(本記事は、株式会社 船井総合研究所HRD支援部の著書『採用ファースト経営』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)
成長度合いを見える化する
育成の基準を定める
どのような育成制度を用意すべきか検討する以前の問題として、企業が必ず行わないといけないことがあります。それが社員の成長の度合いを客観的に測るための「育成の基準」を社内で明確にし、共有することです。
たとえば、新入社員を3年で店長に育てたいのであれば、いつまでにどのようなことができるようになっていないといけないか。こうしたことを定性的ではなく定量的に把握できるようにしておかないと、評価する側も学習する側も軸がブレます。軸がブレるということは成長に無駄やばらつきが生まれやすいということです。
向上心の強い若手社員が「自分はすでに店長レベルなのに、なぜ昇進させてくれないんだ」と不満を募らせて離職してしまうことは、サービス業ではよくあることです。そのとき「たしかに実力は認めるけど、後輩への思いやりがちょっと物足りないんだよね」と上司が抽象論を語ったところで、社員が発奮するわけがありません。
「育成の基準」の確立とは、すなわち評価制度の項目をできるだけ定量的に捉えられるようにKPI化していくことです。
たとえば、中小企業が使っている評価制度は人事コンサルティング会社や地元の社会保険労務士が作ったものを長年使い続けているというケースが多く、定性的な項目が目立ちます。たとえば「思いやりがある」という項目が5段階評価になっていたとしても、基準があまりに曖昧ですし、そもそもその課題をクリアしたところで、会社への価値貢献にどれだけつながるのかという不信感も生まれます。
本来、評価制度は会社の事業戦略(業績アップにつながる課題)と密接に連動するものでなければいけません。たとえば当社では、事業成長の課題として粗利をひとつの重要な経営指標と捉えていますので、チームリーダーの評価項目でも個人粗利というKPIを重視しています。
重視しているからこそ、若手の能力開発をしていくときもKPIのアップにつながるスキルを重点的に教育していきます。
あと忘れてはいけないのが、評価制度と賃金制度の連動です。そこもしっかり整合性が取れていれば、社員としては会社から与えられた課題をひとつずつクリアしていけば評価と賃金が上がり、会社に価値貢献ができます。会社としては効率的に業績アップにつなげていくことができます。
要は、入社前に経営者が学生に対して「うちはこんな目標を掲げているから、君たちはこんな人財に育ってほしい」と語っていた話と、社内の実際の評価の仕組み(や育成制度、賃金制度)が一致しているかどうかが重要なのです。
採用という大仕事が終わったら次に行うことは評価制度の見直しであり、具体的な研修制度の検討はそのあとです。評価制度は「給与の基準」を決めるためだけではなく、「育成の基準」の言語化こそが重要なことなのです。
評価基準の見直しに当たっておそらく多くの経営者が直面する悩みは、従来の評価基準と新しい評価基準との間のギャップです。評価基準をガラッと変えると、それまでAランクだった社員がBランクに落ち、逆にBランクだった社員がAランクに上がるなど、社内にいろいろな風波が立ちます。
しかし、自社を次の成長フェーズに乗せるためには会社が乗り越えるべき課題が変わっていくことは当然のことであり、そこは経営者が強い意志を持ち、明確なビジョンを打ち出しながら社内の納得感を高めていくしかありせん。
評価制度とは、経営者の思想と会社の事業戦略がそのまま表れたものなのです。
評価制度を形骸化させない
評価制度でよくある失敗が、制度の構築に手間をかけたことに満足して、実際の運用の手間をかけていないことです。評価制度は「構築と運用」の2段構えで考えることが基本であり、運用がなされていないと意味がありません。
評価制度の運用というと構築のあとに説明会を開催し、半期ごとに評価スコアをつけて共有というのが一般的ですが、本当に重要なことは社員に対するフィードバックです。人事評価のフィードバックは、年に1回、上司と部下が1on1で話し合いをする席を設けるだけで終わっていませんか?
しかもそれが、来期の給与の根拠を説明する場という位置づけになっていたり、部下の悩みを聞き出すような別の目的として使われたりといったことが少なくありません。評価制度が形骸化している組織の典型的な例です。
評価項目を定量的に定めたということは、従業員にとっての課題がはっきりしているということです。上司もより具体的で適切なフィードバックがしやすいわけですから、できるだけ質の高いフィードバックをして、社員各自が常日頃からその課題を意識して、自主的にブラッシュアップしていくように仕向けるようにしないといけません。
仮に適切なフィードバックをしていたとしても、そもそも年に1回では育成にはつながりません。育成はPDCAサイクルそのものですから、年に1回チェックが入るサイクルではあまりに回転が遅すぎるのです。
評価制度の運用で大事なことは、フィードバックの質と頻度です。当社が支援先に評価制度を提案する際は、少なくとも年2回、できれば年4回は1on1の機会を設けるように勧めています。もちろん、そのような時間的余裕がないケースもあるでしょう。その場合でも、評価やフィードバックをする項目を絞ったり、その職種・階層別の最重要項目を選んで、少なくともその項目については年4回フィードバックをするといった形で提案させていただくことが多いです。
たとえば販売系の会社であれば、毎月・毎週の会議で、「契約率」や「アポイント取得率」といったKPIを定点観測していると思います。このKPIをそのまま評価項目とし、KPI達成のためのプロセス指標となる「行動量」を評価制度・賃金制度と連動させることが最も重要なポイントになります。
評価制度を正しく運用させること自体が、育成スピードにつながると理解していただければと思います。
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