●消費のデジタル化の進展~サブスクリプションサービス・シェアリングサービスの広がり

モノを「買わなくてもすむようになった」背景には、情報通信技術の革新もあげられる。

総務省「通信利用動向調査」によると、世帯のインターネット普及率は、1997年は11.0%に過ぎなかったが、2018年では86.0%に達している。デジタルネイティブ世代は、物心ついた頃からパソコンや携帯電話が身近にあり、ネットやSNSに慣れ親しみながら育ってきた。無料で楽しめる情報やゲーム、アプリ、コミュニケーションなどが増えたために、モノを「買わなくてもすむ」、そして、お金を使わなくても楽しめるという消費態度に拍車がかかったのではないだろうか。

さらに最近では、サブスクリプションサービスによって、「買わなくてもすむ」環境が広がっている。現在、サブスクは、自動車や家具、家電製品、ファッション、本・雑誌・漫画、ゲーム、音楽、映画・ドラマ・TV番組、おもちゃなど、生活に関わる商品の至るところにまで展開されている。1つ1つモノを、あるいは、1回1回サービスを購入するのではなく、月額定額で使い放題になるサブスクを利用することで、無駄な消費を減らし、消費の合理化を図ることができる。これは、先に述べた消費者の生活防衛意識や社会貢献意識が高まっている傾向とも合致する。

また、シェアリングサービスによっても、「買わなくてもすむ」環境は広がっている。ネット上のプラットフォームを介して、瞬時に不特定多数の個人がつながることで、誰が何を持っていて誰が何を求めているのかという情報が可視化されるようになった。これまで企業等が提供してきたモノやサービスを個人間で直接やり取りできるようになることで、消費の合理化を実現できる環境は一層、広がっている(6)。

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(6)久我尚子「シェアリング志向が強いのは誰?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/6/25)等

モノよりも「サービスを買うようになった」~通信料やコンサートなどのコト消費、モノのデジタル化

「所有から利用へ」の3つ目の要素としては、モノよりも「サービス(コト)を買うようになった」ことがあげられる。つまり、「お金の使い道が変わった」ということだ。

総務省「家計調査」によると、総世帯の消費支出は、2002年を100とすると2017年で91.3へと1割程度低下しているのに対して、モノである「被服及び履物」は70.0へと3割低下、一方、サービスである「通信」は119.3へ、「保健医療」は114.8へと2割程度上昇している(図表9)。

また、若い世代ほどモノよりもコト消費への意欲が高い様子もある。消費者庁「平成28年度消費者意識基本調査」によると、現在お金をかけているもののうち、「スポーツ観戦・映画・コンサート鑑賞」の割合は、15~19歳で34.6%、20歳代で26.6%だが、30歳代以上では1割台である(図表10)。

サブスクリプションサービス
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、先のサブスクやシェアとも重なるが、デジタル化の進展によって、モノがデジタル化された結果、モノではなくサービスを買うようになったという状況もある。例えば、現在では、音楽のCDや映画のDVD、雑誌などは、スマートフォン等のモバイル端末によるサブスク利用が主流だ。その場合、消費支出には通信サービスとして計上される。また、自動車や家具、洋服等のサブスクを利用した場合も、モノではなくサービス消費として計上される。

おわりに~所有から利用への流れの加速

本稿では、消費者に見られる「所有から利用へ」という変化について、(1)モノを「買えなくなった」、(2)モノを「買わなくてもすむようになった」、(3)モノよりも「サービス(コト)を買うようになった」という3つの要素をあげて、それぞれの状況を見てきた。

今後とも「所有から利用へ」という流れは続き、(2)や(3)によって加速すると考えている。

まず、(2)については、特に、サブスクなどに見られる消費のデジタル化という側面に注目している。現在のところ、サブスクの利用は若い世代が中心だが、今後はシニア層にも広がっていくだろう。現在、シニアのスマホ利用はガラケーを上回って増えているところだが(総務省「通信利用動向調査」)、昨年10月から消費増税の負担軽減策として実施されている「キャッシュレス・ポイント還元事業」によって、スマホなどを用いたキャッシュレス決済の利用も拡大しているところだろう。そうなると、自ずとシニアにもサブスク利用が広がっていくのではないだろうか。必要な時に必要な量だけ利用できるサブスクは、実は、年金に頼るシニアの消費生活とも相性が良い。

また、(3)については、モノよりもサービス需要の強い世帯が増えるためだ。今後、日本では単身高齢世帯と共働き世帯が増え行く見込みだ。どちらも家庭の中が人手不足であり、例えば、シェアリングサービスでつながる個人による家事代行サービスや子どもの送迎サービスなど、生活上のちょっとした不便さを解消するサービスへの需要が強い。また、共働き世帯では、時間を有効活用できるようなサービスへの需要も強い。特に子どもの教育関連サービスの人気が過熱気味であり7、最近では、通常のシッターサービスに加えて、絵や英会話などを教えるサービスも登場している。

このような中で、従来のモノづくり企業には、どこに活路があるのだろうか。

そのヒントの1つに、「モノ消費に見えてコト消費8」という考え方をあげたい。今の消費者は、所有することによるステイタスではなく、モノを買って使うコトで得られる経験や体験に価値を見出す傾向がある。例えば、最新の家電そのものではなく、そこからもたらされるちょっと上質な生活に、高級ブランドバッグそのものではなく、環境に配慮したサステイナブルな素材を使うことによる満足感に、という具合だ。モノを所有することで豊かになるのではない。豊かな体験(コト)を得るために利用するモノという、いわば逆転とも言える発想の転換が必要な時代なのかもしれない。

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(7)久我尚子「平成における消費者の変容(1)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2019/3/4)等 
(8)久我尚子「モノ消費に見えてコト消費」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2019/12/18)

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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