(本記事は、鈴木 祐の著書『科学的な適職』株式会社インプレスの中から一部を抜粋・編集しています)
賃金が不公平な企業に勤めると早死にする
AmazonのCEOであるジェフ・ベゾスは、誰よりも「明確さ」を求める経営者として知られます。
なかでも有名なのは、Amazonが急速に成長した時期に全従業員のデータベースを構築した事例でしょう。このデータベースには従業員の行動が定期的に記録され、誰の働きが会社の成長に役立ったのかがひと目でわかりました。
その目的は、信賞必罰をハッキリさせることです。「功績あればこれを賞し、過ちあればこれを罰する」のは経営の王道ですが、Amazonほど合理的に徹底した企業は他にありません。
ステップ1でも見たように、私たちは自分の幸福を他人との比較で決める生き物です。そのため「賃金の不公平感」にはことのほか敏感で、スタンフォード大学が228件の先行研究を精査したメタ分析でも、信賞必罰が明確でない企業では社員の死亡率や精神病の発症率が上がると報告されています。
信賞必罰の明確さとともに、もうひとつ大事なのがタスクの明確さです。自分が行うべき作業の手順がわからなかったり、タスクをいつまでに終えればいいのかが把握できなかったりと、そんな状況下では、どんなに仕事が好きでもモチベーションは上がらないでしょう。
他にもよく見られるのは次のようなケースです。
◉ 会社がどんな価値観で動いているのかよくわからない
◉ いまやっている作業がプロジェクトのどこに役立つのかわからない
◉ 仕事のどこに責任感を持てばいいのかわからない
◉ ある上司からは「すぐに企画書を作れ!」と言われたのに、また別の上司からは「会議に出ろ!」と言われた
会社内での自分の役割がわからず、上からの指示はダブルバインドで、上層部にもビジョンが感じられない......。想像しただけでモチベーションが下がりそうなものばかりですが、多くのデータでも、これらの状況が私たちの幸福度を大きく悪化させるとの結果が得られています。
「上からの指示が一貫しない」が社員の体調を破壊する
南フロリダ大学のメタ分析を見てみましょう。「仕事のストレスと健康」に関する先行研究から72件を精査した内容で、「どんな職場で働くと体を壊すのか?」という疑問に答えたものです。
結果、タスクの不明確さは、社員の慢性疲労や頭痛、消化器官の不調と大きな相関がありました。特に悪影響が大きかったのは「仕事で何を求められているかがわからない」と「上からの指示が一貫しない」の2つで、このような職場で働く社員は寝ても疲れが取れず、最終的に頭痛や胃痛などの症状にも悩みやすいようです。納得の結果ではないでしょうか。
タスクの明確化という点でも、Amazonは抜かりがありません。
ジェフ・ベゾスが常に「顧客第一」のビジョンをかかげて行動し続けているのは有名な話。
カスタマーの体験を上げるためなら株主の短期的な利益を犠牲にすることもいとわず、社内のタスクはすべて「客のためになるか?」の一点をもとに構築されます。これなら社員も迷いようがありません。
さらに細かな例で言えば、Amazonでは会議の前に必ず「ミーティング・マニュアル」と呼ばれるレポートを配り、すべての参加者に熟読を求めます。そこに書かれているのは次のような内容です。
◉ 会議の前提と達成すべき目標
◉ 問題解決策への具体的なアプローチ
◉ もっとも早く取りかかれる解決策
このような情報を事前にまとめておけば、すべての参加者に対して会議の目標が明確になります。おかげで会議のモチベーションも高く保たれ、時間のムダも省くことができるわけです。
もちろん、だからといってAmazonこそが最高の企業だと言いたいわけではありません。
顧客サービスを優先するあまり、下請けのドライバーたちから過酷な労働実態を暴露されているのは知られた話でしょう。
その点では裏表の多い会社ではありますが、一方ではベゾスが徹底する「明確さ」が社員のやる気を引き出し、爆発的な成長に寄与したのも事実です。これは適職探しの場面においても同じで、「信賞必罰とタスクの明確さ」を事前に確認しない手はありません。
◉ 会社に明確なビジョンはあるか?そのビジョンを実現するために、どのようなシステム化を行っているか?
◉ 人事評価はどのようになされているか?個人の貢献と失敗を目に見える形で判断できるしくみは整っているか?
このあたりは、採用面接や転職エージェントとの面談などでも、ぜひチェックしておきたいポイントです。
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