タクシー「相乗り」解禁が議論される
タクシーの「相乗り」導入(解禁)が議論されている。ここで言う「相乗り」とは、同じ方面に向かう見知らぬ人同士が、1台のタクシーに同乗することを指す。道路運送法上、街中で良く見かけるようなタクシー(一般乗用旅客自動車運送事業者)は、原則としてこうした乗合行為が出来ないことになっている。乗合バス(一般乗合旅客自動車運送事業者)と違って、乗客が乗る際には一個の契約(一車貸切)となるため、運転手が相乗りを希望する乗客を募って乗車させ、それぞれの乗客から個別に運賃を収受することは出来ない。
地方を中心に、運転手不足が懸念されている。高齢化が進む中で生活の足として乗合バスやタクシーに期待がかかる一方、人口減少でこうした交通網の維持がどんどん難しくなっていく恐れがある。一方、技術革新が進んで、スマートフォンアプリ等を活用して同じ方面に行きたい乗客をマッチングさせたり、最適な配車、ルート選定を行うことが出来るようになってきている。ルールが変われば、新しいソリューションが生まれる可能性がある。
この6月に閣議決定された成長戦略では、タクシーの相乗りについて導入を進める旨が盛り込まれた(図表1)。日本版 MaaS(Mobility as a service、マース)を推進する上での1つの策とされている。タクシー事業者の生産性を向上させるだけでなく、乗客にとっても相乗りになる分だけ安い料金で済むようになる。事前に料金が確定する仕組みやキャッシュレス等も組み合わせれば、新しい顧客体験の提供に繋がることもあり得るだろう。
普及に向けた課題は?
「自分だったら使うだろうか。」「使いたい人は多いのだろうか。」といった素朴な疑問も出てくる。「安くなるなら魅力的。」と思う方もいれば、「見知らぬ人と同乗は嫌だ。」という方もいるだろう。
2018年1月から3月にかけて、国土交通省がタクシー事業者の協力を得て、東京都内で実証実験を行っている。利用者に対するアンケートでは、本格導入された場合には「また利用したい」との回答が7割超となった(図表2)。マッチング精度についてはまだまだ向上の余地があるようだが、実際に利用した人の評価は悪くないようだ。また、国土交通省は並行してインターネットモニターに対するアンケート調査も行っている(図表3)。このモニターアンケートでは、相乗りタクシーへの抵抗感を持つ層が一定いることが示唆されている。やはり、同乗者とのトラブルへの懸念や、相乗りする相手がどのような人か分からないことへの不安があるようだ。とりわけ女性にとっては、抵抗感が強いのだろう。
相乗りタクシーが解禁されたとして、実際に普及するかどうかはこうした消費者の不安をいかに解消できるかがカギになる。相乗りする乗客の座席を前後で分ける、女性同士でマッチングする、利用者のレビュー(評価)を活用する仕組みの導入等、事業者の工夫が問われるだろう。
相乗りタクシーに限らず、デジタル技術の活用で色々な需要、供給をマッチングすることが出来るようになり、個人と個人をマッチングするCtoCプラットフォームも登場している。不要なモノを売買するフリーマーケットアプリ、民泊のように空いているスペースを貸し借りするプラットフォーム、更にはイラストやデザイン等個人のスキル提供をマッチングするものもある。こうしたプラットフォームでは、参加者の質の維持(悪質な参加者の排除)がキモになり、その規律として参加者のレビュー(評価)が一定機能する。飲食店やECサイトの商品のように、これからは個人もネット上のサービスでレビュー(評価)されることが増えるかもしれない。また、足もと出始めている信用スコアのようなものが、将来的に活用されることがあるのかもしれない。とは言え、本人の知らないところで勝手に個人データが収集・利用されて評価されるのも問題だろう。安心のためにプラットフォームの参加者の質は高めて欲しいが、自分が評価されるのは何だか気持ち悪いし、息苦しい。消費者に何がどこまで受け入れられるのか、事業者の試行錯誤が続きそうだ。
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中村洋介(なかむら ようすけ)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任
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