(本記事は、ジム・ロジャーズ氏の著書『日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く』の中から一部を抜粋・編集しています)

jim rogers
(画像=ZUU online)

お金について学ぶことを怠るな

お金のことを気にするなと先に述べたが、10代の若者がお金や仕事について学んでおくことは重要だ。一切知らないまま23歳を迎え、慌てて学ぼうとする人もいるが、これでは遅すぎる。

お金の基本を理解していないせいで、多くの人生が破壊されてきた。世間の人々は、お金をただ単に使うものと思っている。だからこそ無駄遣いから借金を作ったり、生活費の不足から結婚が破綻したりといった問題が起きている。行き当たりばったりでお金を使い、家計の破綻を起こす家庭が何と多いことか……。

日用品や食べ物のことで親が喧嘩ばかりしていると、その不安は子どもに伝わってしまうだろう。せめて安全な生活を保証するくらいの最低限のお金は、やはり必要だ。

お金は貯めるものであり、使うものではない。娘たちにはこうした考え方を育みながら成長してもらいたいと考え、彼女たちが生まれてすぐにブタの貯金箱を6つ買い与えた。そして、そこにアメリカドルやシンガポールドルなど、通貨ごとに貯金させている。私は娘を通貨投機家にしたいわけではないが、異なる種類の通貨があることや、貯金をすべきというシンプルなことを知ってもらうために、このようなことをおこなっているのだ。

長女のハッピーが2歳の頃、日本のテレビ局が取材に来たことがある。そのとき、ハッピーが自分の貯金箱にお金を入れているところを取材班は撮影していた。その姿を見て、私は本当に嬉しく思ったものだ。

お金をもらうとすぐに買い物をしたくなるのが子ども心だが、貯金をする意味を伝えると、小さな子でもきちんと理解できる。ハッピーもそうだった。

あるとき、彼女が妹よりも持っているお金が少ないことに気づいた。私はその理由を知っていた。どうしても欲しかったバービー人形を買ったということを。そのことを、私はハッピーに説明した。「バービー人形を買ったから、お金が少なくなったんだよ」と。

何かを買うと、お金は失われる。当たり前のことだが、頭ではわかっていても、人は無意識にお金を使ってしまうものだ。ハッピーは自らの経験を通して、お金がなくなるという事実の痛みを体感したことで、より慎重にお金を使うようになった。とても大切な教訓を得たわけだ。

お金を得るためには働かなくてはならない、ということも理解させておく必要がある。私は娘にお小遣いなどは与えず、ベッドメーキングなどの仕事をしたときに報酬を渡すようにしている。これもひとつのレッスンだ。

ブタの貯金箱がいっぱいになったら、大きな銀行で数えてもらい娘の口座に入金させている。銀行に預けると取引明細書が発行されるようになるので、それを見ながら私は利息について教えた。だから娘たちは世の中には利息というものがあり、預けていれば複利でお金が増えることも理解している。今は世界中、銀行に預けていても大した利息はつかないが、それでも銀行に預けることはいいことだと認識させることは大切だ。

娘も今は外で働ける年齢になった。私はハッピーが14歳のときに、仕事を見つけるように彼女に伝えた。もう家の手伝いで報酬をもらうのではなく、外に出て仕事を見つける経験をしてもらいたかったからだ。

私自身、アメリカの片田舎に住む貧乏な少年だったが、田舎を飛び出して自由を手にするために若いときから仕事をしていた。5歳のときには、野球場で空き瓶を回収したり、少年野球の試合でピーナッツを売って歩いたりしていたものだ。

仕事をするには、まず条件の合う仕事を探す必要がある。仕事が見つかったのなら、時間どおりに職場に行って指示通りに仕事をしなくてはならない。そうしたことを、どんな仕事をしたとしても学ぶことができる。お金を稼ぐということは、決して簡単なことではない。そのことを知るためにも、娘たちには仕事をしてもらいたいと私は考えた。

ハッピーに仕事を探すように言った私は、彼女がマクドナルドで時給8ドル程度の仕事を見つけてくると踏んでいた。ところが彼女は中国語を教える時給25ドルの仕事を見つけ、今は時給30ドルを稼いでいる。娘は私が思ったよりもずっと賢かったようだ。

