(本記事は、鈴木 祐の著書『科学的な適職』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
不自由な職場はタバコよりも体に悪い
ガーデニング好きが多いイギリスでは、1日の終わりに庭仕事にいそしむ人をよく見かけます。どれだけ厳しい労働を終えたあとでもシャベルを取り出し、ハードな肉体労働にはげむ人がとても多いのです。
この風習について、作家のコリン・ウォードは次のように説明しています。
「仕事の後にも関わらず庭仕事を好む人が多いのは、そのことでマネージャーや上司から自由になれるからだ。そこでは単調な仕事から解き放たれ、同じ作業の奴隷になることもない。最初から最後まで作業は自分のコントロール下にあり、何をどのように行うかを決めるのは本人の自由だ。その責任はすべて自分が引き受け、他人は関係ない。このとき、私たちは自らの上司になる」
ウォードの指摘は現代の心理学から見ても的を射たものです。「作業の内容をどれぐらい自分の意思で決められるか?」は、仕事の満足度を大きく左右します。
深く考えるまでもなく、自由を縛られて喜ぶ人は少ないでしょう。上司から資料の一字一句をチェックされたり、休みの時間まで指示されたり、外出のたびに許可が必要だったりと、そんな職場で働きたいと願う人はいないはず。俗にいう「マイクロマネージメント」の問題です。
実際のところ、数ある研究のなかでも、「自由」ほど仕事の幸せを左右する要素はありません。たとえば1380人の労働者を集めた台湾の研究では、次のようなポイントをもとに被験者が働く会社の自由度を調べました。
◉ 作業を実行するスケジュールを好きに設定できる
◉ タスクの内容を好きなように選ぶことができる
◉ 収入や社内ルールに好きな意見を言える
その結果はあきらかでした。職場の自由度が高くなるほど被験者の仕事への満足度は上がって離職率が下がり、ストレスが大きな作業をしているあいだもネガティブな感情にハマりにくい傾向があったのです。
さらにもうひとつ、「自由度」はあなたの寿命も左右します。ロンドン大学が公務員を対象に行ったリサーチでは、
◉ タバコを吸うけれど、会社内の自由度が大きい
◉ タバコは吸わないが、会社内の自由度が小さい
といった2つのグループを比べたところ、タバコを吸わないが自由度が小さい人のほうが体を壊しやすく、慢性病にかかる確率も高い傾向がありました。要するに仕事の自由度とは、タバコよりも私たちの健康に大きな影響をおよぼすわけです。
「幸福になれる自由」の種類は男女で異なる?
もちろん、そうは言っても無制限の自由が許される職場など存在するはずもなく、ノマドワーカーよろしく自由な働き方を演出しようが、仕事である以上はクライアントや取引先からの縛りは逃れられません。社会で生きていくためには、自由を切り売りせねばならない場面はどうしても出てきます。
こればかりは社会的な動物としての現実なので嘆いてもしかたなく、少しでも自由度が高そうな会社を選ぶか、上司や関係者と交渉していまの仕事の自由度を高めるか、の二択しかありません。
もしも「自分は企業で働くのだ」と決めた場合は、「労働時間はどこまで好きに選べるのか?」と「仕事のペースはどこまで社員の裁量にゆだねられるのか?」という2つのポイントだけは、必ずできる範囲でチェックしてください。
また、先行研究によれば男女によって「幸福になりやすい自由」の種類は変わるとの傾向も出ています。こちらも注意しておきましょう。
◉ 女性=仕事に取り組む場所とタイミングの自由が効くほど幸福度は上がる
◉ 男性=仕事の進め方と作業ペースの自由が効くほど幸福度は上がる
つまり、女性の場合は在宅勤務やリモートワークがしやすく、さらにはフレックスタイムタイム制などを採用している職場のほうが幸せに働ける確率が高まるようです。一方で男性は、作業の締め切りを自分で決められたり、仕事をこなす順番を好きなように動かせる職場に幸福を感じやすいようです。もちろん個々人によって異なる要素でしょうが、参考にしてみても良いかもしれません。
いずれにせよ、「自由」とは「あったらいいな」レベルの問題ではなく、仕事の幸福を決める根本的な要素です。適職を探す際は、ぜひ「どこまで自分が自分のボスでいられるか?」といった観点から仕事を選んでみてください。
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