(本記事は、齋藤 隆次氏の著書『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

副業するのは当たり前。勤務時間中も平気でやる

オフィス
(画像=PIXTA)

中国人は本業以外でも稼ぐことに貪欲です。企業で働いているビジネスパーソンの多くが、副業をやっています。以前は株式投資や不動産投資が盛んでしたが、近年はインターネットやスマートフォンの普及により、さまざまな新しいサービスが生まれたため、勤務時間中でも堂々と副業をやったり、休憩時間や終業後の時間を有効活用して、さまざまな副業が行われています。このような本業と副業をかけ持ちしている人々は、本業と副業の境界があいまいという意味を込めて、中国では「両生類」と呼ばれています。

中国人が副業をする理由の一つは、単に「収入をもっと増やしたい」というものです。豊かになったとはいえ、一人当たりの所得はまだまだ高くありませんし、富裕層とそうでない人々の格差も広がっています。また、都市部の物価は高く、お金がいくらあっても足りない状態です。

二つ目の理由は、自分自身の「将来の独立準備のため」です。副業で独立資金を稼ぐのはもちろん、副業することによって、本業では得られないスキルを身につけたり、商売ネタを探す感覚を磨くなど、自分自身の可能性を模索しているのです。中国人の多くは「一国一城の主」を夢見ます。誰でも才覚次第で成功者になれるというのが、今の中国です。

中国人の副業は、本業から離れたビジネスを展開するケースもありますが、本業周辺のビジネスで展開することが多いようです。たとえば、出張や旅行で日本に行った際に購入した品物をインターネットで転売するといったことは初歩的な副業になります。オークションサイトに日本の人気アイドルのコンサートチケットや限定グッズ、新発売のiPhoneを出品するなど、儲けるチャンスはいくらでもあります。

日本と違うのは、本業をフル活用した副業もあること。たとえば、本業で得た情報を活かして商売をしたり、本業のチャネルを使って商売したり、本業の製品そのものを取り扱ったりするなど、日本の常識では考えられないような副業も増えています。

日本でも近年、社員の副業を解禁する企業が出てきたり、会社に隠れて副業を行う人々が増えてきました。中国人の旺盛な起業家精神、及び商売ネタを見出す着眼点から学ぶものはあると思います。

取引先に置き時計を贈るのは「取引終了のサイン」と受け取られかねない

中国で取引先に手土産を持っていくときは、会社ではなく、担当者個人宛に持っていくのがポイントです。したがって、お菓子を1箱「どうぞみなさんで召し上がってください」と言って渡してはなりません。もし全員に食べてほしければ、人数分の箱を用意しておく必要があります。

また、渡すときは「つまらないものですが」と言ってはなりません。相手は文字どおりに理解して、「つまらないものならば要らない」と思うことでしょう。中国では、謙譲は美徳ではありません。「特別なもの」「最高のもの」「地域一番人気のもの」と言ったほうが相手は素直に喜んでくれます。また、「あなたのために私が特別に選び抜いたものです」と言えば、相手はVIP待遇の気分になるでしょう。

そのほかに、中国では贈り物の際に避けるべきものがたくさんあります。


置き時計……「置き時計を贈る」を中国語で「送鐘」といいますが、まったく発音が同じ中国語に「送終」という言葉があるため、「終わりを告げる」という意味にとられます。また、「送終」には「死者を弔う」という不吉な意味もあります。

傘……「傘」(サン)の発音が、「解散」とか「離散」の「散」(サン)と同じであり、「別れ」とか「関係終了」というイメージを連想させます。

ネクタイ……「首を絞める」=「相手を拘束する」という意味にとられます。

ハンカチ……「涙をぬぐう」=「悲しい」イメージを連想させます。

靴……「この靴を履いて私から遠ざかってください」=「厄介払い」という意味にとられます。

とくに置き時計は、日本では創立記念日や永年勤続表彰などで使われることが多いので気をつけましょう。時計は忌避レベルの高い贈り物です。

では、どんなものが贈り物に適しているでしょうか。地域や日本特産のお菓子などは無難です。日本のものといえば、金箔を使った工芸品(金箔入りの食べ物、酒等)とか日本が強い電化製品(たとえば血圧計)などが好まれます。

給与や待遇次第ですぐに転職。愛社精神よりも給料待遇

中国人は、同じような仕事で給料が少しでも高い会社があれば、翌日からその会社に移ってしまうと言われています。日本人からすると、愛社精神などみじんもないと思われても仕方ありません。確かに、日本と比べて中国の離職率や転職率は高水準です。むしろ、年々増加しています。

しかし、現在は転職する理由に変化が少しずつ出てきています。給与がアップすることはもちろん重視しますが、同時に自分自身の次のキャリアを描くうえでどうプラスになるかを考えて、転職先を決めるようになっているのです。

