(本記事は、株式会社 船井総合研究所HRD支援部の著書『採用ファースト経営』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)

昇給・昇格のロジックをガラス張りにする

採用ファースト経営
(画像=PIXTA)

「一人前」が定義されていない!

支援先からよく受ける相談のひとつに「社員の成長が遅く、一人前になる前に辞めてしまう」というものがあります。そんなとき、当社のコンサルタントは決まって「御社で想定されている一人前とはどういう人財でしょうか?」と尋ねますが、多くの企業で回答はバラバラです。つまり、社内で一人前が定義されていないのです。

意思統一が図れていないということは、目的地がない状態で走っているようなもの。採用基準や育成方針がブレたり、社員本人が迷ったりするのも仕方がない話です。

たとえば当社では、入社後の「目標自立期間」と「自立の基準(一人前の基準)」を入社前から常に意識してもらうようにしています。業種ごとに一人前の定義をはっきりとさせたうえで、そのレベルに何年で到達するのが理想なのかを言語化しているからこそ可能なことです。

当社のコンサルタント職では、チームリーダーになることが一人前の基準です。チームリーダーになるために必要な要件もすべて細かく明文化されています。具体的なKPIは「個人粗利」「チームの予算粗利」「成長性」の3つです。

そのうえで、3年でチームリーダーになってもらうことを奨励しています。人によって成長速度は異なりますので、3年では厳しいという社員もいます。その場合も「コツコツ頑張っていたらいつかチームリーダーになれるよ」とぼんやり励ますのではなく、「じゃあ、何年で目指そうか?」と常に目標を意識するように仕向けます。社員の成長意欲を高めるのが、自社の成長速度を高める最大の近道です。

サービス業なら「○年目で店長」、営業職なら「○年目で売り上げ〇〇〇〇万円」といった具合に、一人前の基準や目標自立期間は業種・職種によってかなり変わります。いずれせよ、一人前の基準と定量的な目標(と現時点でのギャップ)を、社員に日々意識させながら業務に当たってもらうことが重要です。

「一人前の定義」は合言葉のように使うのがポイントで、学生を募集するときの資料や入社後の研修、日々の会議などで繰り返し使うことで年次の浅いコンサルタントは何としてもその数字を達成すべく頭を使うようになります。当社では、それは「3年目で個人粗利3000万円」などと決まっています。

そもそも先ほどの事業戦略に基づく人員計画を立てるためにも「一人前」の定義が欠かせません。なぜなら新卒社員に対して1年で1000万円稼いでほしいのか、3000万円稼いでほしいのかによって採用すべき人数が変わってくるからです。当然、入社後の育成計画も立てられません。

「採用した人財がどれくらいの期間で、どれくらいの貢献をしてくるのか?」

そうした定量的な予測が立っていないと、事業計画も人員計画も絵に描いた餅で終わってしまいます。はじめて新卒採用に取り組む企業の場合、少なくとも入社3年目までの成長曲線を言語化しておくことは必須です。

ここで注意点がひとつあります。「一人前の基準」という話を経営者にするときに意外と多いのが、「うちの社員ならだいたいこれくらいはできるよね」と言って、業界平均と比べて極端に高い水準を掲げてしまうことです。たしかに既存社員の水準はそうかもしれませんが、その水準に至らない社員は会社を辞めているだけというケースが多いのです。

これは定着率にも深く関係することです。極端にできる人財の基準に全社の基準を合わせてしまうと、本来なら戦力として貢献できる平均値の社員までもが会社に残りづらくなってしまいます。すると、「あの企業は結果を出せないと辞めさせられる」という評判がネットで広がり、学生たちからも敬遠されるようになってしまうのです。

そういう意味で、異常値ではない業界平均がどのあたりなのかを経営者自ら把握しておくことは、実は重要なことなのです。

キャリアプランを確立しているか?

優秀な学生ほど成長意欲が旺盛ですので「頑張ったら報われる」と感じられる企業を好みます。そこで重要になるのがキャリアプランの設計です。キャリアプランは個人が勝手に立てるものというイメージが強いですが、社員がキャリアプランを立てやすいように評価制度等をガラス張りにしておくことは、経営者の大事な仕事です。

具体的に着手すべきは役職の定義です。たとえば部長と課長と係長にはそれぞれどのような権限があり、その役職につくにはどのようなスキルが必要なのかといったことを言語化していきましょう。

「(職種別・階層別の)従業員に対して会社は何を期待しているか?」
「どんな結果を残せば合格なのか?」

ということが、社員全員にはっきりと伝わるかどうかがポイントです。

逆に言えば、昇格・降格のロジックが曖昧で、理想的なキャリアパスがイメージしづらい企業には優秀な人財が集まりません。

また従業員にすれば、キャリアプランがより具体的なほうが「努力すべきこと」に迷いがなくなりますので、同じベクトルを向く人が増え、企業のビジョンに合った人財を高速で育成することが可能になります。

たとえば多角経営を進める企業は経営者マインドを持った人財を多数育てる必要があるわけですから、評価制度においても提案力やマネジメント力のような要素が重視される制度にする必要がありますし、それを従業員に対しても明示しないといけません。

「企業のビジョンの実現だけではなく、個人のビジョンの実現も叶えたほうがいいのか?」

このような質問も支援先ではよく受けます。これはつまり、会社の定める評価軸に納得いかない社員が出てきたときにどうしたらいいか? 個性を活かすべきか? という意味です。

それに対して当社は「できる限り個人のビジョンを企業のビジョンに合わせていきましょう」と回答します。採用活動の段階から経営者の思い描いているビジョンや社員に求めるものを明確に打ち出し、それを一緒に実現してくれる仲間を集める、というのが基本スタンスです。

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株式会社船井総合研究所HRD支援部
お客様の業績を向上させ、社会的に地位の高い「グレートカンパニー」を多く創造することをミッションとする。中堅・中小企業を対象に、日本最大級の専門家を擁し、業種・テーマ別に「月次支援」「経営研究会」を両輪で実施する独自の支援スタイルをとる。その現場に密着し、経営者に寄り添った実践的コンサルティング活動はさまざまな業種・業界の経営者から高い評価を得ている。HDR支援部は「組織のイノベーションをサポートする」をビジョンとし、企業の持続的成長を実現するための人事・組織の専門コンサルティング部門。採用→育成→定着分野において、企業成長に合わせた持続的で計画性のある一気通貫の人づくり・組織づくりをサポートしている。

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