中堅・中小企業の友好的M&A支援で業界トップを走るM&A仲介会社の日本M&Aセンター。同社・執行役員の森山隆一氏は経営者向け事業承継のセミナーなどに登壇し、後継者に悩む中小企業やさらなる成長を志向する中小企業に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。

第3回は、長い付き合いになるからこそ結婚式を模したM&Aの成約式と調印式を行う必要があるという、日本M&Aセンターの想いを伺った。(聞き手:山岸裕一)
※本インタビューは2019年9月に実施されました

森山 隆一
森山 隆一(もりやま・りゅういち)
株式会社日本M&Aセンター執行役員 経営者支援部部長。株式会社ZUUM-A取締役。1978年⽣まれ、関⻄学院⼤学総合政策学部卒業。2001年株式会社東京三菱銀⾏(現三菱UFJ銀⾏)⼊⾏。2007年株式会社日本M&Aセンターに入社。ホテルインターコンチネンタル東京ベイ等成約実績多数。

日本M&Aセンターでは成約式と調印式を行う

森山氏
(画像=日本M&Aセンター)

――これまでのお話でもM&Aを買い手と売り手の結婚に例えられてきました。

当社ではM&Aを結婚と同じと考え、成約式と調印式を行います。最近では結婚式を挙げないカップルも増えている傾向にありますが、儀式を通じて立ち戻るところがあるのは重要だと考えています。取引先や仕入れ先等の関係者をさらに広く集めて「披露宴」を行ったこともあります。

式を通じて売り手と買い手がお互いの覚悟を知るいい機会になります。この式は買い手の役員に向けて見せている側面もあります。ディール(取引)の段階では買い手は社長と特定の役員だけで動いていることも多いため、この機会を通じて相手企業や代表の人柄、思いなどを買い手の全役員が知るいい機会になるのです。

お父さんのセミリタイヤを祝い、娘さんからねぎらいの挨拶文を読み上げてもらう。涙するシーンも多く見られますよ。

私たちのM&Aの中ではほぼ大半が調印式を行っています。調印式に参加していると、私たちの仕事はBtoBではなくてBtoCだなと思います。企業同士というより、いかに個人の心に触れるか。ほとんどがオーナー社長のため、当たり前ですけど社長は旦那であり、父親なのです。

奥様や娘さんは特に手紙を書くのが上手な方が多くて(笑)。サプライズで書いてもらうので控えめな素振りを見せる方もいるのですが、いざ蓋を開けたらとても良くできているし、泣かせてくる。普段は社長である夫やお父さんに手紙を書く習慣もないでしょうから、そんなことをされたら社長は泣いてしまうのですね。泣くまいとして、ぐっと右上を見続ける社長もいらっしゃいました。

私たちはこの式をとても大事にしています。なぜこういうことをやっているのか。式というのはとても大事で、その本質はマインドチェンジです。ディールが成立するまで、相思相愛ながらも、どうしても売り手は1円でも高く売りたいし、買い手は1円でも安く買いたいと考えています。株価、引継ぎ条件、契約内容に関して、弁護士のアドバイスもありながら、交渉を繰り広げるわけです。

ところが譲渡が決まった瞬間から、売り手と買い手は共同作業を行う同志になるため、ガラッとマインドを変えてもらう必要があるのです。そのためにはセンセーショナルで感動的なほうが気持ちの切り替えができると考え、私たちはこの儀式を行っています。

「今日から私たちは家族」だとお互い確認し合っていただく。自分の幸せは相手の幸せ、相手の幸せは自分の幸せ。その日から文字通り結婚し、家族になります。この式のあとでM&Aを辞めたケースは当社では1件もありません。

「後継者選び」を成功させるために

――それだけ深い付き合いになることが分かりました。一方で、長い目で見る必要があるからこそ、後継者を選ぶというのは経営者が向き合いたくない現実なのかもしれませんね。

そうかもしれません。基本的に後継者選びが最も時間を要し、継がせるのは社員か、子どもか、事業譲渡か、悩ましいところです。あまり楽しくなく、ワクワクする話ではないと感じる経営者も多いです。そして明確な終わりや期限がないため、先延ばしにしがちです。

夏休みの宿題と異なるのは、事業承継の場合は明確な期限が来ないことです。そのため、いつまでたっても決断されません。

ですので、ご相談をいただくきっかけがホラーストーリーというのはよくあることです。ホラーストーリーとは病気、不幸、困難……。

・友達の経営者が亡くなった
・業績が急に悪化した
・主要取引先から契約を切られそうだ……
・大きい裁判で訴えられそうだ……
・継がせようと思っていた専務が交通事故で亡くなった

「赤字になったら相談に来る」とおっしゃる方もいますが、赤字になると基本的に不利な立場と交渉にならざるを得ません。赤字の企業に高い値段を付けられないし、株価も渋くなる。誰も買ってくれません。

黒字で売上絶好調のときのほうが強気で交渉できるし買い手もたくさん集まる。いい相手もより多く見つかるのにも関わらず、その状態で日本M&Aセンターに訪れるお客様はあまりいらっしゃいません。

できるだけ会社も本人も元気なときのほうがいいのです。しかし、私たち仲介会社は日頃から経験しているから分かるものの、経営者ご本人は初めてのことであることが多いので、やはりなかなか勝手が分からず踏ん切りがつかないことが多いです。

ご相談いただいてからディールが決まるまで平均で11カ月を要します。また、場合によっては引き継ぎが片付くまで3年は期間を見積もっておいたほうがいいです。70歳で引退するには逆算して66、67歳ころには引き継ぎをスタートしたいところです。

しかし皆さん楽天家が多いのか、一度始まったらパパッと決まるイメージをお持ちの方が多い。実際はそう上手くはことが運ばず、パパッとは決まりません。そのため、「準備は早く、決断は慎重に!」の現実を啓蒙していきたいです。

M&Aのプロセスを理解する

――実際にM&Aを進めていく際も、お金が絡む話なので一筋縄にはいかなそうです。

どうやって事業譲渡を進めていくかというと、取引は株式をベースに行うわけですね。M&Aというのは単純に言えば「株券と現金を交換すること」ですから、株券に問題がなければ基本的に上手くいきます。株主や株券によくある問題がこちらです。

・株券紛失
・株主の何人かが行方不明
・株主親族の反対
・名義株、持株会の反対

これらを上手く整理していく必要があります。

そしてもう一つ大事なことは、社長同士が会うトップ面談です。この感触や雰囲気がM&Aの成否を大きく分けます。特に中小企業の場合はトップの人柄がそのまま会社のカルチャーに直結していることが多いです。書類だけではお互いの魅力や欠点をすべて知ることはできないため、お互いに納得するまで面談しましょう。

・売り手の過去の苦労話などしてもらう
・文化、大事にしている価値観などを理解してもらう
・腹を割って話してもらう
・想定されるシナジーについて話してもらう

ポイントは、

1,企業理念や文化の理解
2,両者の強み・弱みの整理
3,将来のシナジー効果

これらをお互いが納得いくまでトップ同士で話し合うことが大事ですね。

(提供:THE OWNER

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