事業主として初めて従業員を雇うとき、雇用形態や業務内容を決めて、採用が決まったら労働条件を提示して契約書を取り交わすなど、やることはたくさんある。
その中でも重要なのが従業員を社会保険へ加入させる手続きだ。だが、そもそも従業員を社会保険に加入させる必要があるのだろうか。社会保険の中でも雇用保険の基礎知識はしっかり抑えておきたい。
目次
雇用保険はどんな制度?
雇用保険制度は、以下の4つの事業を行っている。
1.失業等給付
2.育児休業給付
3.雇用安定事業
4.能力開発事業
雇用保険は、国が行う社会保険制度のひとつで、政府が管掌する強制保険制度である。以下にそれぞれ解説する。
1.失業等給付
会社の倒産や自己理由、定年などにより離職した場合、失業中に安心して求職活動ができるように給付されるものだ。失業等給付には、以下の4種類がある。
2.育児休業給付
育児休業給付には「出生時育児休業給付金」「育児休業給付金」がある。出生時育児休業給付金は、2022年10月1日から新たに始まった給付金だ。
3.雇用安定事業
従業員が失業をした際に生活の安定と就職の促進のための給付や、教育訓練を受ける者のために給付する雇用安定事業だ。
雇用安定事業には事業主に対する助成金や、中高年齢者などの再就職しにくい求職者に対する再就職支援、若者や子育てしている女性に対する就労支援がある。
助成金には若年者や中高年の試行雇用を促進する「試行雇用奨励金」や、高齢者や障害者を雇用する事業主を支援するための「特定求職者雇用開発助成金」、創業や雇用を増やす事業主を支援する「自立就業支援助成金」や「地域雇用開発助成金」などがある。
4.能力開発事業
失業の予防や雇用状態の是正および雇用機会の増大、労働者の能力の開発および向上その他労働者の福祉の増進などをはかるための能力開発事業だ。
これらの財源は、上記の問題の解決が経営者や企業に利益をもたらすであろうということで、経営者や企業からの保険金のみで運営されている。
雇用保険の加入義務、条件は?
雇用保険への加入義務は、1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある従業員を雇った場合に発生する。以前は、65歳以上の従業員は雇用保険の対象外だったが、法律改正により2017年1月1日以降は年齢制限がなくなった。なお「31日以上の雇用の見込み」とは、以下のいずれかに該当する場合を指す。
・無期限で雇用される
・31日以上の雇用期間
・雇用契約の更新規定に31日未満での雇い止めの明示がない
・雇用契約の更新規定はないが、31日以上雇用された実績がある(※)
※雇用開始時は31日以上雇用の見込みがなかったが、その後31日以上雇用される見込みになった場合、その時点から雇用保険が適用される
企業自体の規模や業種は無関係で、雇用形態がパートやアルバイトであれ、事業主は従業員を雇用保険へ加入させる義務がある。
ただし個人経営の農林水産業の一部は任意適用で、季節的に一定の期間のみ雇用される場合や、労働期間が4ヵ月を超える期間を定めて雇用していない場合は被保険者とならないこともある。
そのほか会社の取締役や役員は雇用保険の適用対象外となる。取締役や役員は「労働者」ではなく「使用者」であるとの概念からだ。ただし役員と同時に部長、工場長など労働者的性格が強く、雇用関係が存在すると認められると雇用保険の適用対象となる。
事業主と同居する親族も、原則として雇用保険に加入することができない。ただし、次の3つの要件を満たしている場合は雇用保険の適用対象となる。
・事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
・事務所内における他の労働者と同様に賃金が支払われていること
・取締役などの事業主と同等の地位にないこと
したがって一般的な採用活動をして長期に渡って雇用する場合には、どれだけ小さな会社であったとしても、または会社ではなく個人事業主であったとしても雇用保険への加入義務が発生するのだ。
雇用保険(失業等給付)の給付の内容は?
