(本記事は、高橋 聡氏の著書『起業するより会社は買いなさい サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ』講談社の中から一部を抜粋・編集しています)
M&Aが一般的にならない理由
従来M&Aの情報は秘匿性が高く、M&Aの専門家に依頼して、内密に買い手を探してもらうという行動が取られます。
M&Aの専門家は独自に集めた企業リストから、買い手候補となる会社をリストアップし、一社一社買う可能性があるか確認を取っていきます。買い手を探す作業は、非常に時間がかかります。誰でも買いたい良い条件の会社であれば、買い手はすぐに見つかるのですが、業績がちょっと厳しい場合や、赤字や債務超過のような案件の場合は、簡単には買い手が見つかりません。
専門家の手数料は、成果報酬が一般的です。
M&Aが成約してはじめて手数料がもらえるのです。ですから、専門家はどうしても買い手が見つかりやすい良い案件、そして一件で手数料が十分稼げる大きな案件を手掛けたい、という意向が働きます。大手のM&A仲介会社の場合、相談を受けるうちの、10パーセント程度しか仕事を引き受けないという状況もあるようです。すべてがそういうわけではありませんが、専門家もボランティアではないので、業務効率化を目指すとどうしてもそうならざるをえないのです。
一方、会社を買いたい企業も、M&A仲介会社が手持ちのリストから選ぶことになります。そのためまずは仲介会社にリスト登録してもらう必要があります。登録されても案件は可能性の高い買い手から順に提案されるので、リストの下位の企業にはなかなか情報が回ってきません。買い手を探す作業は膨大なコストと時間がかかりますので、M&Aは東京の大手のM&A仲介会社に依頼しないと難しい状況だったのです。
一方、中小企業が会社を買おうとする場合は、必ずしも大きな案件である必要はありません。むしろ身の丈に合った小さな会社が欲しいのです。仮に赤字の会社であっても自社のネットワークやノウハウをつぎ込めば、業績を改善できる場合も多くあるはずです。従来、一部の地方の金融機関や税理士事務所などが中規模のM&Aを手がけていましたが、地方では買い手の候補がさらに限られますので、買い手探しのコストが重しとなり、小さな案件はサポートできない状況が続いていたのです。
誰も手がけない案件にこそ、磨く余地があり、小さく買って大きく伸ばす可能性が残されているわけで、もったいないとしか言いようがありません。
しかし、ネットを使ったこの新しい仕組みにより、M&A案件情報に触れることができる人が膨大に増えました。いまではサラリーマンが会社を買って社長になる人まで出てきました。小規模の個人事業までもがM&Aできるようになったため、挑戦する人たちの数が圧倒的に増えたのです。
中小企業のM&Aはシンプルでいい
トランビのスタートで多くの人がM&Aに挑戦できるようになったとはいえ、M&Aのすべての交渉がインターネットで完結するわけではありません。実際は、トランビで売り手と買い手をマッチングした後が本格的なM&Aのスタートなのです。妥当な価格はいくらなのか、契約書にはどんな条件を織り込むのか、引き継ぎ期間はどれぐらいに設定するのか、その際の先代社長の給与はどうするのか、など交渉のポイントは多岐にわたります。小規模な事業の場合であってもM&Aの交渉を売り手と買い手の本人同士だけで行うのはリスクもありますので、専門家を上手に活用することが大切なのです。
トランビはM&Aマッチングを行った後に相談できるM&A専門家のネットワークを全国に作ることにもっとも大きな手間をかけています。安心して経営者がM&Aに挑戦できるようになるには、ネットのマッチングの仕組みと、安心して相談できるM&A専門家のネットワークが不可欠なのです。
トランビを始めた当初、「こういう事業を行っているのですが、ご協力いただけませんか」と、公認会計士、税理士、弁護士、経営コンサルタントなど、全国の専門家に声をかけていきましたが、ほとんど相手にしてもらえず、協力してもいいという人も、まあ、しょうがないかという感じでした。そもそも、インターネットでM&Aができると思っていないのです。彼らはすでにM&Aに取り組んでいてその難しさをよく理解していますから、こんな仕組みが成り立つはずがないと思っていたのだと思います。
トランビの提携専門家である公認会計士の小木曽正人先生も、最初は「馬鹿な仕組みを始めたな」と思っていたそうです。ところが先生が試しに掲載した案件に、一気に多くの問い合わせが来て実際にM&Aが成約したとき、はじめて「これはいけるかもしれない」と思ったと言っています。いまは、「絶対やれる」と言ってくれています。
先生は、この仕組みでM&Aに挑戦することができるなら、世の中のすべての企業のM&Aが扱えると、そのとき確信したそうです。その後、トランビは大きく全国に広がりました。先生はいま、自分のように小規模M&Aを扱ってくれる会計事務所を増やそうと、各地でセミナーを行っています。
小木曽先生はこう話しています。
「M&A専門家の手数料が高いのは、成功報酬だからです。M&Aが成約して、はじめて報酬が入ってくる。そのため、成功する確率の高い案件や成功したときの報酬が大きい案件を優先して扱います。
一方、私は廃業しかかった会社を、『廃業する前にいったんトランビに載せてみましょう。買い手が来たら私がサポートします。M&Aできればみんなが喜ぶし、M&Aできなければそのときはじめて廃業を考えればよいのではないでしょうか』というスタンスなので、従来とは大きく異なります。
これまで専門家は、仕事を引き受けたら、まず買い手を探すところから始まりました。そこにもっともコストがかかります。そのため、難しいM&Aの相談に来られても引き受けられないケースが、非常に多くあります。引き受ける場合は、少なくない着手金を取る場合もあります。それだけ従来のM&Aは、難しいということです。
しかし、トランビの場合は、載せた後は、自分から買い手を探す必要がありません。ほうっておけばいいのです。買い手から申し込みが来て、はじめて動き出すことになります。だから売り手も会計事務所も、少しも困りません。初期費用がゼロなのです。そこが画期的なのです」
トランビを使えば、廃業を考えているたくさんの会社を第三者に承継させる選択肢を示すことができます。会計事務所等、廃業を検討されている顧客を持っているみなさんは、ぜひM&Aを選択肢に入れていただきたいのです。そして、M&Aをサポートするメニューを作っていただきたいのです。
M&Aの現場ではほとんどが交渉です。専門家は、売り手と買い手の間で、緩衝材のような役割を担うことになります。交渉は3ヵ月から半年ぐらいかかりますから、どのタイミングでどういう情報を出し、互いのすり合わせをしていくか、知識や経験が必要になります。
ただし、大企業のM&Aと違い、中小企業のM&Aは検討項目を絞り込んで効率よく進めることが可能です。M&Aは、非常にハイレベルなものというイメージが一般的にあるため、「うちには無理だ」と敬遠されがちです。会計事務所の中でも、M&Aを扱ったことがある人は、いまだ全体の5パーセントほどだと言われ、専門家不足の状況が続いています。こういった状況を変えて誰もがM&Aを手がけられるようになるには、専門家の育成が必要なのです。特に地方では専門家の数が足りていません。
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