(本記事は、齋藤 隆次氏の著書『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

会議になると発言しない日本人、会議は意見を出し合う場と考える外国人

商談
(画像=PIXTA)

会議で何も発言しない日本人は、外国人、とくにローコンテクスト文化に属する欧米人からすると、何を考えているかわからない〝謎の人間〟と思われます。場合によっては、仕事への意欲がないか、自分の意見を持たない無能な人間と誤解されることもあります。

日本人の感覚からすれば、考えがまとまっていない状態で意見を言いたくないとか、下手なことを言って恥をかきたくないなどの気持ちから来るものですが、グローバルなビジネスにおいては、発言しないことはそこに存在していないのと同じことになります。

欧米人は、会議の参加者全員に対し、会議の進行に何らかの付加価値を与えることを求めます。付加価値を与えることのできない参加者、つまり自分自身の意見を述べることのできない参加者は、次回から参加資格を剥はく奪だつされても仕方ないのです。

会議には具体的な意思決定を決めるものもあれば、とにかくアイデアを出し合うブレーンストーミング的なものもあります。とくにアメリカ企業はブレーンストーミングを好んで行います。荒唐無稽なアイデアが飛び交うこともありますが、会議に参加している以上は、メンバーの一人としてアイデアを出すべきです。

私が勤めていたフランス系自動車部品メーカーでは、本社会議でさまざまな対立案件を討議する機会が数多くありました。日本企業では会議の議長は中堅クラスの管理職が務め、トップは上席に鎮座するパターンが多いと思います。しかし、その会社では、とくに重要なテーマについて討議する会議では、意思決定権者が議長を務めることが一般的でした。

会議の議題ごとにさまざまな意見が飛び交います。場合によっては前の発言が終了しないうちに、別の社員が次の意見をかぶせてくる場合もあり、議長が調整します。議論は尽きることがないため、意見が集約しない場合も多くあります。議長は意見が一巡したときを見計らって意思決定します。いったん決定すれば、白熱していた討議も収束します。このように議題ごとに決定していくため、議長は意思決定者が務めることが多いのです。

会議の生産性を高めるための工夫として、事前にアジェンダ(議題)を決めて参加者に事前に通知しておくことが必須です。

完璧を求めて行動が遅い日本人、7割の出来でもスピード優先の外国人

海外とビジネスを展開していると、メールのやり取りが多く発生します。その際、最も気をつけなくてはならないのが、「すぐに返信する」ことです。とくに相手が海外にいる場合、相手の表情が見えませんし、状況を直接確認することができません。返事を遅らせると、相手はまずメールを受け取ったのかどうか不安になります。次に、メールの内容を理解できたのかどうか不安になります。もちろん、ビジネスの方向やタイミングも見通せません。

海外のビジネスパーソンの多くは、まず速攻でメールを受け取ったことを返信します。その際、内容について不明な点があれば確認します。そして、状況について都度報告します。これがグローバルビジネスにおけるスタンダードです。

ところが、日本人の場合、返信する前にまず相手の依頼内容を完璧に把握しようとします。次に周辺の状況を調べ、方向性を見出し、自分自身の納得のいく回答を用意しようとします。場合によってはかなりの時間がかかります。何度かこのようなケースが続けば、相手は日本人とビジネスすることを嫌うことになりかねません。

メールを例に出しましたが、グローバルビジネスにおける日本人並びに日本企業の意思決定の遅さ、行動の遅さはよく指摘されていることです。

日本人のいわゆる完璧主義が「メイド・イン・ジャパン」という言葉が代名詞となった高品質の製品づくりを実現させたことは間違いありませんし、世界各国からも高く評価されていることも事実です。しかし、IT化が進み、各国とも一定レベルの品質の製品を作れるようになった現在、完璧主義は必ずしも強みにならなくなっています。

日本企業の意思決定が遅いのは、組織体制の問題もありますが、7割程度の出来でもまず市場に出してフィードバックを得ながら改善していくという、外国人スタイルを日本企業も必要に応じて導入する必要があるでしょう。

根回しを重んじる日本人、オープンな話し合いを好む外国人

グローバルなビジネスシーンでは、オープンマインドなビジネスパートナーが最大の信頼を得られます。日本人に多い根回しは、閉鎖的との誤解を受けやすい習慣ですので、気をつけなければなりません。

とくに反感を受けやすいのが、日本人同士で固まって日本語で話している姿です。裏で意思決定をしているのではないかと疑われます。

私がアメリカ駐在時代に住んでいたオハイオでは、冬季はマイナス20度にもなるため、室内に喫煙室が設置されていました。喫煙者の多い日本人社員は喫煙室によく集まっていました。この喫煙室はアメリカ人幹部社員たちからは「日本人最高経営会議室」と呼ばれていました。彼らはあらゆる経営戦略の決定がそこで行われていると思っていたそうです。

