(本記事は、鈴木 祐の著書『科学的な適職』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

スティーブ・ジョブズは本当に「好きを仕事に」していたか?

スティーブ・ジョブズ
(画像=Castleski/Shutterstock.com)

「たまらなく好きなことを見つけてください。これは仕事についても恋愛についても同じです。仕事は人生の大きな一部であり、そこから深い満足を得るには心から最高だと信じられる仕事に就くしかありません。そして偉大な仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することです。もし好きなことがないなら、探し続けてください」

故スティーブ・ジョブズが、2005年にスタンフォードの卒業式で語った有名な一節です。「好きを仕事に!」という考え方を世に知らしめた、伝説的なスピーチと言えるでしょう。

なんとも心を動かされる内容ですが、しかしこの言葉には大きな難点があります。それは、ジョブズ自身が決して好きでエレクトロニクスの道に進んだわけではない、というポイントです。

確かに幼いころからテクノロジーに親しむだけの頭脳はあったものの、そもそもジョブズがエレクトロニクス業界に入ったのは、「楽して金を儲けられる」という広告を雑誌で目にしたからでした。しかも、テクノロジーよりもスピリチュアルが好きだったジョブズは、間もなくアタリ社を辞めてインドへ修行の旅に出ていますし、アップルを創業したのもエレクトロニクスへの愛が動機ではなく、ウォズニアックが発明した「アップル1」にビジネスの臭いを嗅ぎ取ったからです。

もしジョブズが心から好きなことを仕事にしていたら、スピリチュアルの指導者にでもなっていたはず。後年のジョブズがアップルの仕事を愛していたのは事実でしょうが、そのはじまりはあくまで打算的なものだったようです。

同じような事例は非常に多く、もし歴史上の偉人たちが好きなことを仕事にしていたら、ゴッホは聖職者として一生を終えたでしょうし、ココ・シャネルは売れない歌手のまま活動を続け、ナポレオンは無名の小説家だったかもしれません。個人の経験や嗜好にもとづくアドバイスには、いくらでも例外が見つかるものです。いかにすごい成功者のアドバイスだろうが、あなたに合っているとは限りません。

仕事選びにおける7つの大罪

かくも成功者たちの体験談にあふれたキャリアアドバイスの世界で、私たちはどのように正しい選択肢を選ぶべきでしょうか?

主観に満ちた助言の山のなかから、あなたの幸福を最大化してくれるような仕事をいかに探せばいいのでしょうか?

そんな状況でまず行うべきは、仕事選びの場面で誰もがハマりがちな定番のミスを知っておくことです。多くの人がやりがちな間違いを事前に押さえておけば、少なくとも大きな失敗はふせげます。

それでは、仕事選びでやりがちなミスとはどのようなものでしょうか?

現時点で多くの研究が「人間の幸福とは関係ない仕事の要素」について信頼性の高い答えを示しており、まとめると大きく7つに分けられます。

❶ 好きを仕事にする
❷ 給料の多さで選ぶ
❸ 業界や職種で選ぶ
❹ 仕事の楽さで選ぶ
❺ 性格テストで選ぶ
❻ 直感で選ぶ
❼ 適性に合った仕事を求める

いずれもよく見かけるアドバイスですが、残念ながら、これらの行動はすべて大間違い。短期的には喜びの感覚を与えてくれても、長期的な人生の満足度にはなんの関係もないどころか、ヘタをすればあなたを不幸に落とし込みかねません。いわば「仕事選びにおける7つの大罪」です。まずはこれらのポイントを押さえ、私たちに間違った夢を見せる幻想を壊していきましょう。

科学的な適職
鈴木 祐(すずき・ゆう)
新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。

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