(本記事は、齋藤 隆次氏の著書『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

〝世界一日本好き〟な台湾人の国民性が育まれた背景

国際交流
(画像=PIXTA)

50年間にわたる統治はあったものの、その間に日本によるインフラ整備や教育制度の拡充があったため、現在80歳以上の台湾の年配層の多くは日本びいきです。彼らは日本語教育を受けており、みんなで集まっては日本の歌を歌います。町中でも日本語で声をかけられることがよくあり、今日は日本人と話すことができてよかった、と言ってくれたりします。

一方、10~20歳代の若者も、アニメやコミック、ゲーム、音楽、ドラマなどの日本のサブカルチャーを通じて、日本が大好きです。

しかし、勘違いしてはいけません。年配者に「日本語が上手ですが、どうやって覚えたのですか?」と尋ねれば、総じてポジティブな答えが返ってくるかもしれませんが、なかにはネガティブな考えを持っている人もいるかもしれません。少なくとも日本人の側から聞くことは避けたほうが無難でしょう。また、台湾には第二次大戦後の内戦で、中国から逃れてきた人々やその子孫が一定数います。彼らのなかには反日的な感情を持つ人々もいます。

2011年3月の東日本大震災のとき、人口わずか2300万人の台湾から、世界で最も多い義援金253億円が贈られました。その多くが民間の慈善団体や交流協会、個人から贈られたものです。震災発生の3日後には台湾からの救援隊も到着しました。台湾を挙げて日本が東日本大震災から立ち直る支援を行ったのです。

なぜ台湾の人々はこんなに日本を支援してくれたのでしょうか。まず基本的に、台湾人には「近隣の人が困っていたら助ける」という考え方があります。また、「一度恩義を受けたら決して忘れない、いつか返そう」とする考え方もあります。

台湾と日本は、災害が起こるたびに相互に支援してきた歴史があります。1999年9月の台湾中部大地震や、2009年8月の南部豪雨災害で、日本が台湾を支援したことを決して台湾は忘れていなかったのです。また、東日本大震災以降も台湾や日本に災害が起きるたびに、相互に支援を積み重ねています。

このように台湾と日本の間には深い絆があります。ビジネスでは手ごわい台湾企業ですが、味方にできれば心強いパートナーと言えるでしょう。

大企業の一社員よりも、零細企業の社長になることを選ぶ台湾人

台湾の鴻海(ホンハイ)グループは2016年に日本のシャープを買収しました。鴻海グループはEMS(電子機器製造受託サービス)で世界最大手です。

日本企業は自前のブランドを持ち、開発、設計、製造、販売まで垂直統合されたビジネスモデルです。対するに、EMSは自社ブランドを持たず、発注元の委託による製品生産に特化しています。要するに巨大な専門下請けであると理解したほうがよいかもしれません。EMSはブランド競合がないため、発注元と競合せず安心して委託でき、低コストで生産を実現できるため、コンピュータに始まり、ゲーム機や携帯電話、テレビといった製品を大量に生産しています。複数のライバルメーカーも鴻海に委託生産しています。

鴻海がシャープの再生で取り組んだのは、まずコストの徹底的な見直しです。300万円を超える案件はすべてトップの決裁案件となりました。次に取り組んだのが成果給です。

一律に近い日本の賞与の仕組みを改め、業績次第で大きく賞与が変化する仕組みを導入しました。そして「8KとAIoTで世界を変える」ことに取り組んでいます。

鴻海グループによるシャープ買収は成功しました。シャープは2016年から鴻海グループ傘下になり、わずか1年で2017年から黒字に転換しました。

台湾には韓国のサムスンのような国際的ブランドにもなった大企業や財閥があまり存在しません。日本と同じように、中小企業が台湾経済を支えているというのが実情です。

その背景として、まず台湾人の起業家精神が挙げられます。大企業の一社員で終わるよりも、零細企業であっても一国一城の主であることを選びます。

また、自社ブランドの確立にもこだわっていません。狭い台湾市場だけではビジネスが維持できないので海外展開は必然ですが、下請けに徹して実利を得ることを選んできました。中小企業の利点を活かし、世界経済のトレンドに合わせて、迅速な意思決定とフレキシブルな生産シフトを行ってきました。その結果が、ハイテク分野での現在の地位です。

同じ中小企業でも、台湾と日本では経営スタイルがかなり違うということがわかります。旺盛な起業家精神とスピード感覚に優れた台湾企業から学べるものは少なくないと思います。ちなみに鴻海の事業のスタートは、白黒テレビの「つまみ」の部品の製造でした。

狭い国土に多民族が集うシンガポール。まさに人種の〝サラダボウル〟

シンガポールは1965年にマレーシアから独立した、建国からまだ50数年の歴史しか持たない若い国。同時に、東京23区程度の狭い国土に多くの民族が暮らす多民族国家でもあります。特定の民族を優遇するのではなく、民族間の公正平等をベースとする多民族主義がシンガポールの出発点となりました。言い換えれば、「シンガポール人のためのシンガポール」を目指したのです。

まず言語では、英語を公用語として制定しました。独立当初は中国語の方言である福建語30%、マレー語11.5%、タミル語5.2%、英語1.8%、中国の標準語である華語(マンダリン)0.1%でした。ところが、現在日常的に使用される言語は、英語が32.3%、華語35.6%、マレー語12.2%、タミル語3.3%です。

二つ目には民族間の融和です。独立時点では、各人種、民族ごとに固まって集落を形成していました。独立後、それらの集落を取り壊し、替わって住宅開発庁が公共団地を建設し、供給しました。現在ほとんどの集落がこの団地に変わっています。この公共団地においては、民族ごとに割り当て目標が決まっています。人種比率に準じた住民の構成比率を実現しなければならないのです。

