大手外食チェーン創業者の資産管理会社が法人税約20億円の申告漏れを指摘されたことが2019年6月に話題となったのは記憶に新しい。新聞各紙が報じた内容によると、「ストラディバリウス」など、本来は減価償却できない高級楽器を誤って経費として申告していたとのことだ。

お金持ちを魅了する高級品、楽器、絵画、貴金属……

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(写真=Ingrid Balabanova_Shutterstock.com)

クラシック音楽に詳しくない人でも、最高級バイオリン「ストラディバリウス」の名を知らない人は少ないだろう。名器中の名器として名高く、中には数十億円するものもある。もちろん買い手がつかなければここまで値段が付けられることはない。大金を払ってでも買い求めるお金持ちが一定数いるというわけだ。

お金持ちが求めるのは高級楽器だけではない。宝石や貴金属を富裕層が買い集めることは、容易に想像できるだろう。2016年にスイスで行われたオークションでは、ブルーダイヤが約63億円で落札され、宝石の落札価格として過去最高額を更新した。

2017年には、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの前澤社長が、123億円でバスキアの絵画を落札したことで話題となった。バブル期までさかのぼると、個人ではないが安田火災 (現・損害保険ジャパン日本興亜) がゴッホの「ひまわり」を58億円で落札し、当時における最高落札価格の記録を大幅に塗り替えたこともある。

富裕層は高級品で資産運用 ?

2010年に行われたある研究によると、プロの音楽家をもってしても、ストラディバリウスの音色を聞き分けることはできないという興味深い結果が示されている。つまり、富裕層が高級品を保有する理由は、音色を堪能するという機能的な目的以外にもあると考えられそうだ。

理由の1つとして、資産運用があげられる。上記のように法外な価格で買う人が続出していることを鑑みれば、転売して利益を狙おうと考える人がいるのもうなずける。

また積極的に稼ごうとは思わないまでも、資産の運用先として購入する人もいる。冒頭で法人の経費計上が否認された話を紹介したが、法人税における基準のひとつとして、「時の経過によりその価値が減少することが明らか」でないものは経費にできないとされている。国税庁はこの事件において、「ストラディバリウスは資産価値が下がらない」と認めたのだ。特に貴金属は美術品としてだけでなく、資源としても普遍的な価値を持つ、最も安定した資産運用のひとつであると考えられる。

代表的なのは金 (ゴールド) だ。「有事の金」といわれるとおり、株式などのリスク資産が乱高下する際には、資金の逃避先として購入される傾向にある。実際に、2001年の米国同時多発テロや2008年のリーマンショックの前後で、金価格は下がるどころかむしろ上がっているのだ。リスク分散のため、財産の一部を貴金属として保有しているお金持ちは多いようだ。

過半数の富裕層は「好きだから」保有する

海外の金融機関が行ったお金持ちに対する高級品の保有率に関する調査によると、日本人は貴金属を持つ人の割合が世界で3番目に多く、49%だった。資産運用を意図しているのであれば、合理的な選択といえるのではないだろうか。

この調査では次のような結果も示している。投機目的で高級品を買う人は世界で19%、日本では15%しかいないということだ。高級品を保有する理由として多いのは、「資産を持つ喜びのため (53%) 」、「文化だから (23%) 」、「資産を後世に伝える使命感のため (21%) 」、という順に並ぶ。過半数のお金持ちは、「好きだから」という単純な理由で高級品を買っているのだ。

富裕層は楽しみながら資産を増やす、守る

お金持ちが高級楽器や名画などを保有する理由は、実益的な資産運用の側面と心理的な充足感という2つの側面があると考えられる。

お金持ちの多くは、鑑賞や収集することそのものを「楽しむ」ために数億円もの高級楽器や貴金属類、絵画などを購入する。そして楽しみながらも、資産運用や資産防衛をしているのではないだろうか。富裕層は高級品を持つことで、資産を守りつつ心の豊かさに磨きをかけているのだ。(提供:大和ネクスト銀行


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