従業員に対する雇用保険の給付(失業等給付)の種類には以下のようなものがある。
基本手当
基本手当日額の上限については、年齢ごとに以下のように規定されている(2020年8月1日時点)。原則として日額の上限を超えた金額が支給されることはない。
なお、退職理由によって基本手当が受給できる期間や給付される金額が変わってくる。
基本手当は過去2年間に通算12ヵ月以上雇用保険に加入している従業員が離職しても、失業中の生活を心配しないように再就職活動ができるように給付されるもの。
離職理由が倒産や解雇などであり、再就職の準備の余裕なく離職した、特定受給資格者や特定理由離職者は、過去1年間に通算6ヵ月以上雇用保険に加入していれば給付の対象となる。
どちらの場合も給付額は離職日の直前6ヵ月間の給与を元に算出される。
基本手当が給付されるまでの待期期間は7日間だが、自己都合での退職の場合はさらに最大3ヵ月の給付制限がある。
給付される日数である所定給付日数は離職の理由によって異なるが、基本手当が給付される受給期間は、90日から最大で330日(障害者など就職困難者は最大360日)。
病気やケガ、妊娠、出産、育児、親族の介護などの理由によって引き続き30日以上働くことができない場合は受給期間を最大3年間延長できる。
就職促進給付
就職促進給付には「再就職手当」「就業促進定着手当」「就業手当」、そのほか移転費などがある。
・再就職手当
再就職手当は基本手当の所定給付日数の3分の1以上を残して、安定した職業に再就職した場合に給付される。安定した職業とは、新たに就職した先で雇用保険の被保険者となる場合や、自ら事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合をいう。
・就業促進定着手当
就業促進定着手当は再就職手当の支給を受けた人が、引き続きその再就職先に6ヵ月以上雇用されたものの、離職前より賃金(1日分の額)が低下している場合に給付される。
・就業手当
就業手当は基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上を残して、再就職手当の支給対象とならない常用雇用以外の形態で就業した場合に給付される。
・移転費
移転費はハローワークなどが紹介した職に就くためや、公共職業訓練を受けるために転居が必要な場合に給付される。
教育訓練給付
教育訓練給付は、雇用保険に3年以上加入している人が給付の対象者となる。なお、初めて支給を受けようとする場合は、当分の間、雇用保険の加入要件が1年以上あれば給付の対象となる。
厚生労働大臣が指定した能力開発やキャリア形成のための教育を受けて申請した場合、費用の一部が給付の対象となる。
雇用継続給付
雇用継続給付には「高年齢雇用継続給付」「介護休業給付」がある。
- 高年齢雇用継続給付
高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付」と「高年齢再就職給付」の2つがある。
「高年齢雇用継続基本給付」は、60歳以降に基本手当や再就職手当などの給付を受けることなく継続して働いているものの賃金が、60歳時点と比べて75%未満となった場合に給付される。
「高年齢再就職給付」は、基本手当を受給し60歳以後に再就職したものの、賃金が60歳時点と比べて75%未満となった場合に給付される。
給付の要件は「高年齢雇用継続基本給付」も「高年齢再就職給付」も、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の人が雇用保険に加入して働いていることとなっている。
- 介護休業給付
「介護休業給付」は、家族を介護するための休業をした雇用保険の被保険者に給付される。給付の要件は、原則として介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヵ月以上あること。
経営者にとっての雇用保険のメリットは?
雇用保険には以上のような給付のほかにも、従業員に対する多くの給付がある。雇用保険に加入すると従業員にばかりメリットがありそうだが、実はそうではない。
1.会社の信頼性をアピールできる
職を探す人にとっては、就職先に安心して働ける環境が整っているのかを確認する目安の1つとして、雇用保険などの社会保険に加入しているのかは重要だろう。
雇用保険への加入は会社の信頼性をアピールする1つの指標であり、採用面でもプラス要素となり得る。また雇用保険に加入することで、事業主が助成金を受け取れる場合もある。
2.助成金が給付される
・「雇用調整助成金」
例えば、「雇用調整助成金」は景気の変動や産業構造の変化、そのほかの経済上の理由により事業活動の縮小をしなくてはならなくなった場合、従業員を解雇するのではなく、休業や教育訓練または出向などの一時的な雇用調整をすることによって従業員の雇用を維持すると、雇用保険を適用している事業主に給付される。
・「労働移動支援助成金(再就職支援コース)」
また、雇用を維持することが難しく、事業規模の縮小などにより解雇した場合でも、その従業員などに対して再就職支援をハローワークに委託したり、求職活動のための休暇の付与や再就職のための訓練を教育訓練施設に委託したりした事業主には「労働移動支援助成金(再就職支援コース)」が給付される。