現在、シンガポールの民族構成は華人系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%です。たとえば100人の団地ができたとすると74人は華人系から、13人はマレー系から、9人はインド系から、3人はその他人種から入居者を決めることになります。

学校も独立時点では華語校、マレー語校、タミル語校などの言語別に分かれていましたが、多くの人々が英語標準校へ通うようになりました。その上で教育課程に母語科目を設け、母語を学ぶ機会を設けました。

公用語を英語にしたことや、団地のクォータ制、学校制度の変換などにしても、シンガポール政府の強権政治的決断と実行が多民族主義とシンガポールのグローバル化を実現したのだと思います。

今ではヒンドゥー教のお祭りを、マレー系の人や、華人の人が自然に祝ったりしている様子も見られるそうです。多民族主義のシンガポールならではの光景です。

シンガポールのビジネススタイルは欧米流。スピードと合理性がすべて

今やシンガポールはアジアビジネスのハブとして、世界各国からヒト・モノ・カネが集積する場となっています。

シンガポール人と仕事をすると、その決断の速さと合理性に驚くかもしれません。いわゆるアジア的な〝ゆるさ〟を感じることはあまりありません。

①打ち合わせは、スピーディーな展開に合わせた準備を

シンガポール人は、日本人と比べて決断がとてもスピーディーです。日本なら「一度、社に持ち帰って」とか「上司に確認して」となりそうなシーンでも、その場でGOサインが出ることも珍しくありません。

現地での打ち合わせでは、スピーディーな意思決定の流れを断ち切ることがないよう、その場ですぐに試せる製品の試用版や動画を用いた資料などの用意をしておくとよいでしょう。

②無名でも、初取引でも、ビジネスチャンスあり

シンガポール人は「非常に合理的な考えで動く」ことも特徴です。企業同士の長い取引関係や人情を重んじるよりも、ビジネスライクに合理的な判断をする傾向があります。

取引先はもちろん、自身の勤務先を決めるときも、より条件のいいほうへ移っていくフットワークの軽さと冷静な判断力に驚かされるでしょう。

逆に言えば、有名ブランドの肩書きや実績、これまでの取引実績などがなくても、本当にいいものであれば積極的に取り入れる柔軟性も持っています。

商品説明などを行う際は、歴史やネームバリューなどよりも、製品やサービスそのものの魅力をストレートに伝えていくことが成功につながるかもしれません。

多民族国家シンガポールにおけるビジネスの注意点

多民族国家のシンガポールでは、宗教も、仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンドゥー教と多様で、祝日も公平に設定されています。

このようなシンガポールでのビジネスにおいて気をつけたいことを紹介しましょう。

①会社訪問

日本同様、時間厳守です。フレックス制を導入している会社や金曜日は、イスラム教徒の人々は昼に2時間ほど休憩を取ることもあります。アポなし訪問はもちろんNGです。

②服装

高温多湿のシンガポールでは、ネクタイやジャケットなしの長袖シャツとズボンのスタイルが一般的です。しかし、イスラム教徒の社員もいるので、女性は肌が露出する服装は控えましょう。

③贈り物

手土産を持っていくときも、相手の文化や宗教を考慮することが必要です。

  • 中華系……置き時計や傘、扇子を贈ることは避けましょう。

  • マレー系……イスラム教徒の場合、アルコールや香水(アルコールを含むもの)、豚肉、下着、犬の写真や絵のついたものは避けましょう。食べ物は当然「ハラル」(イスラム法で許された食材や調理法で作られたもの)であるものを持っていきましょう。

  • ・インド系……幸福を表す明るい色の包装が喜ばれます。ヒンドゥー教徒には牛肉や革製品は避けましょう。

④接待

イスラム教徒は豚肉とお酒、ヒンドゥー教徒は牛肉など、口にできないものがあります。食事に誘う場合は、必ず事前に食事上の制限があるかどうかを聞いておくべきです。

ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック
齋藤 隆次
異文化人材マネジメント・コンサルタント。パイオニア・インダストリアルコンポネンツインク元CEO。ヴァレオ(フランス系大手自動車部品メーカー)ジャパン元社長。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)、中小企業診断士。1955年福島県生まれ。国立電気通信大学経営工学科卒。在学中は、行動科学や品質管理を学ぶ。大学卒業後、大手電機メーカー・パイオニア株式会社に入社。40歳でアメリカ・ロサンゼルスに赴任し、北米事業全体を担当。メキシコ新工場設立プロジェクトのマネジメントにも携わる。44歳のとき、現地子会社パイオニア・インダストリアルコンポネンツインクのCEOに就任、経営合理化に辣腕を振るい、黒字化を果たす。帰国後ヘッドハンティングを受け、フランス系大手自動車部品メーカー・ヴァレオの日本国内事業部長に就任。ドイツ・フランス・日本の文化のはざまで会社再生に取り組む。50歳でアジア統括部長に、57歳で日本法人社長に就任。パリにあるヴァレオ本社リエゾンコミュニティメンバー(全世界9万人の社員のトップ30人)に唯一の日本人として名を連ねる。在任中は世界市場における日系顧客からの受注を3倍に伸ばすなど、業績拡大に寄与する。また、「和魂洋才」の考えの下、外国の経営システムや考え方の長所を取り入れつつ、和のコミュニケーションと融合させながら進めていく異文化人材マネジメントの手法を確立する。これまで日本国内外で接した外国人は20カ国以上、のべ5,000人以上に及ぶ。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)