(本記事は、株式会社 船井総合研究所HRD支援部の著書『採用ファースト経営』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)
求める人物像を定める
「仕事好き、会社好き、仲間好き」を集める
新卒の大量採用を実践するにあたって、準備段階として大事なことは採用コンセプトの明確化。つまり、求める人物像を社内で言語化し、共有しておくことです。ここが定まっていないと選考基準がブレます。
たとえば当社では求める人物像として「仕事好き、会社好き、仲間好き」を掲げており、採用活動においてもはっきり学生に伝えています。
「求める人物像」とはマーケティングでいえば顧客ターゲットの設定であり、どんな人に買ってほしいかが社内で決まっていないと効果的なマーケティングプランが打てません。求める人物像は、自社のミッションやビジョン、バリュー、行動指針などから逆算で抽出することができます。
「ただでさえ学生を集めることに四苦八苦しているのに、求める人物像をはっきり打ち出してしまったら余計に人が集まらないのでは?」
このような心配をされる経営者も多くいらっしゃいます。気持ちはよくわかります。ただ、ここで新卒採用における重要な考え方を2つ挙げておきます。
・価値観が最初からマッチする学生は新卒市場にいない
・採用活動を通して学生たちを自分たちが求める人物像に育てることはできる
中途の場合はこのようにいきませんが、社会人経験のない22歳前後の学生を採っていくわけですから、説明会やリクルーター面談などを通じて会社のビジョンや求める人物像を繰り返し語ることで、学生たちの価値観を会社の価値観に合うように「仕上げていく」ことはできます。しかも、それが入社後のミスマッチを防ぎ、高い定着率につながります。
船井総合研究所の場合は「同根異才」というキーワードを掲げて人財活用を行っています。
経営理念や仕事の型のような「船井総合研究所の社員なら最低限これはできてほしい」というベースとなる3割は社内統一を図り、残りの7割で個々の才能を発揮してもらうという考え方です。
その点、新入社員は3割のベースができていない状態ですから、いかに早く「同根」を根付かせるかに注力しているのです。やはり経営理念や仕事の「型」の部分については歩調を合わせないと、チームとしての力は発揮しづらいと思います。
それに「自社が理想とするような学生は最初からいない」という前提に立てば、採用活動において重要なことは学生をふるいにかけることよりも、限られた接点の中で「いかに自社の色に染め、ファンになってもらえるか」であることがご理解いただけるかと思います。採用活動を通じて自社に合った人物像を植え付ける採用スタイルのことを当社では「育成型採用」と呼んでおり、採用ファースト経営を特徴づける大きな要素のひとつです。
新卒採用に苦戦している中小企業でよく起きるのは、選考プロセスで悩みに悩んで学生を絞っても、最後の最後で内定者に辞退されることです。
それを防ぐためにも、当社が支援に入る際は、
「内定を出すまでにいかに価値観を仕上げるかが勝負です」
「説明会の段階から人財育成は始まっています」
と伝えています。
当社が求める人物像である「仕事好き、会社好き、仲間好き」という3要素は、表現をアレンジすることはありますが、支援先企業でもそのまま使ってもらうことが多いです。
「仕事好き」については異論がある経営者はいないかと思います。オペレーション人財ならともかく、自社の中核を担う人財を採用したいわけですから、さすがに「仕事嫌い」では話になりません。最近の若い人はプライベートを重視するようになったという話をよく耳にしますが、それは程度の問題であって、仕事に対して情熱的に取り組みたいと思っている学生はいくらでもいます。
ポイントは「会社好き」と「仲間好き」です。実は当社も採用ファースト経営に切り替えるまでは採用時においてこの2つの要素は学生に要求してきませんでした。「仕事好き」を前面に押し出して、「ガンガン働き、ガンガン稼いで、3年で独立したい人集まれ!」という社風だったのです。
すると上昇志向の高い、非常に高いポテンシャルを持った学生は採れます。しかし、当然ながら定着はしてくれません。会社好きでも仲間好きでもない人は働く場所にこだわりがないので、当然の帰結です。
そこで当社では、「仕事好き」という括りだけで採用活用をすることをやめました。「船井総合研究所のことを気に入ってくれて、なおかつチームで協働して働くことが好きな人」を集めるように変えたのです。それは面談時の選考基準としても重視され、たとえ優秀な学生でも当社への関心が薄い学生は採用しません。
その結果、当社の退社率は2015年9・8%、16年8・7%、17年11・8%、18年10・5%とコンサル業界の中では非常に低い数値に改善させることができ、それに伴い社員の平均年齢も下がり、ついには20代まで下がりました。当社のオフィスをご覧になった経営者の多くは、若い社員たちが主体となってイキイキと働く光景を見て「まるでベンチャー企業みたいだね」と言われます。
最低限必要なスキルは何か?