現在の会社に居続けたら、上のポジションにいつ就けるのか。この会社に在任した2~3年はキャリアを形成するのに十分か。他に自分自身のポジションが上がり、責任と権限が増えるような仕事があるのか。給料の高さだけでなく、これらの要素を総合的に判断して、転職を決めるように意識が変わってきています。

したがって、中国に進出した外資系企業では、採用以前に既存の社員のリテンション(離職防止)が重要課題です。

欧米系企業では、本国での研修プログラムやキャリアアップのプログラムを用意したり、退職一時金や適格年金制度を設けるなど、給与本体以外にさまざまなベネフィットを用意したりしています。しかし、日系企業の場合、日本の横並び志向が邪魔をしています。また、地域ごとに横並びのベネフィットを用意したりすることが多いです。

日系企業同士で紳士協定を結んでいることさえあります。協調性があり、他社との軋轢を防止するという側面ではよいのですが、リテンションという意味では、特徴ある欧米企業に比べて工夫不足でしょう。

中国では、日本に対する理解も進み、日本語や日本の習慣を学んでいる若者も多く育ってきています。ただし、そういった能力と資質のある若者は引っ張りだこです。日本語のできる人材1人に対し4つのポジションがあるとも言われています。

苦労して獲得した優秀な人材を短期間で手放すことにならないよう、彼らのキャリアプランに配慮した人事施策が求められます。

仕事は楽観的。常に最善のケースを想定する

『ニューヨークタイムズ』の記事によると、「楽観的精神」という点で中国人はアメリカ人を上回っているそうです。これは、中国が未曽有の経済成長を続けているからです。アメリカ国民の2倍以上の数の中国人が貧困層を脱出できています。一人当たりのGDPも10年前の3500ドルから1万2000ドルへ3.4倍に伸長しています。貧富の格差は依然として大きいものの、「将来に夢を持てる」という意味の言葉は今や「アメリカンドリーム」ではなく、「チャイニーズドリーム」なのかもしれません。

もっとも、理由のない楽観主義は無責任へとつながることもあります。私の具体的な経験は次のようなものです。

通常生産リードタイムが3カ月の部品の注文を、中国の支社はいつも1カ月前くらいにしか入れていませんでした。しかし、たまたま似たような材料を使う別の部品が多く手配がかかっていたこともあり、結果的には納期遅れにならずに出荷されていました。リードタイムが短いことについて何回も注意しましたが「応該没問題」(問題ないと思う)と回答し、改善しませんでした。

しかし、その運がいい状況が終わると、途端に納期遅れだらけになり、大問題に発展しました。

「なぜリードタイム3カ月の部品のリードタイムを1カ月しか確保していないのですか?何度も注意していましたよね」と部下に尋ねると、「以前は1カ月で出荷されていたので、問題ないと考えました」との回答でした。

この彼と同じような楽観的な考え方の中国人は他にも大勢いました。常に最善のケースを想定して行動する、理由のない楽観主義は若い中国人に多く見られます。理由なくうまくいっているときにはとくに注意が必要です。

なぜうまくいっているのか、原因の明確化が重要です。状況の変化は考えられないのか、リスクはないのか、確認を怠らないようにすべきです。

ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック
齋藤 隆次
異文化人材マネジメント・コンサルタント。パイオニア・インダストリアルコンポネンツインク元CEO。ヴァレオ(フランス系大手自動車部品メーカー)ジャパン元社長。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)、中小企業診断士。1955年福島県生まれ。国立電気通信大学経営工学科卒。在学中は、行動科学や品質管理を学ぶ。大学卒業後、大手電機メーカー・パイオニア株式会社に入社。40歳でアメリカ・ロサンゼルスに赴任し、北米事業全体を担当。メキシコ新工場設立プロジェクトのマネジメントにも携わる。44歳のとき、現地子会社パイオニア・インダストリアルコンポネンツインクのCEOに就任、経営合理化に辣腕を振るい、黒字化を果たす。帰国後ヘッドハンティングを受け、フランス系大手自動車部品メーカー・ヴァレオの日本国内事業部長に就任。ドイツ・フランス・日本の文化のはざまで会社再生に取り組む。50歳でアジア統括部長に、57歳で日本法人社長に就任。パリにあるヴァレオ本社リエゾンコミュニティメンバー(全世界9万人の社員のトップ30人)に唯一の日本人として名を連ねる。在任中は世界市場における日系顧客からの受注を3倍に伸ばすなど、業績拡大に寄与する。また、「和魂洋才」の考えの下、外国の経営システムや考え方の長所を取り入れつつ、和のコミュニケーションと融合させながら進めていく異文化人材マネジメントの手法を確立する。これまで日本国内外で接した外国人は20カ国以上、のべ5,000人以上に及ぶ。

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