(本記事は、高橋 聡氏の著書『起業するより会社は買いなさい サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ』講談社の中から一部を抜粋・編集しています)
売りに出ている会社の実例
小規模M&Aには大きなチャンスがある―そのことがわかっていただけたでしょうか。
これまで、大手のM&A仲介会社に集約されていたM&Aの情報が、ITを活用することにより、簡単に誰でもアクセスできる環境になりました。いま、小規模M&Aが注目されているのはそのためです。
個人や中小企業向けに、ネット上でM&Aを進める仕組みのひとつに、「トランビ」があります。
興味を持たれた方は、ぜひネット上で「トランビ」を検索し、実際にそこにどのような会社が掲載され、「売りに出されているか」確認してみてください。
トランビは2011年、中小企業の後継者不在問題を解決することを目的に、私が父から継いだアスク工業の一事業として始めたM&A情報サイトです。M&Aを考えている会社の経営者同士が自ら交渉できる日本初の仕組みとして、最近では会員数が大きく伸びています。個人事業主も利用可能なことから、飲食店や、美容室など身近な事業の売買も活発に行われています。当初は経営者自らが交渉を行う仕組みとしていたのですが、最近ではM&A専門家が利用するケースも増えています。
温泉旅館、コンサルティング事業、コピー代行業、飲食店、ゲーム企画開発業など、様々なM&A案件がサイト上に「譲ります」として掲載されており、売り上げは1億円以下の会社が全体の8割ほどを占めています。
トランビで売却する事業の案件を掲載したり、掲載されている案件に買いの申し込みを行ったりするためには、まずメールアドレス等を記入してユーザー登録を行うことが必要になります。
ユーザー登録をしなくても、現在「売り」に出ている案件の一覧は誰でも見ることができます。
たとえばトランビに掲載されている「関東・甲信越のスポーツ用品メーカー」という案件では、次のような条件が明示されています。
- 売上高 500万〜1000万円
- 営業利益 500万〜1000万円
- 売却希望価格 750万〜1000万円
- 所在地 関東・甲信越
このメーカーが作っているのは、ロッククライミングの滑り止め剤(チョーク)です。
チョークは、クライマーの必需品で、消耗品なのでリピート利用があり安定した収益が見込めます。
さらにこの売り手は、セールスポイントと補足情報を次のように書いています。
日本のロッククライミング事業は成長の可能性が大いにあり、2020年には東京オリンピック正式種目になりました。日本人選手は男女ともに世界でもトップクラスの成績を残しておりメダルは確実視されています。また、現在日本のロッククライミングメーカーは個人規模の企業しかないため、参入後に拡大していくチャンスはあると考えています。開業して1年半程度ですが、当メーカーの商品は多くの日本代表選手が使用しており、認知度も上がってきました。製造業ですが、大きな工場などは必要ないため場所を選ばず比較的手軽に始められるかと思います
開業当初から、ここまで貢献したらやめると決めていましたが、継続を希望されるお声を頂いたため今回売却することに致しました。売却後も業界についての情報提供やニーズなどご相談いただくことも可能です
この案件は実際にいまでも運営している会社なので、会社名や会社が特定されてしまうおそれのある情報の掲載はできないようになっています。万が一、会社を売っていることが事前に知れてしまうと取引先や金融機関に余計な心配をかけることとなり、最悪の場合取引停止となるようなケースも想定されます。M&Aでは情報の扱いはもっとも大切なのです。まずはネット上での打診から
トランビは、こうした会社の売り手と買い手を、ネット上でマッチングするサイトです。
会社を売りたい人が、その案件を自らオンラインで掲載する。それを見て、買いたいという希望を持った人が、まずはトランビのサイトを通じて連絡を取るところから交渉がスタートします。買い手と売り手がサイトのチャット機能を使って連絡を取り合い、情報交換します。
たとえば、こんな企業が掲載されています。
- 高級釣り具店
- モバイルゲームの開発会社
- 木造建築専門の建設会社
- ベトナムへの越境通販サイト
- 露天風呂がある温泉旅館
- 貸し衣装&フォトスタジオ
- 沖縄本島での中古車販売/リース
- チャット小説アプリ販売
- ハワイのジュエリーショップ
- 子供向け体操教室
- iPhoneケース、雑貨販売
どうでしょう。気になった企業はあるでしょうか。
さて、ここでは実際に「会社を買う」ためのプロセスについて簡単に触れておきたいと思います。会社を買収するプロセスは大きく分けると「検討期間」、「交渉期間」、「引き継ぎ期間」の三つの期間となります。
- 「検討期間」
- どんな会社を買いたいか、買ったらどうしたいかをまず考える期間です。 過去の自分の経験や能力と照らし合わせて、どのような会社を買えばよいのか、検討を繰り返して、いろいろな選択肢について悩む期間です。人によっては何年もずっと検討している方もいます。
- 「交渉期間」
- 長い期間をかけ検討を行った結果、実際に買いたいM&A案件を何件かに絞り込みます。いくつかの案件に連絡を取り、面談を経て、金額も含めた条件等を交渉して最終的には譲渡契約を結びます。最後に資金を振り込み、権利の譲渡を受けます。
- 「引き継ぎ期間」
- 譲渡契約の締結が終わり、先代の経営者から事業を譲り受けて、運営を行うために事業の引き継ぎ作業を行います。従業員、取引先や金融機関への説明、代表者が変わる場合は登記変更、具体的な日々の業務の引き継ぎなど多くの作業が発生します。 実は、この引き継ぎ期間こそ、もっとも多くの方々が「失敗」を犯す期間なのです。 引き継ぎ期間が終わるまで、気を緩めず、引き継ぎが終わってはじめてM&Aプロセスが完了すると考えていただきたいと思います。
仮に飲食店を買収しようと考えた場合、買収後にあなたはどんなお店にしようと考えていますか。
メニューを一新して女性客を増やす、内装を変更して高級感あるお店にする、食材の仕入れルートを変更して原価率を下げる、など様々な打ち手があります。単価を上げる、販売数量を上げる、などで売り上げを伸ばすのか、家賃や人件費などの固定費、もしくは食材などの変動費を変更するのか、など妄想を数字に置き換えて考えてみることも大切です。
この買ったあとの事業についての妄想は、専門家はやってくれません。経営者であるあなた自らがやる必要があるのです。この妄想と計算をあらゆる案件について何度も行ってみて、もっとも投資回収期間が短い案件がどのようなものなのか自ら計算してみるのがよいでしょう。
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