・「労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)」
一方、「労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)」は再就職援助計画などの対象者を離職後3ヵ月以内に期間の定めなく雇い入れ、対象者を一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れた場合に給付される。
・「トライアル雇用助成金」
また就職を希望する未経験者などを試行的に雇い入れた場合には「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」、障害者を試行的、段階的に雇い入れた場合には「トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)」が給付されるなど、試行的な雇入れに対する助成金も用意されている。
・「その他の助成金」
そのほかにも中途採用者の雇用管理制度を整備したうえで、中途採用者を拡大した場合に給付される「中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)」や、中高年齢者(40歳以上)の方が起業して中高年齢者などを雇い入れた場合に給付される「中途採用等支援助成金(生涯現役企業支援コース)」、60~64歳の高年齢者や障害者、シングルマザーなどの就職困難者を雇い入れた場合に給付される「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」、東日本大震災による被災離職者や被災地求職者を雇い入れた場合に給付される「特定求職者雇用開発助成金(被災者雇用開発コース)」など、数多くの助成金がある。
雇用保険への加入は従業員だけでなく事業主にもメリットがあるのだ。
雇用保険の手続きはどうする?パターン別に解説
雇用保険へ加入するためには「労働保険 保険関係成立届」を、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出する必要がある。都道府県および市町村、農林水産、建設、港湾労働法の適用される港湾での港湾運送に該当する事業についてはハローワークに提出する。
従業員を雇った場合の手続き
初めて雇用保険の適用対象となる従業員を雇うこととなった場合は、前述の「労働保険 保険関係成立届」を提出して、保険関係成立に関する手続を済ませた後、事業所を管轄するハローワークに届出書を提出する。
提出する届出書は「事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」だが、受理印を押された「労働保険 保険関係成立届」の事業主控と確認書類などを添えて、「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」となる。
その後、新たに雇用保険の対象となる従業員を雇った場合は、そのたびに事業所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要がある。
「雇用保険被保険者資格取得届」を提出すると、ハローワークから「雇用保険被保険者証」が交付される。この「雇用保険被保険者証」は雇用保険に加入した従業員本人に渡す。
雇用保険の対象となる従業員を雇った場合の手続きは、従業員が被保険者となった日の属する月の翌月10日以内に行う必要がある。
なお、個人経営の農林水産業で、雇用している労働者が常時5人未満の場合は、雇用保険の適用は任意だが、労働者の2分の1以上が加入を希望するときは、加入の希望をしていない労働者を含み加入要件を満たす労働者全員分の加入の申請が必要となる。
給付金を従業員が受け取る場合の手続き
「高年齢雇用継続給付」や「育児休業給付金」「介護休業給付金」などを従業員が受ける場合は、それぞれの申請書について事業所を管轄するハローワークに提出する必要がある。
従業員の離職時の手続き
雇用保険に加入していた従業員が離職した場合、雇用保険の被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書(離職票)」について事業所を管轄するハローワークに提出する必要がある。
なお、離職証明書の離職理由について事業主と離職者との間で主張が異なる場合などは、ハローワークにおいて事実関係を調査する。
それぞれの手続きには確認書類が必要で、確認書類には賃金台帳、労働者名簿、タイムカードなどの出勤簿なども含まれるので普段からきちんと管理しておきたい。
また、ほとんどの届出書は労働基準監督署またはハローワークのサイトよりダウンロードできるが、複写式となっている「労働保険 保険関係成立届」などは労働基準監督署で、「雇用保険被保険者離職証明書」、「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」などはハローワークで直接受け取る必要がある。
雇用保険の保険料はいくら?