実際には、そこで話されていたことはゴルフ話など他愛ないことだったりすることも多かったのですが、オフィシャルな会議の席では何も質問せず、侃々諤々(かんかんがくがく)の討議もせず、ただ提案に賛成するだけの日本人社員の姿を見た現地の社員は、やはり裏側で経営の意思決定が行われているのだと誤解してしまいます。それなら会議などするべきではないと思うわけです。

日本には稟議書(りんぎしょ)の文化があります。日本では一般的ですが、世界のなかでは日本独特の仕組みであることをご存じでしょうか。

稟議書とは、たとえば、購入したい設備やプロジェクトなどの企画を承認してもらいたいときに、起案者がその目的や必要な費用・資源、効果、年、購入先、導入期間などを記載し、申請し、持ち回りで各責任者の決裁を受ける仕組みです。この稟議書が事前に回されて決裁を受けることにより、会議は有名無実になってしまうわけです。

もちろん、根回しの習慣は外国にもあります。会議に参加するメンバーに事前に提案内容を説明して理解を求めるというものです。

日本との違いは、事前に決裁を仰ぐのではなく、提案に対する理解を個別に求め、会議の席で侃々諤々の討議を行い意思決定するために行うということです。もし事前に稟議書で意思決定されているのならば、会議は必要のないものになります。

謙虚さを重んじる日本人、謙虚さは自信のなさと受け取る外国人

日本では控え目であることと我慢強いことは美徳とされます。「出る杭は打たれる」という諺(ことわざ)があるように、控え目で目立たない態度が尊重されてきました。何か言いたいことがあっても、周囲の目を気にして空気を読み、我慢をしてきました。農耕民族社会で集団行動するなかでは、それが重要な処世術だったのです。

トラブルが発生しても、最初は徹底的に我慢して受け入れようと努力するのが日本人です。だから、許容できる限界を超えると、怒りモードに入ってしまうことがあります。一方、外国人は最初から意見の相違を明らかにして主張するので、突然怒りモードに入ってしまうことはあまりありません。

同質性や協調性が評価される日本に対し、海外では、「他人とどう違うか」という個性の発揮や異質化の部分が評価されます。ビジネス環境がグローバルスタンダードになってきた現代において、控え目であることや忍耐強いことは日本人の欠点となってきています。

粛々と自分の意見を述べ、相手と議論し意見を戦わせることは、そういった習慣のない日本人にとって難しいことかもしれません。しかし、これからの国際社会を生き抜いていくためには重要なスキルとなります。

日本語には尊敬語・謙譲語・丁寧語など多様な敬語表現がありますが、英語には丁寧語があるだけです。過度な謙譲表現は誤解のもとになります。

たとえば、初対面の外国人上司に対し、「~と申します。至らぬ点も多々ありますが、ご指導のほどお願いいたします」という挨拶をした場合、相手は言葉どおりに受け取って、自信がないと思うか、実力不足を懸念するかもしれません。

同じように中国人のビジネスパートナーに贈り物をする際に「つまらないものですが」と言うと、相手はおそらく「つまらないものをなぜ自分にくれるのだろう」と思うでしょう。

謙譲表現は自分を低くすることで相手に敬意を示す、極めて日本人らしい表現です。ただし、グローバルビジネスの世界では「敬意」ではなく「自信のなさ」と受け取られる可能性が大です。

ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック
齋藤 隆次
異文化人材マネジメント・コンサルタント。パイオニア・インダストリアルコンポネンツインク元CEO。ヴァレオ(フランス系大手自動車部品メーカー)ジャパン元社長。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)、中小企業診断士。1955年福島県生まれ。国立電気通信大学経営工学科卒。在学中は、行動科学や品質管理を学ぶ。大学卒業後、大手電機メーカー・パイオニア株式会社に入社。40歳でアメリカ・ロサンゼルスに赴任し、北米事業全体を担当。メキシコ新工場設立プロジェクトのマネジメントにも携わる。44歳のとき、現地子会社パイオニア・インダストリアルコンポネンツインクのCEOに就任、経営合理化に辣腕を振るい、黒字化を果たす。帰国後ヘッドハンティングを受け、フランス系大手自動車部品メーカー・ヴァレオの日本国内事業部長に就任。ドイツ・フランス・日本の文化のはざまで会社再生に取り組む。50歳でアジア統括部長に、57歳で日本法人社長に就任。パリにあるヴァレオ本社リエゾンコミュニティメンバー(全世界9万人の社員のトップ30人)に唯一の日本人として名を連ねる。在任中は世界市場における日系顧客からの受注を3倍に伸ばすなど、業績拡大に寄与する。また、「和魂洋才」の考えの下、外国の経営システムや考え方の長所を取り入れつつ、和のコミュニケーションと融合させながら進めていく異文化人材マネジメントの手法を確立する。これまで日本国内外で接した外国人は20カ国以上、のべ5,000人以上に及ぶ。

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