(本記事は、佐々木 理恵氏の著書『ここだけ読めば決算書はわかる!2020年版』新星出版社の中から一部を抜粋・編集しています)

収益表,キャリアウーマン
(画像=PIXTA)

会社が稼げているか、収益性を見てみよう

資本の面と、取引の面から見る

経営分析とは、決算書などをもとに、会社の経営成績や財政状態、経営状況に関する情報を得て、問題や改善点などがないかを分析し、検討することです。

経営分析では、収益性や安全性、成長性、効率性など、さまざまな観点から分析します。まずは、収益性の分析の仕方を見ていきましょう。

収益性とは、簡単にいうと、会社がどれくらい稼げて、儲けているかです。

収益性は、主に次の2つの面から見ることになります。

  • 会社の資本(資産)をどれだけ活用できているか(資本収益性)
  • 取引によってどれだけ売上をあげられているか(取引収益性)

売上高に対する5つの利益の割合を見る

まず、取引収益性のほうから見ていきましょう。ここで用いる決算書は、損益計算書です。損益計算書には、段階利益があらわされていましたね。その各利益が、売上高を100とした時に、どれくらいの割合になるかが、取引収益性の指標となります。これを総称して、売上高利益率といいます。

その1つが、売上高総利益率(売上総利益率)です。アラリ(粗利益)率ともいいます。売上総利益は、売上高から売上原価(小売業なら商品の仕入原価など、製造業なら製品の材料費や製造に関わる人件費など)を差し引いたもので、これが売上高に占める割合が高いほど、アラリ率の高い、良い数値といえます。計算式は、〈売上総利益÷売上高×100〉で求めます。

また、売上高に対する、営業利益の割合を示す、売上高営業利益率という指標もあります。

営業利益は、売上高から売上原価と販管費を差し引いたものですから、売上高営業利益率は、会社が本業だけでどれくらい儲けられているかを見るのに役 立つ指標といえます。計算式は、〈営業利益÷売上高×100〉で求めます。

比率分析と実数分析
売上高営業利益率など、決算書から割り出した「比率」を使って行う経営分析を、比率分析といいます。また単純に、決算書に書かれている営業利益などの「実数」をもとに行う分析を、実数分析といいます。経営分析では同業他社との比較や、過去の実績との比較などを比率分析や実数分析を用いて行います。

取引収益性を見る指標①

売上高○○利益率
→損益計算書にあらわされる段階利益が、それぞれ売上高を100とした時にどれくらいの割合(%)になるか

売上高総利益率(売上総利益率)
※売上高総利益率は、アラリ(粗利益)率ともいいます →売上高に対する、売上総利益の割合を示す指標

求める計算式
売上高総利益率(%) = 売上総利益÷売上高×100

売上高営業利益率 ※会社の本業での収益性を見る指標が売上高営業利益率です →売上高に対する、営業利益の割合を示す指標

求める計算式
売上高営業利益率(%) = 営業利益÷売上高×100

目安の1つの平均値※は、製造業で5.5%、卸売業で1.9%、小売業で2.8%です
※経済産業省「平成30年企業活動基本調査(速報)」による

収益性を見るための、その他の指標

売上高に対する、経常利益と当期純利益の割合

売上高に対する、経常利益の割合を示す指標が、売上高経常利益率です。

経常利益(ケイツネ)は、営業利益から営業外損益を加減したもので、本業とそれ以外の活動を合わせて、毎期のように得られるであろうビジネスでの当期の儲けです。ですから、売上高経常利益率は、会社の総合的な収益力を見るのに役立つ指標といえます。

計算式は、〈経常利益÷売上高×100〉で求めます。

また、売上高に対する、当期純利益の割合を示す指標が、売上高当期純利益率です。

当期純利益は、すべての収益からすべての費用を差し引いて、最終的に会社に残った利益です。

計算式は、〈当期純利益÷売上高×100〉で求めます。

販管費の効率の良さを見るための指標

このほか、売上高販管費率も、取引収益性を見る指標の1つです。

販管費とは、売上原価以外に、会社が本業での活動にかかった費用(販売費及び一般管理費)です(中身は業種によって異なります)。

この販管費が、売上高に対してどの程度効率良く使われているかがわかる指標が、売上高販管費率です。

計算式は、〈販管費÷売上高×100〉で求めます。

なお、全部で5つの指標の計算式は、どの利益、あるいは費用を、売上高で割るか、だけの違いになります。

▶売上高に対する費用の割合を示す指標
売上高販管費率のように、売上高を100とした時の費用の割合を見る指標には、ほかにも売上高売上原価比率や、売上高研究開発費比率などがあります。研究開発費とは、新しい製品やサービス、製造方法などを生み出すためにかかる費用で、将来のビジネスに関わる重要なコストの1つです。