娘たちは、ジム・ロジャーズの娘ということで甘やかされているように思われるが、私はそうはしたくない。私の遺産についても、まだどうするか明確に決めてはいないが、あまり多くを家族に遺すべきではないと考えている。少なくとも40歳になるまでは2人の子どもたちは遺産には手をつけられないようにするつもりだ。

娘たちには、自分自身の足で人生を歩んでもらいたい。だからこそ、私は生きているうちに娘たちに、お金や仕事について教えている。

何のために稼ぐのかを忘れるな

必要最低限のお金を稼ぐ意義について触れた。それでは、安心して生活できるようになっても、まだ稼ぐ必要があると思うだろうか? これは人それぞれ答えが異なる。

私にとってお金とは〝自由〞だ。私は物を買うためにお金が欲しかったわけではない。ただ自分が望むときに、自分が望むことができるようになるために、お金を稼いできたの だ。

私は、一度の人生で人が体験するよりも、多くのことを体験したいと思った。冒険をしたいと。私はいつか人生を振り返って、ああ素晴らしい時間を過ごした、すごく楽しかったと思いたいから、そのためにお金を稼いできたのだ。

だから、私はいくら金持ちになっても、自動車や家、飛行機、船といったものを欲しいと思うことがなかった。いわゆる華美な暮らしにはまったく興味がなく、長い間自家用車も持っていなかったし、娘たちの学校の送り迎えにも自転車を使ってきた。ショッピング自体、さして好きではない。

幸福とお金の関係を考えるときに思い出すのが、世界旅行のときに見た、シベリアやアフリカの子どもたちが壊れた車輪を使ってとても楽しそうに遊んでいた光景だ。あの子たちは何も持っていなかったが、自分が持っていないことを知らず、気にもしていなかった。

その一方で、金持ちでも不幸な人はいくらでもいる。それは働き詰めだからかもしれないし、情熱を見つけられていないからなのかもしれない。日本人の中にも、そうした人は少なくないだろう。

もし、あなたがお金を稼いでいるのに、幸福を感じられていないのであれば、何かを間違えている。そうした人は、私のようにリタイアをしてバイクで世界一周旅行をすれば、もしかすると今よりずっと幸せになれるかもしれない。いくばくかのお金が減ったとしても。

自分が幸せでさえいれば、仕事を続けたってもちろん構わない。

ウォーレン・バフェットは明晰で立派な人物だが、あれだけ稼いでもまだ仕事を続けているではないか。彼は自らの幸福のために、日々投資家として手腕を振るっているのだ。ジョージ・ソロスもそうなのかもしれない。もっとも、彼とはもう40年も会っていないから、彼について語るのは最初の妻について語るようなものなのだが……。

一時期、私の下で働いていた年上の男性は、108歳になっても毎日オフィスに通勤していた。彼は、実際は超大金持ちだったのだが、最後まで仕事をしながら亡くなった。このことについて、「お金持ちなんだから、リタイアすればいいのに」と考えるのは見当違いだ。彼は自分が大好きなことをしていたのだから。

幸福を手にしたければ、自分の思い通りのやり方を選ばなくてはならない。これが結論だ。

私がバイクで世界一周旅行をしていた頃、周りの人からは「大金持ちなんだから、飛行機で回ればいいじゃないか」「殺されるかもしれないぞ」とよく言われたものだ。だが、私は「飛行機ではダメだ」と答えた。

私は、バイクで世界一周することをまったく恐れていなかった。殺される可能性があることは十分に認識していたが、たとえ殺されたとしても、私は自分のやりたいことをしながら死ぬのだから構わないと思っていたのだ。

もしニューヨークでバスに轢ひかれたり、オフィスのパソコンの前で死んだりしたら、私にとっては不幸せなことだが、思い通り生きてから死ぬのは、決して不幸なことではないと私は思う。

自分自身にとって幸福な生き方をすることこそが、成功にほかならない。このことを忘れずに、生きていきたいものだ。

伝わる!電話、メール、ビジネス文書の仕事活用術
ジム・ロジャーズ
1942年米国アラバマ州出身の世界的投資家。
イェール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年で4200%という驚異的なリターンを叩き出す。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論を教えるなど活躍。2007年に「アジアの世紀」の到来に予測して家族でシンガポールに移住し、その後も数多くの投資活動と講演をおこなう。 主要著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行 』『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』(以上、日経ビジネス人文庫)、『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』(プレジデント社)、『お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する』(PHP新書)がある。

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