(本記事は、株式会社 船井総合研究所HRD支援部の著書『採用ファースト経営』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)

定着率を改善する取り組み

採用ファースト経営
(画像=PIXTA)

経営者が離職率を把握する

当社では、全国の中小企業経営者を対象に人財ファースト経営フォーラムを実施しています。初参加の経営者の方には初回に40項目からなる「組織開発クラウド」という診断サービスに答えていただくのですが、その質問項目とは別に、企業の基本情報として「定着率(=100%-離職率)」を記入していただく欄があります。

しかし、いざ蓋を開けてみると「不明」「わからない」という回答がほとんどです。つまり、自社で定着率も離職率も算出していない、もしくは経営者が把握していないのです。ひとりでも社員が辞めたら大ごとになる零細企業ならまだしも、従業員数300人くらいの規模でも数値を把握されていない企業がほとんどです。

それはつまり、大半の中小企業経営者にとって定着率や離職率が経営上の重要な指標として見なされていない証しでもあります。

当社では全社的な数値だけではなく、年次別、職種別の離職率・定着率も管理し、数値目標を立てながら対策を打つということを実践しているため、前述した診断のフォーマットを作る際に「定着率くらいは把握しているだろう」と甘く考え、定着率を基本情報の欄に入れてしまいました。

定着率を改善させる最初の一歩は、定着率を管理すること。これが答えです。どのような対策を講じるにしても定着率を定量的に把握していかなければ目標も立てられず、PDCAサイクルを回すことはできません。定着率・離職率の算出はエクセルを2分いじればできてしまう簡単なことです。それを人事部が常に管理し、経営者も重要なKPIとして意識を向けていくことが、なによりも重要なのです。

とはいえ、「定着率100%、離職率0%を目指そう!」と言いたいわけではありません。離職者が少ない企業は世間的にはホワイト企業と認定される風潮がありますが、どのような組織でも文化にフィットできない人はゼロではありません

ましてや中小企業が採用ファースト経営に舵を切って成長フェーズに移行していくと、従来のやり方に慣れ親しんだ社員が反発をすることもよくあります。大量離脱はもちろん避けたいですが、適切な「血」の入れ替えが時に必要であることは否定しません。会社のギアチェンジを行う際に、方向感にズレてくる社員を無理に残そうとすることはお互いにとって不幸です、よって支援先の経営者にも定着率100%を目指しましょうとは言いません。

目安としたいのは業界平均です。業種ごとに管理されるなら業種平均。まずはそれを調べて、自社が平均よりいいのか悪いのかを把握し、現実的な数値目標を立て、それを達成するための施策に知恵を絞っていくというのが、定着率アップの大きな流れです。

ちなみに離職率のデータをネットで検索すると、厚生労働省の「雇用動向調査結果の概況」がヒットしますが、当社では中小企業における業界別の離職率はこの数値と相当乖離があると考えています。

採用ファースト経営

早期離脱の防止に専念する

採用ファースト経営の理想は、若手主体の組織に少しずつ変革していき、企業の中長期的な成長に直結させていくことですから、定着率アップの施策を検討する際は既存社員の大量離脱に目を光らせつつも、やはり若手社員の早期離脱を防ぐことを優先しましょう。

「地元の国立大学からはじめて学生が採れたが、3カ月で辞めてしまった」
「早期育成には成功したが、3年で競合大手に引き抜かれてしまった」

という事態が常態化してしまっては、組織の加速度的成長は実現しません。

若手社員の早期離脱を防ぐ方法は、とにかく先手、先手で動くことです。社員の不満が顕在化した時点で、本人の気持ちは固まっていることが多いからです。社員の小さな不満を火種の段階で察知する仕組みは必ず用意しましょう。

よって、若手社員に限っては上長とのマメな面談は不可欠です。ただし、自社のマネジャークラスが年配者ばかりで若手社員との距離が遠いと感じる場合は、採用ファースト経営(自社改革)に理解を示す先輩社員をメンターとしてアサインしたほうが得策です。

その際は、採用プロセスの章で紹介したAIによる性格マッチング診断サービスなどを使うと効果てきめんです。実際、流行りのメンター制度を導入したものの、メンターとの相性が悪くて若手が辞めてしまったという例は珍しくありません。

若手社員とのコミュニケーション密度を増していくことと同時に重要なのが、組織としての柔軟性です。離職をする社員は「上司とウマが合わない」「いまの仕事が自分に合っていない」「いまの職場では自分の夢が叶えられない」といった不満をすぐに解決できる場所が見当たらないから他の会社に「逃げよう」とするのです。転職に際して「攻めの転職」「逃げの転職」という言葉がありますが、いずれのケースでも「不満を解消するための転職」であることには変わりません。

よって、早期離脱を防ぐためには、社内のさまざまな制度をできるだけ柔軟に考えて、「逃げ場」をできるだけ用意してあげることが重要です。たとえば、半期に1回、配置転換の希望を叶えるとか、親の介護が必要な社員は時短を認めるなどです。もちろん、どこまで柔軟にするかというバランスもありますが、少なくとも社内制度が官僚組織のようにガチガチに硬直化している組織は、若い人から見てあまり魅力的ではないでしょう。

中小企業であれば制度変更は経営者のトップダウンでできるわけですから、最後は経営者の心持ち次第なのです。

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株式会社船井総合研究所HRD支援部
お客様の業績を向上させ、社会的に地位の高い「グレートカンパニー」を多く創造することをミッションとする。中堅・中小企業を対象に、日本最大級の専門家を擁し、業種・テーマ別に「月次支援」「経営研究会」を両輪で実施する独自の支援スタイルをとる。その現場に密着し、経営者に寄り添った実践的コンサルティング活動はさまざまな業種・業界の経営者から高い評価を得ている。HDR支援部は「組織のイノベーションをサポートする」をビジョンとし、企業の持続的成長を実現するための人事・組織の専門コンサルティング部門。採用→育成→定着分野において、企業成長に合わせた持続的で計画性のある一気通貫の人づくり・組織づくりをサポートしている。

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