(本記事は、ジム・ロジャーズ氏の著書『日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く』の中から一部を抜粋・編集しています)

jim rogers
(画像=ZUU online)

「安全」という言葉を信じない

私が投資家として講演をすると、「それは確実に儲かる投資ですか?」という質問が出てくる。そうしたとき、私はいつも「わからないよ」と答えるようにしてきた。

世の中の人々は、安全な投資先を探している。リスクがなく、確実に儲けることのできる投資先を。

しかし、世の中に安全な投資というものは存在しない。

もし確実に儲かることが約束されているのならば、すべての人がそうしているはずだろう。真っ当な投資家にとっては常識だが、すべては自己責任なのだ。

投資の世界においては、「安全」という言葉を決して使ってはならないという教訓は、アイスランドで起きたことから得ることができる。2007年のアイスランドでは、銀行預金に15パーセントという高い利息がついていた。「銀行に預けておけば安全だ」「確実に儲かる」と多くの人々が銀行にあり金すべてを預けたが、やがてアイスランドの銀行は破綻してしまったのだ。そうして、誰もが大金を失った。

私の母親の世代は、婚約したらまず宝飾店に行ってシルバーのカトラリーを買っていた。何か経済的な問題が生じれば、このカトラリーを売るつもりで。これはある意味、防衛的な投資だったのかもしれない。私の母は八セットものシルバーのカトラリーを買い、今は私が母から引き継いでいる。

しかし、ティファニーをはじめとする多くの企業がシルバーのカトラリーの製造をやめた。昔ほどの需要がなくなったからだ。このように、かつては有効だった投資手法が、現代には当てはまらないことも起こり得る。

世界はつねに変化している。そのことを認識しなくてはならないし、備えるべきだ。現在うまくいっていることが将来正しいなどということはないのだ。

誰もが「今回のブームは今までとは違う。まったく新しいことだ」などと言うときに経済的な破綻が起こる。バブル崩壊前の日本、リーマン・ショック直前に住宅ブームに沸いたアメリカ、ドットコムバブル……。

そうしたとき、「今回は確実に儲かる」と言っていた人がいて、多くの人が〝安全〞な投資と思い込んでいたにもかかわらず、手痛い損失とともに間違いに気づくことになった。

好機は危機に潜む

投資で大成功をしたいのであれば、ここぞ、というタイミングで集中的に投資をしなくてはならない。そうしたタイミングはめったに訪れるものではないが、ひとつ考えられるのは政府による決定だ。政策は正しいものであれ、国民の大半にとって無益なものであれ、変化の触媒となり得る。

たとえば中国は、かつて非常に不潔な国であり、それが故に私も中国移住を諦めたほどだったが、中国政府は巨額をつぎこんで国を清潔にすると決めた。そうすると、中国を清潔にする人々が大儲けすることになる。ここに投資のチャンスがあるのだ。中国の清掃業や清掃用品の販売会社など、いくつかの企業の成長を期待することができる。

また、「危機」と言われるような出来事が起きると、私はそこに投資の機会を探るようにしてきた。投資家らしく考えて、「待てよ、次の段階はなんだろう」と自分に言うのだ。

日本や中国、韓国には「危機」を表す言葉があるが、英語には完全に一致する言葉はない。危機という言葉には、アジアの何千年もの歴史の中で生まれた叡智を感じる。危機と好機は表裏一体なのだ。

日本株を積極的に買い増したのは、東日本大震災の直後だった。当時、日本の株価が著しく下がる様子を見たからだ。それらの株式は2018年にすべて売却し、ここから少なくない利益を得ることができたことはすでに記したとおりである。

こうしたやり方について、「人の不幸を利用している」と批判する人もいたが、それはまったくの見当違いだ。なぜなら危機に瀕した国で困っている人たちは、誰かがお金をもたらすことを望んでいるのだから。投資家が投資した資金を活用して危機に瀕した国が復興するのだ。危機を目の当たりにして、「おお、これはひどい」と言っているだけでは、投資家としてはダメだ。そこにどんな好機があるのかを探らなくては。

変化が良いものであれ、悪いものであれ、そこから大金を稼ぐ方法を見つけ出すことは誰にでもできる。たとえば中国や韓国がアジアで台頭することを嫌がる日本人は少なくないが、そうした人々を尻目に、変化を利用して大金持ちになる日本人も出てくるはずだ。

こうした視点を持つことができれば、誰もが裕福になれる。繰り返すが、起きている変化に抗ってはいけない。自分で変化をとらえて、自分が正しいと思うことをすればいいのだ。

金融業界が儲かる時代は終わりつつある

木が天まで伸びることはない。

つまり、天井知らずに上がるものなど、この世に存在しないのだが、バブルに特有の熱狂や興奮を目にすると、多くの人は「まだまだ上がる」と思ってしまう。

今、私が危ぶんでいるのは、アメリカの株式市場だ。リーマン・ショックにより2009年3月に底を打って以降、10年近くも上昇を続けている。多くの人々がアメリカの株式市場はまだまだ上がると期待を寄せているが、歴史を学んでいれば上昇相場はいつか必ず止まるものとわかるはずだ。

また、すでに世界中の人々は金融業界に否定的な感情を抱いている。このことも株式市場にとっては不安材料だ。ウォール街に集う裕福な投資家や銀行家が、過去30〜40年の間に莫大な金儲けをしたことに対し、人々は怒りを感じている。聖書には、イエス・キリストが裕福な両替商を邪悪だとして神殿から追い出したと書かれているが、それと同様の感情を現代の人々は抱いているのだ。

金融業界で私は大儲けをすることができたが、そうした時代は終わろうとしている。1958年には世界に5000人ほどしかいなかったMBAホルダーは、今やアメリカだけでも五万人を超える。金融業界はかつてなく競争が激しくなっているのだ。現代に生きる若者はMBAを取るよりもトラクターの運転を習ったほうがよほどいいと思う。これは冗談ではない。

今後数十年のことを考えると、金融業界はあちこちで悲惨な状況になるだろう。中国の金融業界で働くのであれば、政府による後ろ盾が期待できるが、その他の国の金融業界で成功できるとは思えない。

金融業界の時代が過ぎた後は、何が起きるのだろうか。これも歴史が明らかにしてくれる。実物経済の時代が来るのだ。

ロシアの小説に出てくるような、金持ちの農民が力を持つ時代が再び訪れるかもしれない。日本人が農業をすれば成功できると私が考える背景には、そうした理由もある。

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ジム・ロジャーズ
1942年米国アラバマ州出身の世界的投資家。
イェール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年で4200%という驚異的なリターンを叩き出す。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論を教えるなど活躍。2007年に「アジアの世紀」の到来に予測して家族でシンガポールに移住し、その後も数多くの投資活動と講演をおこなう。 主要著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行 』『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』(以上、日経ビジネス人文庫)、『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』(プレジデント社)、『お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する』(PHP新書)がある。

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