(本記事は、齋藤 隆次氏の著書『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)
会議で自己主張するインド人に負けない方法
インドの交通事情は日本とまるで違います。自動車や3輪オートのリキシャ(日本の人力車が語源という説も)、バイクなどに加えて、人や牛、犬、鶏が縦横無尽にあらゆる道路を動き回っています。日本のような譲り合いの精神はありません。
インド人の運転で共通しているのは、クラクションを鳴らしまくっているということ。アジアの他の国でもこうした光景はよく見かけますが、インド人ほどクラクションから手を離さない人々を私は見たことがありません。インド向けに自動車を供給している外国メーカーのほとんどは耐久性を増した特製強化クラクションをつけているほどです。私もアジア統轄時代、月に一度インドへ出張していましたが、クラクションのけたたましさにはよく驚かされました。
では、なぜインド人はけたたましくクラクションを鳴らすのでしょうか。怒っているからではありません。自己主張とコミュニケーションのために鳴らすのです。「ここにいるよ」と自分の存在を知らせたり、「前の車を追い越すサイン」だったりします。
インド人がここまで自己主張する背景には、広い国土に260もの言語があり、宗教もヒンドゥー教をはじめ多岐にわたることが関係しています。この多様性があるために、バックグラウンドの異なる相手に対しては自分の意思を確実に伝えるために主張するのです。
インド人のこの強烈な自己主張は、当然ビジネスの場でもいかんなく発揮されます。グローバルビジネスの世界では、国際会議を成功させるためのポイントについて、次のようなジョークがあるくらいです。
「いかにインド人の参加者を黙らせて、日本人の参加者に意見を言わせられるかどうかで会議の成否が決まる」
インド人はそれほど、存在感を示そうとする自己主張が激しいのです。こちらの質問に直接答えずに関係のない話を延々と続け、イライラを覚えることもあるでしょう。しかし、話を途中で遮るのはあまり得策ではありません。適当なタイミングを見計らって「あなたの言っていることはわかる」と言ったうえで自分の意見を述べれば、抵抗なくこちらの話を聞いてくれるようになるはずです。
仕事の指示は「5W1H」を押さえ、できるだけ明確に与える
インド人の仕事に対する姿勢はアメリカに近いと言えます。
明確に指示されたことはきっちりこなしますが、指示が不明確な点については、自分の守備範囲を超えた領域と考えます。日本人のように指示の行間を読むとか、上司の意図や希望を忖度することはありません。
したがって、インド企業やインド人の部下に仕事の指示をする際は、「5W1H」(誰が、いつ、どこで、なにを、なぜ、どのように)を押さえ、できる限り明確にします。
その上で、以下の事項を意識しましょう(参考 島田卓著『インドとビジネスをするための鉄則55』(アルク)。
①「2C(Continuity/継続性、Consistency/一貫性)
こちらの意図や求める形を具体的に提示して、相手から継続的に一貫した成果物を得られるようにします。
②2T(Transparency/透明性、Timing/タイミング)
指示に対し、「できない」と言われたら、鵜呑みにしないで、その理由や根拠を明らかにすることを求めます。また、成果を得られるタイミングも重視します。
③2P(Predictability/予見性、Patience/忍耐)」
ゴールを見据えたうえで、どういう手順でどう作業を進めていくかを事前に入念に練るよう指示します。また、忍耐強く説明を重ね、そうしたほうがいい理由や、なぜそうする必要があるのかを納得させます。
インド人社員やインド企業に指示する場合、仕事の進行状況をこまめにチェックし、「2C」「2T」「2P」が得られるようにしましょう。また、インド企業へ仕事を発注する場合は、納期を過ぎた場合のペナルティなどを契約書に細かく盛り込んでおくと効果的です。
インド人はホームパーティ好き。招待するときはベジタリアン用料理を忘れずに
インド人はホームパーティ好きで、友人だけでなく、ビジネスパートナーも含め、様々な人を自宅に招いてもてなします。インドで知り合いが増えれば増えるほど、毎週末の予定がパーティで埋まっていきます。
ホームパーティに誘われるということは、「あなたともっと関係を深めたい」というサインですので、なるべく断らずに参加するのがいいでしょう。
①少し遅れて到着するのがマナー
インドのホームパーティは一般に午後8時や9時からスタートし、深夜まで続くことも珍しくありません。
招待された場合は、開始時間から15~30分程度遅れて着くようにしましょう。翌日に予定がある場合は、理由を話せば途中で退出しても失礼にはなりません。
②ベジタリアン用の料理の準備を忘れない
インド人は、宗教的な理由から肉を食べない人が多くいます。したがって、自分がホストになってパーティを催す場合は、ベジタリアン用の食事を用意するのを忘れないようにします。
一口に「ベジタリアン用」といっても、牛肉を食べないヒンドゥー教徒、豚肉を食べないイスラム教徒、肉類を一切口にしないジャイナ教徒など様々です。各宗教別に分かれて料理を出すビュッフェスタイルが便利です。
レストランに誘ったりする場合は、相手に食べられないものをあらかじめ聞いておきましょう。
やってはいけない行動。「独身女性をディナーに誘う」
①レディファーストを心がける
イギリス統治が長かったインドではレディファーストの習慣が根づいています。とくに都市部の会社では多くの女性がオフィスで働いていて接する機会も多いので、欧米と同じ感覚で接しましょう。また、ヒンドゥー教では婚前交渉がタブーなため、慰労目的など下心のない場合でも、男性が独身女性をディナーに誘うのは適切な行為ではありません。
②肌の露出を避ける
日本よりも暑いインドですが、肌の露出については注意が必要です。
ヒンドゥー教徒、イスラム教徒ともに、女性が肌を露出させることはタブーです。とくに足は隠すべきと考えられています。これは男性も含めてです。インドのビジネススタイルはイギリス式なので、どんなに暑くても、スーツにネクタイが原則です。
観光で寺院などを訪れる際も、短いパンツやスカートは避けましょう。体のラインがはっきり出ないゆったりした服を着るのが望ましいでしょう。
③インドの後進性について話すことは避ける
経済発展がめざましいとはいえ、同時にインドでは貧富の格差が拡大しています。インドの将来性について質問したり議論したりするのは歓迎されますが、貧困問題や地方のインフラ未整備、衛生面といったインドの後進性を話題にするのは避けたほうが無難です。
④パキスタンの話題は避ける
隣国のパキスタンはもともとインドの一部だったのが、宗教的な対立により分離し、これまで両者は三度にわたり戦争をしてきました。現在も領土問題で緊張状態にあります。歴史的経緯、民族・宗教的背景など複雑な関係なので、事情にあまり詳しくない日本人はあえて話題にしないのが無難です。
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