取引収益性を見る指標②

売上高経常利益率
※売上高経常利益率は会社の総合的な収益性を見るための重要な指標です
→売上高に対する、経常利益の割合を示す指標

求める計算式
売上高経常利益率(%) = 経常利益÷売上高×100

目安の1つの平均値※は、製造業で7.8%、卸売業で3.3%、小売業で3.0%です
※経済産業省「平成30年企業活動基本調査(速報)」による

売上高当期純利益率
※すべての収益からすべての費用を差し引き最終的に残った利益が当期純利益です
→売上高に対する、当期純利益の割合を示す指標

求める計算式
売上高当期純利益率(%)=当期純利益÷売上高×100

売上高販管費率
※これら収益性を見る指標を過去の実績や同業他社と比較してみることが大切です
→売上高に対する、販管費の割合を示す指標

求める計算式
売上高販管費率(%)=販管費÷売上高×100

目安の1つの平均値※は、製造業で15.0%、卸売業で9.4%、小売業で25.5%です
※経済産業省「平成30年企業活動基本調査(速報)」による

資本の活用の観点から収益性を見てみよう

資本を効率良く使い、利益を出しているか

同じ収益性でも、ここでは会社の資本(資産)をどれだけ活用できているか(資本収益性)の分析指標を見ていきます。

この指標には、まず自己資本利益率(Return on Equity:ROE(アール・オー・ イー))があげられます。

自己資本利益率(または株主資本利益率ともいいます)は、株主が出資したお金を、会社がいかに効率良く使って、利益を得ることができたかを示す指標です。つまり株主から見ると、自分が会社に投資したお金が、どれくらいの収益(リターン)をあげたかを知るための指標といえます。

自己資本利益率の計算は、損益計算書にあらわされる当期純利益と、貸借対 照表にあらわされる自己資本(ほぼ株主資本と同じものと考えます)により、 次の計算式で求めます。

〈当期純利益÷自己資本×100〉

投資家から注目される、ROE

自己資本利益率は、近年、株式投資家から注目を集めている指標でもあります。「JPX日経インデックス400」は、このROEを基準の1つとした、新しい株 価指数です。

当然、数値は高いほどよいのですが、これはあくまでも株主の資本を上手に使っているかどうかを見る指標であり、株価(銘柄の価格)が割安か、割高かを見る株価指標ではないので注意しましょう。

一般的な話として、日本の会社は、海外の会社と比べてROEの数値が低い、つまり株主が出したお金を効率良く使って利益をあげられていないといわれます。最近では、投資家からROEが注目されだしたことから、ROEを向上させるための努力を、積極的に実施する企業もあらわれています。

▶ROE を向上させる努力とは
ROEを向上させる主な努力は、①業績を向上させて利益を増やす、②自己資本(≒株主資本。ROE計算式の分母にあたる)を小さくする、があります。

②のためには、株式市場に出ている自社株を買い戻して消却する「自社株買い」や、株主への配当を増やす「増配」を行います。どちらも株主優遇策です。

資本収益性を見る指標、ROE

自己資本利益率とは…
→株主が出資したお金を、会社がいかに効率良く使って、利益を得ることができたかを示す指標

→株主から見ると、自分が会社に投資したお金が、どれくらいの収益(リターン)をあげたかを知ることができる指標

→英語では、
「ROE : Return on Equity(アール・オー・イー)」という

→計算式は、
自己資本利益率(%) = 当期純利益÷自己資本×100

近年はROEの向上を目指す会社が増えている!

ROE を向上させるには…

努力1:業績を向上させて利益を増やす
努力2:自己資本を小さくする
→・自社株買い(株式市場から自社株を買い戻して消却)
 ・増配(株主への配当を増やす)

注意!
有価証券報告書や決算短信では、自己資本利益率を次のように扱っています。
①有価証券報告書等では「自己資本利益率」、決算短信では「自己資本当期純利益率」と称している。
②計算式は  自己資本利益率(%) = {(純資産-新株予約権-非支配株主持分)÷当期純利益}×100
③決算短信の「自己資本当期純利益率」の計算では、上記の計算式で、分母は期首・期末の平均値を用いている。

ここだけ読めば決算書はわかる!
佐々木 理恵 (ささき まさえ)
税理士。自由が丘産能短期大学・産業能率大学通信教育課程兼任教員。産業能率大学経営学部兼任教員。産業能率大学大学院総合マネジメント研究科税務マネジメントコース兼任教員。日本簿記学会会員。平成4年以降、中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所、エルイーエフコンサルティング等において税務スタッフとして勤務。平成19年に佐々木理恵税理士事務所を開業。法人・個人事業主のお客様に向けて、決算書作成、税務申告等の業務サポートを提供。短大、大学で簿記講師を務め、現在「財務諸表の考え方」をはじめ、「会計学入門」「所得税法」なども担当(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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