(2) 賃貸マンション

東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2019年第2四半期は前年比でシングルタイプが5.3%、コンパクトタイプが2.4%、ファミリータイプが4.2%上昇した(図表-13)。また、高級賃貸マンションの空室率(2019年9月末)は前年比横ばいの5.6%、賃料は前年比+1.9%の18,067円/月坪となった(図表-14)。

総務省「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2019 年7-9月期の東京都区部の転入超過数(2)は、6,166人(前年同期比+224人)であった。継続的な人口流入に支えられた東京の賃貸マンション需要は底堅く、賃料の安定的な上昇に寄与している。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)
不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2)転入者数-転出者数

(3) 商業施設・ホテル・物流施設

経済産業省「商業動態統計」によると、2019年9月の小売販売額(既存店、前年同月比)は百貨店が22.8%増、スーパーが4.4%増となった(図表-15)。9月は、10月の消費増税前の駆け込み需要の勢いが増し、販売額が大きく増加した。特に、百貨店では、宝飾品を中心とした高額商品や化粧品で駆け込み購入が起こった模様である。一方、コンビニエンスストアの販売額は▲1.1%とやや低調であった。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、観光庁によると訪日外国人旅行消費額(2019年第3四半期)は1兆2,000億円(前年同期比+9.0%)となり、1-9月では3兆6,189億円と過去最高を記録した。

日本不動産研究所、ビーエーシー・アーバンプロジェクト「店舗賃料トレンド」によれば、東京主要エリア別1F店舗賃料(2019年上期)は、「銀座」が最も高く(75,200円/月・坪・前期比+33%)、次いで「表参道」(52,400円/月・坪・前期比▲14%)、「渋谷」(45,200円/月・坪・前期比+5%)、「新宿」(42.500円/月・坪・前期比+19%)、「池袋」(29,500円/月・坪・前期比▲7%)となっている(図表-16)。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2019年8月の延べ宿泊者数は前年同月比▲2.4%減少し、30ヶ月ぶりに前年同月比マイナスとなった。日韓関係の冷え込みにより、韓国からの宿泊者が前年同月比▲49.2%減と半減した等が主因である。翌9月の延べ宿泊者数は、ラグビーワールドカップ開催等により、前年同月比+5.0%となり(日本人+2.0%、外国人+21.5%)、再びプラスに転じた。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

オータパブリケイションズによれば、2019年8月のホテルの客室稼働率(全国平均)は84.5%(前年同期比▲2.5%減)となり、4ヶ月連続で前年同月比マイナスとなった(図表-18)。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年9月末)は前期末比▲0.3%低下の2.4%となり、過去最低水準となった(図表-19)。2019年第3四半期の新規供給は過去最高水準の20.6万坪であったが、Eコマース市場の拡大や物流拠点の集約・効率化ニーズを背景に先進的物流施設への需要は引き続き旺盛で、新規供給を上回る需要(21.1万坪)が発生し、空室率が低下した。CBREの予測では、首都圏の空室率は今後2四半期で0.1%低下の2.3%を予想し、過去最低水準を更新する見通しである。近畿圏の空室率も、新規供給が落ち着くなか前期比▲1.5%低下の5.6%となった。

また、一五不動産情報サービスによると、2019年7月の東京圏(3)の募集賃料は前期比▲1.0%下落し4,120円/坪となった。ただし、東京都に限定した募集賃料は2008年7月の調査開始以降で初めて7,000円/坪を上回り、堅調に推移している。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県

J -REIT(不動産投信)市場

2019年9月末の東証REIT指数(配当除き)は、6月末比12.3%上昇し、TOPIX(+2.4%)の上昇率を4四半期連続で上回った。セクター別では、住宅が13.6%、オフィスが12.9%、商業・物流等が11.0%上昇した(図表-20)。9月末時点のバリュエーションは、純資産10.0兆円に保有物件の含み益3.4兆円を加えた13.4兆円に対して時価総額は16.5兆円でNAV倍率は1.2倍、分配金利回りは3.5%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.7%となっている。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は2,901億円(前年同期比▲48%)と大幅に減少した。1-9月累計では1兆1,856億円(▲25%)となり昨年対比で約4,000億円の減少となっている(図表-21)。不動産売買市場では引き続き物件の品薄感が強く取引利回りも低下傾向にあるため、J-REIT各社は外部成長よりも内部成長に軸足を置いた運営姿勢を強めている。また、アセットタイプ別の取得割合(1-9月累計)は、オフィス(25%)、物流施設(23%)、ホテル(20%)、商業(13%)、住宅(11%)、底地など(8%)、の順に多い。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

7月に入り、2007年12月以来11年7カ月ぶりに2,000ポイントの大台を回復した東証REIT指数はその後も堅調に推移し年初からの上昇率は23%となった。このように上昇基調を強めるなか、投資家動向にも変化が見られる。東京証券取引所の投資部門別売買状況によると、今年5月以降、生保・損保の買いが増加し5~9月の累計で869億円の買い越しとなった。もともと、REIT市場における生保・損保の保有比率は2%程度と低く、これほどの買い越し額は初めてのことである。10年国債利回りがマイナス利回りで推移するなか、J-REIT市場の高いイールドスプレッドに着目した国内資金の流入が継続している(図表-22)。

不動産クォータリー・レビュー2019年第3四半期
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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吉田資 (よしだ たすく)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・総合政策研究部兼任

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