9月24日、コクヨ株式会社は投資ファンドを通じて間接保有してきた文具大手ぺんてる株式会社の株式を直接保有に切り替え、筆頭株主となったと発表した。出資比率は37.45%、ぺんてるはコクヨの持分法適用関連会社となる。
1946年設立のぺんてるはその7年後には輸出を開始、香港、シカゴ支店の設置を経て1966年にはアメリカに現地法人、翌年には欧州に製造拠点を設立する。2018年度の売上は連結ベースで403億78百万円、うち海外売上が65.8%を占める。一方、1905年創業の老舗企業コクヨにとっての国際化は、国内最大手ゆえに後手に回る。本格的な海外進出は1989年に家業を承継した3代目黒田章裕氏のもとでようやく始まる。同氏は創業100年時に “海外売上比率3割” との目標を掲げる。しかし4代目黒田英邦氏が率いる今も海外比率は売上3,151億55百万円の1割に届かない。海外に22の販売拠点を持ち、120カ国以上の地域に販路を持つぺんてるはコクヨにとって格好の投資対象と言える。
今年5月10日、コクヨは株式会社マーキュリア インベストメントがぺんてるへの投資を目的に組成したPI投資事業有限責任組合の持分すべてを取得したと発表、IRで「双方の経営資源を活用して共に成長したい」とぺんてるにラブコールを送った。これに対してぺんてるは「投資事業組合の持分がコクヨに譲渡されたとの通知を受けた、今後の方針については未決定、あくまでも間接保有であって当社は創業以来の独立性を堅持する」と反発した。その時、ぺんてるにはプラス株式会社との提携も選択肢にあった。その可能性を資本の論理でつぶされたぺんてる側の心情は、今回の発表と同時にリリースされた文書にも滲む。わずか5行、そこにはこう記された。「ぺんてる取締役会はコクヨの直接保有を承認し、両社の協力関係に向けた協議を開始することに合意した」。
ただ、ぺんてるも筆記具を中心とした文具が売上の9割を占め、電子機器等の新規事業の育成は満足できる水準にはない。コクヨが持つ経営資源の活用可能性は小さくないだろう。一方のコクヨにおいても、ぺんてるをグループ化すれば海外戦略が強化される、というわけではない。ぺんてるの商品開発力と海外販路をコクヨの事業にどう活かすのか、言い換えれば、ぺんてるというブランドの成長にどう貢献するのか、ここが新たな価値を創出するための鍵となる。“飲み込む” ことが戦略であれば、ぺんてるの強みはやがて希釈される。両社のDNAを未来へつなぐためにまずは信頼の醸成が望まれる。
今週の“ひらめき”視点 9.22 – 9.26
代表取締役社長 水越 孝