日本での成長に限界を感じて、海外に目を向ける経営者は少なくない。確かに、日本に比べて海外には成長余地が大きい地域や賃金が安い地域がある。生産地・消費地として、魅力的に映ることも多いだろう。

しかし、日本と海外では商習慣や法律、文化が違うため、日本で行っていたビジネスをそのまま持って行ってもうまく行かないことが多い。どのようなビジネスを海外で行うべきか、迷う経営者も多いだろう。今回は、海外に進出する際のアイデアの見つけ方を解説する。

中小企業にとっても魅力的な海外市場

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(画像=suphakit73/Shutterstock.com)

「海外進出は大企業が行うもの」と考える中小企業経営者は少なくない。しかし、中小企業にとっても海外市場は魅力的だ。その理由は2つある。

1つは、人口成長率が高いことだ。現在、日本では労働力の確保が課題となっている。有効求人倍率は1.6倍を超え、人材確保が難しい状況だ。さらに、今後人口が減っていくことが予想されており、優秀な人材の確保はますます難しくなるだろう。

海外に目を向けると、新興国を中心に今後も高い人口成長率が期待されており、市場だけでなく労働力確保の観点でもメリットがあるだろう。

もう1つは、今後の経済成長率だ。日本は規模は大きいものの、経済成長率はOECD諸国の中でも低く、今後経済が成長する余地も小さい。一方で海外は、新興国を中心に今後も高い経済成長率が予想されている。特に消費においては、大きなメリットが期待できるだろう。

今後日本では、中小企業は縮小していくパイをめぐって大企業と闘わなければならない。一方で海外では、小さく始めても今後の経済成長や人口成長の恩恵を受けることができるだろう。中小企業こそ、海外に進出すべきなのではないだろうか。

海外進出をする際に検討すべき3つの事項

では海外に進出する際、中小企業は何を検討すべきなのだろうか。

(1)海外に進出するからといって、特別なことをする必要はない

中小企業の海外進出では、日本でできなかったことを海外でやろうとして、うまくいかず撤退するケースが少なくない。

ビジネスにはアイデアだけではなく、リソースやノウハウも欠かせない要素だ。ノウハウもなくリソースもないまま新規事業を始めてもうまくいかないことは、国内でビジネスをしている経営者であればわかるはずだ。国内である程度成功しているビジネスがあれば、それに伴うリソースやノウハウはある程度持っているだろう。そのノウハウを海外で生かすことができれば、海外での成功はぐっと近づくはずだ。

(2)まずは目的を明確化しよう

目的が曖昧なまま海外に進出すると、失敗する可能性が高くなる。「海外に進出すれば成長できる」と安易に考え、とりあえず進出するが失敗してしまうケースは少なくない。海外に進出する際は、「販売先を開拓する」「製造拠点を作る」といった目的を1つに絞ったほうが、うまくいく確率は高くなる。

海外進出の目的の明確化において確認すべきことは、「自社の強みがどこにあるか」だろう。それがマーケティング力であればそれを活用すべきだし、技術力ならそれを活用できるような海外進出を検討すべきだ。

(3)「成功」と「失敗」の基準を明確にする

「成功」と「失敗」の基準を明確にすることも重要だ。「失敗」の基準を決めることは、特に大切だろう。

海外進出では、進出だけでなく撤退でも、国内以上に資金やリソースを消費する。撤退基準を明確にしておかないと、うまく行かなかった場合に撤退コストを考慮して撤退を決断できず、損失を拡大してしまうおそれがある。あらかじめゴールと撤退基準を決めることで、国内のビジネスに影響を及ぼさないようにしたい。

海外進出となると、「何か新しいことをやらなければならない」と考えがちだ。しかし海外進出は経営戦略の一つに過ぎないので、無理をして特別なことをする必要はないのだ。強みをさらに伸ばしていくのか、活用できていないリソースの活用を海外に求めるのか。そのように考えることで、目的が明確になり、成功に近づくことができるだろう。

労働力を確保するために海外進出する場合のビジネスの考え方

ここで、海外進出の考え方を整理してみよう。労働力の確保と販売先の開拓では目的がまったく異なるため、それぞれを分けて考えたい。まずは、労働力確保を目的とする海外進出について見てみよう。