雇用保険の保険料は、従業員に支払う賃金に保険料率を乗じる方法で計算を行う。実際にはどのような流れで算出するのか、保険料の支払い方法と合わせて紹介していこう。
雇用保険料の料率
雇用保険料の料率は、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに分けて設定されている。以下では一例として、2022年10月~2023年3月における料率を紹介しよう。
なお、2022年分の雇用保険料に関しては、年度の途中(10月1日~)から保険料率が変更されている。労働者負担分や事業主負担分も時期によって料率が変わるため、常に最新の情報をチェックしておきたい。
雇用保険料の計算方法
料率が分かれば、あとは従業員の賃金と掛け合わせるだけで雇用保険料を算出できる。より理解を深めるために、以下では建設業に従事する従業員のモデルケースを見ていこう。
○雇用保険料の計算例
上記の表を参考にすると、建設業に従事する従業員の料率は1.65%となる。仮にこの従業員の年収を1,000万円とすると、雇用保険料は次のように計算できる。
雇用保険料(年間)=1,000万円×1.65%
=16万5,000円
労働者負担分=1,000万円×0.6%
=6万円
事業主負担分=1,000万円×1.05%
=15万円
(※2022年分は年度の途中で料率が変わっているため、実際には半年ごとに分けて異なる料率を用いて計算を行う。)
雇用保険料は、毎年4月1日~3月31日までの年度単位となっているため、上記のように年間の保険料を計算する流れが一般的となる。
雇用保険料の納付方法
雇用保険の保険料は、年度始めに概算で申告・納付を行い、「労働者災害補償保険(労災保険)」と併せて労働保険料として納付する。そのため、事業主は前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を算出して概算保険申告書と納付書を作成し、銀行や信用金庫などで納付をしなくてはならない。
初回の労働保険料は、従業員の雇い入れが成立した日から該当年の末日までに労働者に支払う見込みの賃金総額に合わせて、確定概算保険料が決定される。更新の時期には厚生労働省から「概算保険料申告書」が郵送されてくる。雇用保険料については、事業主が被保険者である従業員の給与から天引きする形で被保険者負担分を預かり、事業主負担分と合わせて納付する。
なお、雇用保険料は事業主負担分のほうが多めに設定されているが、これは事業主負担分に従業員のための失業等給付の保険料率と雇用保険二事業(※)の保険料率の2つが含まれているためだ。一方で、従業員負担分として含まれているものは、従業員のための失業など給付の保険料率のみとなる。
ちなみに、概算の雇用保険料が40万円を超えている場合、または労働保険事務組合に保険事務を委託している場合は、最大3回までの分割納付も認められている。
(※)雇用保険二事業とは、失業の予防や雇用機会の拡大などの雇用安定事業と、労働者の能力開発などのための能力開発事業2つを指す。
雇用保険の注意点
雇用保険受給中の従業員側の注意点
・アルバイトをしてもいいのか
雇用保険を受給していても、所定の申告を行えばアルバイトはできる。ただし、以下のいずれかに該当すると、アルバイト自体が雇用保険の対象となるため受給はできなくなる。
・1週間あたりの所定労働時間が20時間以上となる場合
・31日以上の雇用が見込まれる場合
基本手当の受給を受け続けたい場合は、アルバイトで雇用保険に加入する条件を満たさないような範囲で働くことが必要である。
・健康保険や年金の支払いはどうなるのか
(1)健康保険の手続き
失業した場合、健康保険については以下のいずれかの選択肢がある。
- 任意継続保険に加入する
- 国民健康保険に加入する
- 健康保険に加入している家族の扶養に入る
任意継続保険とは、前職の会社で加入していた健康保険組合の保険を、退職後も利用し続けることである。ただし、離職前であれば保険料は会社と折半するが、退職後は全額自己負担となるため負担額が増える。離職した日から20日以内に手続きが必要で、加入期間は最長2年である。
国民健康保険は、市町村が運営している健康保険である。前職の会社で加入していた健康保険を退職により脱退し、改めて国民健康保険に加入する手続きを取らなければならない。保険料は自治体によって違うので、加入の際に確かめておこう。任意継続保険と国民健康保険との保険料を比べて、支払額が安い方を選ぶのが一般的である。
(2)公的年金の手続き
公的年金については、それまで加入していた厚生年金基金から国民年金へと移行する必要がある。失業した際の国民年金の支払いでは、「保険料免除制度」や「保険料納付猶予制度」などが利用できる。
保険料免除制度は、経済的に国民年金の保険料納付が困難と判断される場合に適用される。免除される額の種類は「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」などがあり、納付金額を少なくすると将来受け取れる年金額が減額される。
また、保険料納付猶予制度を利用すると、支払いの猶予が認められた期間も国民年金に加入し続けることが認められる。ただし、加入が継続されるだけで、受け取れる年金額への加算はされない。年金額を増やしたいなら、後で追納することが必要である。
雇用保険受給条件の注意点
・海外勤務をしていた場合
国内企業に雇用されて外国に出張して勤務する場合、あるいは雇用元が国内企業で海外にある支社・支店・工場などに勤務する場合は、国内企業の事業主との雇用関係は維持されるので雇用保険は受給できる。
また、外国企業に出向した場合は出向先の企業と雇用契約を締結するが、その出向が雇用主である国内企業の業務命令であり、かつ国内企業との雇用関係が継続されている限りは、雇用保険受給条件を満たすことになる。
ただし、国内企業との雇用契約を終了させてから外国企業と雇用契約を結んだ場合は、被保険者資格は失う。
・休職理由が事業主と離職者で食い違った場合
自己都合退職か会社都合退職かで、事業主と離職者の見解が異なるケースもあり得る。その場合、まずはハローワーク側が離職証明書から離職理由を見て、その上で双方の主張を客観的に判定できる資料を収集して事実を確認する。最終的に、離職者の居住地を管轄しているハローワークが判定を行う。
・不正受給の場合は罰則を受ける
雇用保険の受給中に以下のような行為があった場合は、不正受給とみなされる。
・申告しないままアルバイト・パートとして働く
・自営を始める
・会社の役員や非常勤嘱託、顧問などに就任する
・就職日を偽る
不正受給に該当すれば、ただちに支給が停止され、不正行為により受け取った金額の返還が命じられ(返還命令)、不正に受けた金額の2倍の納付が命じられる(納付命令)。仮に返還や納付を拒否すれば、財産差し押さえなどの強制処分がなされ、詐欺罪として刑事告発されることもある。
雇用保険に加入しなかった場合はどうなる?
