因のひとつに「デレバレッジ」がある。中国政府が「デレバレッジ」に舵を切ったのは、17年の党大会後に開催された中央経済工作会議でのことで、2020年までの中期的な目標とされている。中国の非金融企業が抱える債務残高はGDP比約150%とG20諸国で最大、このまま放置すれば将来に大きな禍根を残すと考えたからだ。債務が拡大した発端はリーマンショック後の4兆元の景気対策にあるが、15年に株価が急落した時の景気対策でも債務が上乗せされた。そして、中国政府がデレバレッジを推進した18年、インフラ投資は急減速した。また15年10月の株価急落(チャイナショック)時に景気対策として導入された小型車減税が17年末で期限切れとなったことも自動車販売の足かせとなった。

また、米中対立も中国経済に打撃を与えた。中国経済の将来を担う「中国製造2025」関連産業で先行き不透明感が強まり、中国株は大きく下落して16年1月の安値を割り込み、消費者マインドを冷やして自動車販売は前年割れに落ち込んだ。さらに、「産業のコメ」と言われる集積回路(IC)にも悪影響を及ぼし、データセンター建設ラッシュは沈静化、中国における仮想通貨バブル崩壊によるマイニング需要の落ち込みや次世代通信規格(5G)への移行期に差し掛かったスマホの買い控えも重なり、ITサイクルはピークアウトした。

そして、19年上半期(1-6月期)の成長率も前年比6.3%増と18年通期の同6.6%増を下回り、引き続き減速することとなった。

消費、投資、輸出の動向

個人消費の代表的な指標である小売売上高の動きを見ると、19年上半期は前年比8.4%増と18年通期の同9.0%増を0.6ポイント下回った。

業種別の内訳を見ると、日用品類が前年比14.1%増、化粧品が同13.2%増、飲食が同7.2%増と18年通期の伸びを上回る伸びを示した一方、住宅販売の低迷を背景に、家具類が同5.7%増と18年通期の同10.1%増を下回り、家電類も同6.7%増と18年通期の同8.9%増を下回った。なお、ネット販売(商品とサービス)はBAT(百度、阿里巴巴、騰訊)を代表とするプラットフォーム企業が新たな消費需要を生み出す流れが続いており、前年比17.8%増と引き続き高い伸びを示した。

また、19年上半期の自動車販売は前年比12.4%減と大幅な前年割れとなった。中国自動車工業協会は、7月以降に新車販売が回復するとの見方を示している。前年同期の基数が低くなるため前年同期と比べた伸び率が高くなりやすいのに加えて、7月には自動車購入税の実質的な引き下げがあり、北京や上海などの大都市ではナンバープレート発給制限を緩和する動きもある。なお、19年上半期の乗用車販売(新車、台数)は1012万台に留まった。ブランド別に見ると、米国系が前年比23.2%減、ドイツ系が同5.1%減と落ち込んだものの、日本系は同4.3%増と好調だった。

他方、個人消費への影響が大きい雇用情勢を見ると、都市部の求人倍率は1.28倍とじりじり上昇しており、都市部の登録失業率も3.7%と低下傾向にあるため、概ね良好な状況が維持されていると見られる。また、消費者信頼感指数も高水準を維持しているため、個人消費が失速する恐れは今のところ小さい。但し、農民工を含む調査失業率を見ると、ここもと5%台に上昇してきており、農村部からの出稼ぎ労働者に余剰感がでてきた可能性もあるため、今後の動向には十分注意する必要がある。

投資の代表的な指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、19年上半期は前年比5.8%増と、18年通期の同5.9%増を小幅に下回った。投資を3大セクターに分けて見ると、不動産開発投資は同10.9%増と18年通期の同9.5%増を上回り、インフラ投資も同4.1%増と18年通期の同3.8%増を小幅に上回ったものの、製造業が同3.0%増と18年通期の同9.5%増を大きく下回った。

製造業の投資に急ブレーキが掛かった背景には、米中対立の影響があると見られる。槍玉に挙げられたのが「中国製造2025」で、その関連投資に対する先行き不透明感が高まったからだ。また、米中の“関税引き上げ合戦”が激化したため、対米輸出拠点を中国以外へ移転する動きがじわじわと拡がってきており、製造業の投資は18年夏をピークに低下傾向を強め、19年春には一時前年割れに転じた。また、設備稼働率も、17年10-12月期の78.0%をピークに、19年1-3月期には75.9%まで低下、債務の不良債権化に対する懸念も浮上しかねない状況にある。

米中対立は6月に実現した首脳会談で貿易協議を再開する運びとなったものの、ロス米商務長官は中国の通信機器大手ファーウェイを「エンティティー・リスト(EL)」に残す方針を示しており、予断を許さぬ状況のままだ。但し、投資全体が失速することはないだろう。中国では、18年12月に開催した中央経済工作会議で「反循環調節(景気減速の押し戻し政策)」を打ち出し、その中で地方政府債の増発を決めた。そして、19年1-3月期に発行された地方政府債は前年同期を大幅に上回る約1.2兆元(日本円換算で約20兆円)に達している。今後はインフラ投資が加速して、製造業の投資の落ち込みをカバーするため、投資全体では緩やかな減速に留まると見ている。

消費・投資と並び中国経済の第3の柱である輸出(ドルベース)を見ると、19年上半期は前年比0.1%増と、18年通期の同9.9%増を大幅に下回った。

輸出の先行指標となる新規輸出受注指数は13ヵ月連続で拡張・収縮の境界線(50%)を割り込んでおり、輸出の持続的な回復を期待できる状況にはない。また、米国は5月10日、中国からの輸入製品(2000億ドル相当分)に対する制裁関税率を10%から25%へ引き上げており、米国向け輸出の逆風はさらに強まる。

中国経済の見通し

以上のような現状を踏まえると、2020年に向けての実質成長率は6%台前半での低迷が続くと予想している[図表2]。

中国経済の見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

個人消費は、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費を喚起する流れが続いているため、底堅い伸びを維持するものの、米中対立の激化で株価や消費マインドは不安定となり、若干の伸び鈍化を見込む。投資は、中国政府の景気対策により、インフラ投資は勢いを増すと見られるものの、米中ハイテク摩擦に伴う先行き不透明感が足かせとなるため、低位の伸びに留まると予想する。輸出は、米中の関税引き上げ合戦に伴い製造拠点の海外流出が増えるのに加えて、中国政府の輸入拡大方針により、輸入が高い伸びを示すと見られることから、純輸出はマイナス寄与が続くと予想する。なお、消費者物価はサービス価格の上昇を背景に緩やかに上昇していくと予想している。

また、米中対立の成り行き次第では、上振れ・下振れするシナリオも考えられる[図表3]。このまま米中対立が激しさを増して行けば、ITサイクルの停滞が長引く上、株価が再び急落して自動車などの消費を押し下げる恐れがある。但し、19年中にそうした事態に陥った場合には、中国政府が景気対策を上乗せする可能性が高いため、経済成長率が6%を割り込むことはないだろう。一方、急転直下、米中対立が緩和に向かえば、次世代通信規格(5G)への移行を控えてITサイクルが一気に上向く上、株価が上昇して自動車などの消費を押し上げる可能性もある。但し、景気が上向けば、中国政府は再び「債務圧縮(デレバレッジ)」に動くと見ているため、経済成長率が7%に近付くこともないだろう。今後も米中対立の行方から目が離せない状況が続きそうだ。

中国経済の見通し
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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