2019年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比5.5%増(1)と、前期の同5.6%増から低下し、市場予想(2)(同5.9%増)を下回った(図表1)。

フィリピンGDP
(画像=PIXTA)

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に総固定資本形成の下落が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比5.6%増(前期:同6.1%増)と再び低下した。民間消費の内訳を見ると、教育(同14.5%増)や住宅・水道光熱(同5.8%増)が堅調に推移したものの、食料・飲料(同5.5%増)や交通(同2.9%増)が鈍化したほか、酒類・たばこ(同1.3%減)が低迷した。

政府消費は同6.9%増となり、前期の同7.4%増から低下した。

総固定資本形成は同4.8%減(前期:同6.4%増)とマイナス成長となった。まず設備投資が同13.0%減(前期:同6.1%増)と大幅に低下した。設備投資の内訳を見ると、オフィス機器(同13.8%増)は好調だったものの、全体の4割を占める道路運送車両(同18.1%減)と鉱業・建設機械(同25.1%減)が大幅に下落したほか、電気通信装置(同2.3%減)が低迷した。また建設投資が同2.6%増(前期:同6.4%増)と鈍化した。民間建設投資(同23.1%増)が大幅に上昇した一方、公共建設投資(同27.2%減)が一段と減少した(図表2)。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+2.7%ポイント(前期:▲2.9%ポイント)となり、大きく改善した。まず輸出は同4.4%増(前期:同5.7%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出が同3.8%増(前期:同3.6%増)と若干上昇したものの、財輸出が同4.6%増(前期:同6.3%増)と主力の電子部品を中心に鈍化した。また輸入は同0.0%増(前期:同8.6%増)と停滞した。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、主に第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表3)。

まず第二次産業は同4.4%増(前期: 同6.1%増)と低下した。鉱業・採石業(同15.0%増)と電気・ガス・水供給業(同7.5%増)が好調だったものの、製造業(同4.0%増)はラジオ、テレビ・通信機器の落ち込みに食品加工と化学製品の鈍化が重なって低下したほか、建設業(同3.9%増)も2期連続で低下した。

また第一次産業は前年同期比0.6%増(前期:同0.7%増)と僅かに低下した。エルニーニョ現象による干ばつなどの影響でコメが不作となり、農業(同0.1%増)が低調だった。

一方、GDPの約6割を占める第三次産業は同7.1%増(前期: 同6.8%増)と上昇した。行政・国防(同8.0%増)と運輸・通信(同5.5%増)は増勢が鈍化したものの、商業(同8.5%増)や金不動産(同4.0%増)がそれぞれ加速した。

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(1)8月8日、国家統計調整委員会(NSCB)が2019年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は1.4%増と前期(同0.6%増)から上昇した。
(2)Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年、物品増税の影響で消費が落ち込むなかでも+6.2%の高い成長を維持していたが、今年は2019年度政府予算を巡る上下両院の対立と米中貿易摩擦の影響を受けて1-3月期の成長率が4年ぶりの5%台まで低下した。今年度政府予算は4月中に3ヵ月以上遅れて成立し、執行が開始されたことで成長率は上向くとみられたが、4-6月期は+5.5%で伸び悩み、今年の成長率目標+6-7%の達成は一層見通しにくいものとなった。

4-6月期の景気減速の主因は政府予算の成立が遅れに選挙前の公共工事の禁止が加わったことである。今年度予算が成立の遅れにより4月下旬までは新規事業が認められず、インフラ整備や干ばつ対策、公務員給与などに悪影響が及ぶこととなった。また同時に、5月13日の中間選挙前45日間に新規の公共事業の工事が禁止された。この結果、4-6月期の政府支出は前年同期比2.3%減と、1-3月期の同0.8%増から更に悪化、うちインフラ等資本支出は31.9%減(1-3月期:20.1%減)と大幅な減少となった。このため、4-6月期は大幅に下落した公共建設投資をはじめとして政府消費や民間消費にも悪影響が及んだものとみられる。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また世界的な景気減速に米中貿易摩擦が加わり、電子製品の出荷に悪影響が及んだことも4-6月期の景気を押し下げた。電子機器はフィリピンの輸出全体の約6割を占める最も重要な輸出品であり、世界的な電子機器の需要鈍化や市況悪化が輸出の伸び悩みと設備投資の減退に繋がった。また、ドゥテルテ大統領が進める法人税改革に伴い外資系企業の税制優遇制度が縮小・撤廃される恐れがあることや昨年の高金利政策の影響も設備投資の下押し要因となっている。

GDPの約7割を占める民間消費は2四半期ぶりに+5%台半ばまで鈍化した。エルニーニョ現象を背景に農作物の収穫が落ち込んだ農家の所得低迷や海外出稼ぎ労働者からの送金の伸び悩み、公務員給与の増額の遅れ、そして消費者マインドの悪化などが消費の減速に繋がったとみられる。

しかし、今年後半は予算執行の加速が見込まれ、インフラ投資を中心に景気が持ち直すだろう。また失業率は低下傾向にあり、良好な雇用環境は続いている。物品税増税の影響で昨年9月に+6.7%まで上昇した消費者物価上昇率は政府のインフレ抑制策や中央銀行の利上げ(昨年+1.75%)、油価下落、そして年明けからの増税効果の剥落により落ち着きを取り戻し、今年4-6月には+3%前後まで低下している(図表4)。今後もコメの輸入数量制限撤廃の影響による食品価格の低下がインフレ抑制に働くものとみられ、消費を巡る環境の改善が今後の民間消費の回復に繋がるだろう。

フィリピン中央銀行(BSP)は6月の利下げを見送る一方、段階的に預金準備率を低下させることによって金融緩和を演出しつつ、利下げを急がない姿勢を示していたが、今回のGDP統計で景気減速が確認されたことを受けて政策スタンスを見直すだろう。先行きの物価安定や世界的な金融緩和競争が始まっていることも金融緩和再開の後押しとなる。BSPは本日の政策会合では0.25%の利下げを決定し、その後は年末までに更に計0.5%の利下げを進めるものと予想する。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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