採用した人が思ったほどの活躍をしない─。
採用してもすぐに離職してしまう─。
このような課題を抱える中小企業は非常に多いです。それは本を正せば、求める人物像が明確になっていないために選考フローがチェック機能を果たすことができず、ミスマッチが多発していることが理由です。
極端な例を挙げれば、大きな声で数字を読み上げるだけという仕事があったとしたら、求める人物像として「声の大きな人」ということを明文化しないといけません。そして募集の段階でも「声が大きい人求む!」とアピールして、面接でも声が大きいかを見極める。そして身体的に大きな声を出せない人や、大きな声を出すことが嫌いな人は除外する。
このような選考フローにしないと入社後のミスマッチが起きて当たり前です。
しかし、多くの企業では人事担当が声の小さな学生を採用し、現場が「今年の新人は声が小さい」と不満を漏らすような事態が起きています。
たとえば営業職が欲しいなら、「営業に向いていそうな学生を採ろうか」というレベルで話は止まり、あとは人事任せにしてしまうのです。すると人事は総合的に見て無難そうな学生を手当たり次第集めることになり、ミスマッチが起きる確率が上がるのです。
自社の各職種に求められる価値観やスキルは何か? そうしたことを各職種のリーダークラスと協議の上リストアップし、さらにその要素のうちどれが必須なのかという優先順位づけまで行っておくことが肝心です。
もちろん多くのことを学生に期待したところで夢のような応募者はいませんし、細かい条件を設定しすぎると頭数が確保できません。実際には細かい要素については「入社後に身につけてほしいスキル」として整理して、育成計画や評価制度の設計で活用すればいいのです。ただし、価値観や、先ほどの「大きな声が出せるか」といった大前提の能力については、選考フローの段階でしっかり見極める必要があるということです。
ペルソナを設定する
求める人物像のマインドセットや最低限のスキルは決めてあったとしても、実際にアプローチをかけるときはターゲットの姿がより具体的に見えているほうが効率的です。そこで支援先には簡易的なペルソナを設定してもらっています。
といっても「○○大学でチームスポーツをやっている学生」といったレベルで構いません。自社の活躍人財を洗い出すと見えてくることもあります。
注意したいのは、ペルソナはターゲットとなる学生の輪郭を掴むための目安であって、選考基準ではないということです。営業系の企業ではまだまだ体育会出身者にこだわりつづける経営者が多いですが、ある程度の規模になってくると組織に多様性を注入していかないと物理的に人が増やせないことが起きるのです。
たとえば、多角化経営で有名な北海道のヤマチユナイテッド。同社の山地章夫社長が採用活動で一貫して伝えているのが「100VISION」で、「100の事業を立ち上げて、100人の経営者をつくる」ことを目指しておられます。
その中で会社の社風として「社員それぞれが考えて行動する全員参加型経営」というコンセプトを伝えておられます。
「画一的な社員構成では事業の多角化はかないません。仲間をぐいぐい引っ張るリーダータイプ、冷静沈着な理論派、その場にいてくれるだけでうれしい平和主義タイプなど、それぞれのキャラクターに能力と資質を発揮できる場所があるはず」
と、誰もが自分のスタイルで仕事に取り組める環境だということをPRし、結果的に自社のビジョンに合致した学生を多数採用することに成功しています。
採用人数や会社の目指すべき事業形態によって求める人物像は異なりますが、自社のハイパフォーマンス社員を冷静に見極めながら欲しい人物像を明確化させることが、採用活動をより効率的なものとするのです。
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