2019年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比4.4%増(1)と前期の同4.9%増から低下し、Bloomberg調査の市場予想(同4.4%増)と一致した。

マレーシアGDP
(画像=PIXTA)

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内外需の悪化が成長率低下に繋がった(図表1)。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比7.0%増(前期:同7.8%増)と低下したが、食品・飲料やホテル・レストラン、輸送を中心に高めの水準を維持した。

政府消費は前年同期比1.0%増(前期:同0.3%増)と上昇した。

総固定資本形成は同3.7%減(前期:同0.6%減)と低下した。設備投資が同7.4%減(前期:同4.2%減)とマイナス幅が拡大し、更に建設投資も同2.4%減(前期:同1.2%増)と2期ぶりのマイナス成長となった。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同0.3%増(前期:同1.8%増)と鈍化、公共部門が同14.1%減(前期:同9.0%減)と8期連続のマイナスとなった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.0%ポイントとなり、前期の+1.4%ポイントから縮小した。輸出が同1.4%減(前期:同0.1%増)とマイナスとなり、輸入が同3.3%減(前期:同2.1%減)と低迷した。

マレーシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給側を見ると、主に鉱業の不振が成長率低下に繋がった(図表2)。

第一次産業は同3.7%増(前期:同4.2%増)と低下した。前年に天候不順のために低調だったパーム油(同8.4%増)が堅調に拡大、天然ゴム(同7.2%増)が上昇した一方、漁業(同2.6%減)が低迷した。

第二次産業をみると、まず鉱業は同4.3%減(前期:同2.9%増)と、原油生産の落ち込みによって2期ぶりのマイナスとなった。また製造業は同3.6%増(前期:同4.3%増)と低下した。内訳を見ると、輸送用機器(同6.1%増)の堅調に推移したが、主力の電気・電子、光学機器(同3.1%増)と石油、化学、ゴム・プラスチック製品(同2.9%増)が伸び悩んだ。また建設業は同1.5%減(前期:同0.5%増)と低下し、2006年以来のマイナス圏に落ち込んだ。

GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比5.9%増(前期:同6.1%増)と小幅に低下したものの、堅調な伸びを維持した。卸売・小売(同6.6%増)と情報・通信(同6.0%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.7%増)が堅調な伸びを維持した一方、政府サービス(同3.1%増)と金融・保険(同4.4%増)が低調に推移した。

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(1)11月15日、マレーシア中央銀行が2019年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

7-9月期の成長率は再び+4%台半ばまで低下した。7-9月期は鉱業生産と建設工事の縮小が成長鈍化に繋がった。鉱業部門は前年の天然ガスの供給ショックからの反動増が続いた一方、油田のメンテナンスによって原油採掘量が急減した(図表3)。また建設工事はマハティール政権下で一旦停止していた大型インフラプロジェクトが再稼動し始めたものの、住宅部門と非住宅部門の低迷が響いた。

外需主導の景気後退色も強まった。マレーシアの輸出は世界経済の減速や半導体サイクルの悪化、米中貿易摩擦の激化を背景に昨年から停滞しており、7-9月期には3年ぶりのマイナス成長を記録した。米中貿易摩擦を背景に米国の製造業の投資は拡大しているものの、中国向けの中間財輸出低迷の影響が大きく、企業景況感は悪化傾向にある。その結果、資本財の輸入が低迷しており、7-9月期の設備投資は4期連続のマイナス成長となった。さらに企業業績の悪化によって製造業の給与の伸びが昨年の+10%弱から足元では+3%前後まで鈍化している。

景気の牽引役である民間消費も伸び悩んだ。昨年6月の物品サービス税(GST)廃止(2)から一年が経過してインフレ率が+1%ポイント上昇したことや所得環境の悪化によって家計の購買力が低下したことが消費鈍化に繋がったとみられる(図表4)。

マレーシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

マレーシア経済の先行きは+4%台半ばの緩やかな成長ペースが続くと予想される。米中貿易摩擦を巡る不確実性が残り、来年の世界経済の大幅な回復は見込めないが、足元では半導体サイクルが最悪期を脱しつつある。主力の電気・電子製品の輸出が底打ちすれば、製造業部門の落ち込みは和らぐだろう。また民間消費はGST廃止の消費の押し上げ効果が剥落したものの、堅調な伸びを維持している。雇用情勢は全体的に安定しており、今後も消費が減速傾向を辿るとは見込みにくい。

マレーシア中銀は今年5月の金融政策決定会合で2016年以来となる政策金利の引き下げを決定、先週(11月8日)には流動性供給のために法定準備率を引き下げるなど、景気下支えに向けて動いている。しかし、今回のGDP統計の結果をみると、民間消費の減速が限定的であり、年内の追加利下げはなくなったように見受けられる。もっとも堅調な消費の拡大だけで外需主導の景気後退局面を凌ぎきれるかどうかは怪しい。5月の利下げ後も銀行貸出は鈍化傾向にある。年内に輸出の回復がみられないようであれば、年明けに追加的な金融緩和を打ち出す展開も予想される。

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(2)新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)するまでの3ヵ月間はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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