従業員が雇用保険の加入対象者であるにもかかわらず、会社の怠慢や虚偽の報告によって雇用保険への加入手続きを行わなかった場合、事業主に対して6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性がある。
また、雇用保険の加入対象者である従業員が、事業主がきちんと手続きをして雇用保険の被保険者となっているのかはハローワークで照会できる。
雇用保険は従業員のためのさまざまな給付があるのはもちろんのこと、事業主にとってもメリットの大きい制度なだけに、従業員を雇い入れるときには加入の手続きを忘れないようにしたい。
雇用保険のよくある質問
ここからは、雇用保険に関する知識を「よくある質問集」としてまとめた。事業主が悩みやすいポイントについても触れているため、最後までしっかりと確認していこう。
Q1.従業員が住所変更したらどうなる?
雇用保険の加入時には、各従業員(被保険者)の住所を届け出る必要がないため、住所変更時の手続きも不要となる。ただし、結婚などの影響で苗字が変わった場合は、「健康保険 被扶養者(異動)届」の提出が必要になる。
Q2.転勤の場合は?
従業員が別の事業所に転勤する際には、「雇用保険被保険者転勤届」を提出する必要がある。なお、以下のケースは転勤には該当しないため、届出が求められるケースとしっかり区別しておきたい。
○転勤に該当しないケース
・一時的な駐在や出張に該当する場合
・建設業や土木業に従事する従業員が、工事のために異動する場合
・船上で働く従業員が、陸上での勤務に変更される場合 など
ちなみに、組織再編などの影響で事業所が2つに分かれる場合は、転勤にあたるため届出が必要になる。
Q3.雇用保険の書類作成に悩んだら?
雇用保険の相談先としては、厚生労働省が運営する「ハローワーク(公共職業安定所)」が挙げられる。ハローワークは電話やメールによる問い合わせにも対応しているため、忙しい事業者でも気軽に相談をすることが可能だ。
また、法人向け会計ソフトには、雇用保険の関連書類を作成できるものや、電子申請まで行ってくれるものが存在する。会計ソフトは業務効率化にもつながるため、これを機に導入を検討してみよう。
Q4.2022年の法改正で何が変わる?
2022年の雇用保険法改正では、短時間勤務の高年齢者に対する雇用保険加入の条件が以下のように緩和された(雇用保険マルチジョブホルダー制度)。
○短時間勤務の高年齢者における雇用保険の加入条件(2022年1月以降)
・複数の事業主に雇用されている65歳以上の個人
・2つの事業所の労働時間を合計し、1週間の所定労働時間が20時間以上である(ただし1ヵ所の事業所における1週間の所定労働時間は5時間以上20時間未満であること)
・2つの事業所でそれぞれ31日以上の雇用が見込まれる
なお、上記に該当する従業員が雇用保険へと加入するには、被保険者本人からの申し出が必要になる。シニア人材に関する条件は今後も見直される可能性があるため、ほかの社会保険と合わせてこまめに確認しておきたい。
雇用保険の仕組みは加入前に理解しておこう
健全な経営を目指している企業にとって、雇用保険への加入は必須と言える。従業員からの申し出がなかったとしても、加入条件を満たしている場合は積極的に案内をすることが大きな信頼につながるだろう。
ただし、加入後には保険料の計算や申告などが必要になるため、雇用保険の仕組みは十分に理解しておくことが重要だ。加入にあたって不安を感じている事業主は、本記事を読み返しながら基礎知識をしっかりと押さえておこう。
雇用保険に関するQ&A
Q.必ず従業員を雇用保険に加入させなければならない?
