(本記事は、ジム・ロジャーズ氏の著書『日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く』の中から一部を抜粋・編集しています)

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(画像=ZUU online)

50代の日本人は国外投資に目を向けよ

日本人にとって、日本国外に投資をすることはきわめて重要だ。日本国内にほとんどの資金を保有している日本人は、早急に資金を海外に移すことを考えたほうがいいだろう。

日本で貯めてきた貯金と政府からの年金を老後資金のあてにしている人は、甘いと言わざるを得ない。日本政府が今後も紙幣を刷り続けるのであれば、日本円の価値は相対的に落ちるからだ。年金も、額面として受給できたとしても、その価値は保証されたものではない。日本人は、財政破綻した旧ソ連による年金が、急速なインフレに伴いほとんどの価値を失ったことを思い出すべきだろう。

もし日本で自宅を購入しているのであれば、売却して海外に移住するか、資金を移すことを私は勧めたい。しかし、昔の考え方で凝り固まった日本人には難しいかもしれない。日本の一般の人々が危機を感じるには、まだしばらく時間がかかるだろうから、私の意見が極端に思える日本人もいるはずだ。

そうであれば、まずは日本で今の仕事を続けながら、他の国を訪れてみることから始めてはどうだろうか。たとえば日系人の多いブラジルのような国に。現段階では、日本円はブラジルのレアルに比較して高いから、日本人はブラジルで豊かに過ごすことができる。

これが20年後になると、そうはいかない。すでに記したとおり、日本円の価値は今後下落するうえ、老齢化により身動きがとれなくなっていくからだ。別にブラジルでなくとも構わないが、日本にとどまっている人々は、できるだけ早いうちに海外に身を置くことを経験しておいたほうがいい。

短期間であれ海外に滞在すると、自分の中でその国の存在感が増してくるものだ。もしブラジルに旅行をしたのであれば、日本に戻ってからもブラジルのことが気にかかるようになるだろう。これは将来の移住につながるステップにもなり得る。

また、旅行をきっかけに、その国の情報を知るようになると、投資で失敗する確率は減る。投資を成功させるための考え方は第五章で詳しく触れるが、大切なのは、投資先の情報をリサーチすることにあるからだ。たとえばブラジルを訪れたことのある日本人は、訪れたことのない日本人よりも、見込みのあるブラジル株を見つけることができるだろう。

このようにして、うまく日本から国外に資産をシフトすることができれば、いっそのことリタイアをして海外に移住をしてみるといった方法もとりやすくなる。長期間海外に滞在すれば、日本で負担していた住民税や国民健康保険料などの負担を免れることができ、さらに今はまだ多くの国は日本よりも物価が低いため、日本で暮らすよりも豊かな人生を送ることができるだろう。

私のように、いつもどこかを転々とするような人生はとても楽しいものだ。妻のペイジは私のことを放浪者のようだと言うが、実際、人生を通じてそのように動いてきたと思う。もし私と同じようなタイプの日本人であれば、この世界では素晴らしい人生を送ることができる

リストラを免れたほうが不安

まだまだ老後まで何十年も残る日本の若者には、さらに選択肢がある。毎月の給料の一部を海外の株式やETF(上場投資信託)などに投資をするという方法も有効だが、できることなら長期間海外に身を置く経験を積んでもらいたい。

ある調査によると、中国における日本人留学生の数は、ここ数年増加傾向にあるが、半数以上が1ヵ月未満の短期留学にとどまっているという(図、2017年)。一方、1年以上にわたる長期留学をする学生は1パーセントにも満たない。これは、日本に留学する中国人留学生のうち、2割強が大学院生として日本を訪れているのと対照的だ。

日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く
(画像=日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く)

日本からの海外留学者の数を増やすことも大切だが、長く海外に身を置く経験をさせ、海外と接するマインドを育てることも同時に必要だ。この点は日本政府や教育機関において改善すべきことと考えられる。

グローバルに活躍するためには、海外で仕事をする経験を培うことが必要だ。そうすれば、日本と海外のビジネスの違いもよく理解できるだろう。

日本の雇用状況については、ときおり日本の知人から教えてもらっているが、問題を感じる点が少なくない。たとえば、近年は改善されてきているようだが、ゼネラリストが重んじられる傾向があり、ひとつの会社に身を置きながら、さまざまなタイプの仕事を経験させるという古いやり方だ。

こうしたやり方は、終身雇用が前提だったかつての日本企業では有効だったかもしれないが、現代にはフィットしない。なぜなら、その仕組み上、社内のルールや人間関係に長たけた人間ばかりが重用されることになるからだ。

今は、会社がいつなくなってもおかしくない時代である。シャープが台湾の鴻ホンハイ海精密工業の子会社になったように、海外資本によってまったく違うルールが導入される可能性もある。従来の手法では、このような環境変化が起きたときに、過去のスキルやノウハウが応用できないといった事態にもなりかねない。

海外でビジネスをする経験を積めば、日本に帰ってからも活躍できる可能性は高まる。海外には終身雇用などない。ほとんどの人々が別の会社に移ることを想定して、スキルやノウハウを培っている。そうしたやり方に日本人が学ぶところは少なくないはずだ。

そういえば最近、このような話を聞いた。日本では大手企業によるリストラが増えており、最近は45歳くらいの中堅の正社員もターゲットになっているというのだ。2018年から19年にかけてNECやカシオ計算機、富士通といった東証一部上場企業が揃ってリストラを発表し、こうした時代の動向はまだ続くことが予想される。このような企業は、終身雇用に裏打ちされた安定企業だったはずなのだが……。

知人の話では、多くの日本企業では今、実はリストラを免れた側の社員のほうが、リストラを受けた社員よりも大きな不安を抱えているらしい。このまま会社に残っていても、幸福にはなれないということが、何となく感じられるのだろうか。

そうした不安を感じるのであれば、日本の中ではなく、海外に目を向けて、留学や転職を考えてみることを勧める。仮に定年まで今の会社に勤めることができたとしても、その後の人生もあるのだから、選択肢は多く持っておいたほうがいい。

定年後に途方に暮れる日本人は少なくない。趣味もスキルもなく、友人もいないのであれば、それも無理からぬことだ。

チャレンジしてみよう。私は日本の先行きについては、現状のままでは暗い見通ししか持てないが、日本人の能力が劣っているとはまったく考えていない。

「できる」と思えば案外できるものだ。たとえ英語を使うのに自信がなくとも、コミュニケーション力をつければ、活躍できる場所は海外にいくらでもある。

伝わる!電話、メール、ビジネス文書の仕事活用術
ジム・ロジャーズ
1942年米国アラバマ州出身の世界的投資家。
イェール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年で4200%という驚異的なリターンを叩き出す。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論を教えるなど活躍。2007年に「アジアの世紀」の到来に予測して家族でシンガポールに移住し、その後も数多くの投資活動と講演をおこなう。 主要著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行 』『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』(以上、日経ビジネス人文庫)、『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』(プレジデント社)、『お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する』(PHP新書)がある。

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