切り替わる時代

経済予測の限界と意義
(画像=PIXTA)

年の途中で改元されたということもあって、令和元年はまだ平成の空気が強く漂っていた。令和二年の正月を迎え、時代は完全に切り替わろうとしている。平成の景気循環は昭和に比べて拡大期間が長いものが多かったが、その間の経済の拡大幅は小さく、足踏みを続けた期間も長かった。個人的には、様々なショックに見舞われて翻弄され、対応に追われたという印象が強い。もっとも、昭和を通して生きてきた世代から見れば、戦争や恐慌を経験した昭和の方がずっと激動の時代だっただろう。

いつの時代も問題の種は尽きず、その時代を生きている人達にとっては平穏とは決して感じられないものなのかもしれない。令和の日本経済も様々な事件に遭遇し、終わってみれば色々あって大変な時代だったと述懐することになるのだろうか。

経済予測は当たらない

昔は、気象庁と三回唱えて食べれば食当たりしないという冗談があり、当たらないものの代表として、天気予報とプロ野球の優勝球団の予想、経済予測があげられていた。しかし、スーパーコンピューターや衛星画像の利用などによって、気象予測の精度は大幅に高まった。一方残念ながら、プロ野球の優勝球団と経済予測の精度は相変わらずだというのが世の中の通り相場だろう。

両方に共通するのは法則性が無い想定外の事態が起こり、それを予測するのは難しいということではないか。野球であれば主軸選手が試合中にケガをして出場できなくなってしまうとか、過去に大した実績がない無名選手が突如大活躍するといったことは事前には予測できない。経済についても、2016年の米国大統領選挙でトランプ大統領が誕生し、その後中国との間で関税の引き上げ競争をすることや、英国が国民投票でEUからの離脱を決めるなどと言うことは、予想できなかった。さらには、国際紛争、地震・台風などの大規模な自然災害なども経済に影響を与えるが、こちらも今年発生するかどうかは全く分からない。

予想外の事態は毎年のように何か起こっているので、全く考慮されていないわけではないが、具体的にどのようなことが起きるかは、神のみぞ知る世界だ。筆者は長年経済予測をしてきたが、経済予測は外れる運命にあり、当てにならない経済予測などいらないと言われたことも少なくない。

経済予測の意義

しかし、これからどうするかを決めようとすると、将来の経済を前提にせざるを得ない。短期間であれば現在と同じ経済状況が続くという前提でも何とかなることもある。しかし、長期的には今と同じ状況が続かないことは誰の目にも明らかで、将来が今と同じという前提も受け入れ難い。結局のところ、できる限りのことをして将来を予想しようとするのだが、人知を尽くしても予想外の事態は起こり、予測はなかなか当たらない。

こうした状況下でも、将来発生する確度が高いものと低いもの、発生の確率が全く分からないものがある。日本の人口構造が高齢化していくことはまず間違いないことで、令和の日本経済が対応しなくてはならない大きな課題だろう。中国やインドなどの新興国がさらに発展して、欧米諸国や日本などのこれまでの先進諸国との間で、さまざまな摩擦が起こることも避けられない。地球環境の変化が天候に影響を与え、経済にも様々な影響を与えることになる可能性も高いに違いない。

経済予測は当たるとは言えないが、筆者はこれまで、経済予測の役割の一つは、これからおこる可能性の高い事象が日本経済にどのような影響を与えるかを示して、我々がどのように対応するかを考える材料とすることではないかと考えてきたし、この考えは恐らく今後も変わらないだろう。

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櫨浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー

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