新興国の労働力を求めるケース

まずは、新興国に工場などを建てて、現地の労働力を求めるケースだ。メーカーの経営者なら、一度は工場の海外移転を考えたことがあるだろう。メリットは、比較的安価な労働力によって生産コストを下げられることだ。これは、海外進出の中では比較的難易度が低い。

しかし、注意すべき点もある。たとえば工場の場合、労働力だけでなく物流などのインフラが整っているかどうかを確認する必要があるし、現地の法令を遵守しなければならない。輸出入などの手続きも必要になるだろう。

また海外だからと言って、人材確保が簡単なわけではない。優秀な人材を確保するのが難しいのは、万国共通だ。これらを検討した上で、最終的に進出するかどうかを決めることになる。

先進国で研究開発を行うケース

先端技術を扱う企業であれば、米国などの先進国にR&Dの拠点を置くことを検討してもいいだろう。日本の研究開発費は横ばいだが、世界的には右肩上がりで成長している。実際、トヨタ自動車をはじめとする大企業は、世界中でR&Dを行っている。

この場合は、さらに人材確保が困難になるだろう。最先端の研究に耐える優秀な人材は、世界的に不足しているからだ。優秀な人材の人件費は高騰しており、既存の給与体系との乖離が大きいケースもある。海外で研究開発を行う場合はそれを投資と考えて、まったく新しいルールを作る必要があるだろう。

労働力確保でも、売上を作ることはできる?

人材確保のための海外進出でも、それを活かして新しいビジネスを始めることができる。たとえば海外に工場を作ったら、自社製品だけでなく他社製品の製造を請け負うことができる。海外進出を機に、販売先を増やすこともできるだろう。単なる製造拠点ではなく、それを新しいビジネスのハブにすることを考えるべきだ。

販売先を開拓するために海外進出する場合のビジネスの考え方

販売先の開拓を目的とした海外進出は、どのように考えればいいだろうか。考え方は、大きく分けて2つある。

自社の強みを生かすケース

1つ目は、自社の強みを生かすケースだ。強みと言うと、メーカーなら商品、サービス業なら提供しているサービスを思い浮かべるかもしれないが、ここでいう強みとは商品・サービスのメリットだけではない。

前述のとおりビジネスにはアイデアだけではなく、ノウハウやリソースも必要になるが、ノウハウに強みがある企業は少なくないはずだ。たとえば、東南アジアでは日本の中古家電や中古パソコンが人気なので、海外ではその調達ノウハウが強みになるかもしれない。そのような自社の強みが、海外でも活かせるかどうかを検討するといいだろう。

自社製品に、「日本という付加価値」をつけるケース

もう1つは、自社製品に「日本という付加価値」をつけて販売するケースだ。海外では、「日本製は高品質」というイメージを持つ人が多い。海外では日本の好感度は高く、アニメやアイドル、伝統文化、食文化なども外国人に人気がある。

これらの要素を自社の商品・サービスに付加することで、「日本発の商品・サービス」をアピールできるかもしれない。このような切り口で、海外進出を検討してもいいだろう。

日本と市場が違うことを理解しよう

販売先の開拓を目的とした海外進出で最も注意すべきことは、日本と海外では市場がそもそも異なるということだ。文化や嗜好だけでなく、商慣習も異なる。それがプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあるだろう。マーケティングやブランディングを、日本とはまったく異なる方法で展開したほうがいい場合もあるかもしれない。自分たちの強みが本当に海外でも通用するかどうかについては、じっくり検討することをおすすめする。

海外進出のアイデアは、普段の事業の延長で考えるべき

海外進出を考える際は、新しいチャレンジということで、いろいろなアイデアを思いつくかもしれない。しかし、海外進出に失敗して撤退する企業が多いのも事実だ。

海外事業は特別なものではなく、既存の事業の延長線上にあることを理解した上で、まずは進出する目的やゴール、撤退基準を明確にする。その上で自社の強みをどう生かせるか、また海外でビジネスを行うことで得られるメリット確認・検討しながら、アイデアを練り上げてといいだろう。(提供:THE OWNER