A.企業の規模に関係なく、また個人事業主であっても、1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある従業員を雇った場合は、必ず雇用保険に加入させなければならない。従業員の雇用形態も問わず、正社員・パート・アルバイトであっても労働時間・雇用日数の要件をクリアしていれば加入させる義務がある。
なお会社の取締役や役員は「使用者」のため、雇用保険の適用対象外だ。また事業主と同居する家族も原則、雇用保険には加入できない。ただし役員で部長や工場長など労働者の性格が強い場合は、雇用保険の適用対象となる。さらに農林水産業に従事する個人事業主が雇う季節労働者などは、被保険者にならない場合があるため注意したい。
雇用保険の加入対象者にもかかわらず、従業員を雇用保険に加入させなかった場合は、事業主に対して罰金や懲役が科される可能性がある。
Q.雇用保険(失業等給付)の給付金にはどのようなものがある?
A.雇用保険の失業等給付には以下の4種類がある。
・基本手当
一般的に「失業手当」と呼ばれるものだ。労働者が離職後、生活の心配をせずに再就職活動をするために給付される。基本手当の給付を受けるには、過去2年間で通算12ヵ月以上雇用保険に加入していることが条件だ。ただし倒産や解雇など会社側の都合などで離職した場合は、受給条件となる加入期間が短縮される。なお離職理由が自己都合と会社都合では、受給開始までの待機期間が異なる。
・就職促進給付
基本手当を受給している期間に再就職した場合、給付される「再就職手当」のほか、再就職手当を受けている人が6ヵ月以上雇用され、離職前よりも1日あたりの賃金が低下している場合に給付される「就職促進定着手当」などがある。
・教育訓練給付
雇用保険に3年以上加入している人(初めて支給を受けようとする方については、当分の間、1年以上)が対象。厚生労働大臣が指定した能力開発やキャリア形成のための教育を受けた場合、その費用の一部が給付される。
・雇用継続給付
60歳以降に継続して働いているが、60歳時点と比べて賃金が低い場合に給付される「高年齢雇用継続給付」と、介護のために休業した人を対象に給付される「介護休業給付」がある。
Q.雇用保険の加入手続きは誰が行う?
A.事業主が加入手続きを行う。事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に「労働保険 保険関係成立届」を提出する(建設や港湾運送など、ハローワークに提出する事業がある)。「雇用保険 保険関係成立届」は労働基準監督署で受け取る。
初めて雇用保険適用対象となる従業員を雇った場合は、「労働保険 保険関係成立届」を提出後、事業所を管轄するハローワークに以下の届出書を提出する。
・事業所設置届
・雇用保険被保険者資格取得届
※受理印が押された労働保険の保険関係成立届の事業主控と確認書類を添える
その後、ハローワークから雇用保険被保険者証が交付されるので従業員に渡す。また新たに雇用保険適用対象となる従業員を雇うたびに雇用保険被保険者資格取得届をハローワークに提出することが必要だ。なお雇用保険被保険者資格取得届は、従業員が被保険者となった日の翌月10日までに行わなければならない。
Q.雇用保険マルチジョブホルダー制度とは何?
A.65歳以上の従業員は雇用保険の対象外だったが、2017年1月1日から年齢制限がなくなった。現在は年齢に関係なく、1週間の所定労働時間20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある従業員が雇用保険の加入対象となる。しかしこの条件では、非正規雇用などの高年齢者は雇用保険に加入できず、失業すると失業手当を受けることができない。
今後のシニア層労働力の需要を鑑み、2022年に雇用保険法が改正され、短期間勤務の高年齢者に対する雇用保険加入条件を緩和する「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が導入された。短期間勤務の高年齢者に対する雇用保険加入条件は以下の通りだ。
・複数の事業主に雇用されている65歳以上の個人
・2つの事業所の労働時間を合計した場合、1週間の所定労働時間が20時間以上である(ただし1つの事業所における1週間の所定労働時間が、5時間以上20時間未満であること)
・2つの事業所でそれぞれ31日以上の雇用が見込まれる
ただしこの条件に該当する従業員が雇用保険に加入するには、本人が申し出る必要がある。
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