(本記事は、株式会社 船井総合研究所HRD支援部の著書『採用ファースト経営』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)
新人が活躍しやすい業務形態に変える
「即戦力化=スパルタ」ではない
当社の支援先の飲食店では、新卒社員は2、3年で店長になることを前提に育成計画を立てます。そのために必要なことはスパルタ教育ではなく、仕組み化です。
たとえば、回転寿し店の利益を大きく左右するのは、どのタイミングでどの商品をレーンに置くかですが、それができるのは熟練の店長だけ。2、3年でその経験は積めません。しかし、そこで各店舗の状況を本部でリアルタイムに管理しながら「いまイカ入れて」といった指示を飛ばす仕組みを導入すれば、2、3年目の店長でもちゃんとお店を回せて、なおかつ会社全体として業績も上がるのです。
このように属人的な力に頼らなくても若手社員の業績が上がるように環境を整備することは、早期育成という観点から見て非常に重要な概念です。
右も左もわからない新人に「あれもこれもやれ」といきなり詰め込んでも、そのペースに追いつける人財は限られてきます。「頑張っているけど、できないことばかりだ。自分はこの仕事に向いていないのではないか」と自信を喪失して辞める若手が出てきます。それでは早期育成と定着率アップにつながりません。
「早期育成=スパルタ」と勘違いされる方もいますが、そうではありません。「まずはこれやってみようか?」「できたね。じゃあ、次はこれをやってみようか?」と確実に一段ずつ階段を上らせたほうが、安定的かつ効率的に人財を育成することができます。
そのためには経験の浅い新人でもできそうな範疇に業務を絞り込むことです。そして、そこで自分の成長度合いや会社への貢献度を、はっきりとした手応えとして実感してもらうことです。すると若手のモチベーションは上がり、仕事に前向きになり、次はこんなことに挑戦したいという気持ちが湧いてきます。
最終的に多能工を目指してもらうのがいいのです。ただ、そこに至るまでのルート設定が重要だということです。
新人は「成果の見える仕事」に専念させる
支援先で実際に行った、わかりやすい業務改革の例があります。
名古屋のある医療機器メーカーは介護施設や病院に自社の営業部隊を送り込んでいます。介護施設の営業であれば1年目でもなんとかなるのですが、病院は業界特有の知見と経験が問われるため、病院の新規開拓は難関です。
そこで当社のコンサルタントが提案したのが、1年目の社員は介護施設の営業に専念させることでした。そうすれば新人は病院のことを学ぶ必要がなくなり、介護施設回りにすべての時間を割くことができます。結果的に売り上げも立ちますし、なにより社員に自信がつきます。
業界の慣習からすれば、法人営業においてはテリトリーを任せることが一般的で、業界を絞った法人営業というのはあまり事例がありません。この話をしたとたん経営者の方は目からウロコが落ちたような表情をされ、「なんでそれを思いつかなかったんだろう」と言って、翌月から制度を変えられました。さっそく効果が出始めているそうです。単純な例ですが、業界慣習にこだわるがゆえに人財育成が遅れている業界は少なくありません。
第1章で触れたように、当社でも採用ファースト経営に切り替えてから、従来の一気通貫型コンサルタントからチーム制のコンサルティングへと移行を進めています。ある部門では、新人Aは営業専門、新人Bはインターンシップの企画専門、新人Cは資料作成専門という形で分業をして、チーム全体としてクライアントの課題を解決していく仕組みを導入しています。その部門は現在社内でも極めて高い生産性を上げており、1年目の社員も大活躍しています。
「そうした働き方だと社員が不満を持たないか?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、当社では採用段階から「うちはチーム制なのでまずは専門性を身につけてほしい」という話を学生にしているので入社後のミスマッチは起きません。
もちろん「いずれはなんでもこなせるコンサルタントになりたい」という願望を持っている若手がほとんどなので、そういう社員はひとつの領域で結果が出せるようになったら別の領域にチャレンジしてもらっていますし、「自分はひたすら営業を極めたい」という社員がいたら、その希望をできるだけ叶えるようにしています。人には得手不得手があるため業務を分業化しておくと適材適所を圧倒的に進めやすくなるメリットもあるのです。
分業化は受験勉強に例えるとわかりやすいでしょう。受験勉強の目標は総合学力を上げることです。その際、すべての教科を並行して勉強するスタイルが一般的ですが、それだと自分の成長がはっきり自覚できるのは先の話です。自分の成長を早い段階で実感しやすくするには攻略する教科を絞って、ひとつずつ得意科目にしていくことです。受験勉強をはじめて早々に得意科目ができれば、その後の勉強にも身が入りやすいでしょう。
また、分業化で重要なことは、単に業務を細分化することではなく「いかにチーム全体として機能させていくか」ということです。たとえば大半のコンサル企業では営業と現場を分けていますが、できもしないことを営業が契約してきては現場もお客様も困惑するということが頻繁に起きています。それはチーム全体として連携できていないからです。チームとして連携の取れていない分業化は、単なる歯車化です。成果を実感しづらいので早期育成と定着にはつながりません。
ソリューションの標準化を図る
こちらも先述した通り、当社では分業化を進めると同時にクライアントに提供するソリューションも積極的に標準化を進めています。わかりやすく言えば、誰もが同じ成果を再現できるよう、やるべきことを明文化しておくことです。
コンサルタントの世界は「いかに自分のオリジナリティが発揮できるか」という個人商店の色合いが濃く、当社もかつてはそうでした。しかし、そのスタイルだと成果を出す人財と出さない人財のばらつきが大きくなりすぎる欠点があります。
そこで顧客の抱える課題に対して「これだけをやればすぐに解決する」というソリューション(当社の広報ではずばりソリューションと表現しています)を社内にストックしておき、コンサルタントがそれをそのまま顧客に提案する形に変えたのです。
この仕組みを可能にするのは徹底した情報共有です。当社では成功事例会議と呼ばれる会議を定期的に開催しており、誰かが優れたソリューションを思い付いたり、既存のソリューションの改善策で成果が出たりしたら、積極的に共有するようにしています。そして上長が最適なものを選んで「船井総合研究所のソリューション」として落とし込んでいったほうが、誰でも同じような結果を残すことができ、安定した業績アップが見込めます。
大量の新卒社員が即戦力として会社に価値貢献できる組織に変えていくには、若手社員が「すぐに活躍できる環境」「最小の手間で売り上げを立てられる環境」を、経営者が用意しないといけません。それは時に経営者自身や古参社員がやってきた仕事のスタイルを否定することになりますが、そこは「組織を次のステージに上げるため」という割り切りと覚悟が必要なのです。
結果、当社では若手社員のチームリーダー昇格までの平均勤続年数が4年2カ月(2018年度)と複数セクターを受け持つ他のコンサルティング会社と比較にならないスピードで、入社後の早期戦力化を可能としています。
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