(本記事は、株式会社 船井総合研究所HRD支援部の著書『採用ファースト経営』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)

内定辞退率を抑える

採用ファースト経営
(画像=PIXTA)

内定10人、入社0人を避けるために

都市部の優秀な学生になると、大手企業5、6社から内定をもらうことは当たり前です。かつては学生がこぞって入社したがった有名な企業でも、内定辞退率が5割を超えることも珍しくありません。最初は温度感の低かった学生をなんとかして口説き落とし、内定出しまでこぎつけたとしても、内定辞退をされたらそれまでの苦労が水の泡です。

よって、採用担当者にとって最後まで気の抜けない大事な仕事が内定者フォローです。このプロセスにかける手間次第で、いくら母集団を多く集めていたとしても、入社する学生の数が10人になるのか、0人になるのかという大きな差として表れます。

内定者フォローには2種類あります。入社に至るまでの「中期的なフォロー」と、内定を出した直後に行う「短期的なフォロー」です。

[中期的フォロー]
中期的フォローとは、内定を出した5月、6月ごろから内定式のある10月、さらに翌年春の入社日までの間、内定者と定期的に接点を持ち続けることを指します。最低でも月に1回は接点を持ち続けることが基本です。

目的は大きく分けて2つあり、ひとつは心変わりをさせないためのさまざまな対策です。内定式や懇親会、社内行事への参加といった形で自社のメンバーとなった感覚と、内定者同士の絆をいかに強められるか。また、地方の場合は公務員試験(試験は8月、合否発表は10月)に合格して親に説得されて内定を辞退する学生が多いため、親御さんを味方につけることも大事な仕事です。

中期的フォローのもうひとつ重要な目的が、早期育成です。新卒の即戦力化に成功している中小企業の多くは、内定式を終えたあとから入社までの期間を無駄にせず、プロジェクト型の研修などを実施して社会人として準備をさせています。内定者研修については次章で説明します。

[短期的フォロー]
内定者の短期的フォローとは、具体的には内定出し直後に行う内定者面談と、入社動機を高めてもらうための最後の追い込みを指します。前述した月1回の中期的フォローができている企業は珍しくありませんが、意外なことに多くの中小企業はこの短期的フォローがやりきれていません。とくに内定を出す5月、6月にはゴールデンウィークがあるため、連休直前に内定を出して、連休中は学生を放置し、連休明けに内定辞退のメッセージが届くケースが非常に目立ちます。

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内定者の短期フォローを徹底する

短期的フォローの目的は、内定者が抱く不安や疑問をすべて洗い出して早々にクリアな状態にすることです。そうした不安や疑問を洗い出すために必須なのが内定者面談(オファー面談とも言います)で、これは内定を出してから遅くとも1週間以内に実施するのがポイント。遠方の学生の場合は、ビデオ会議でも構いません。

理想形としては、そのときに内定通知書を手渡すことです。

その際、当社のコンサルタントが支援先の経営者に「マストで」とお願いをしているのが内定通知書を経営者の直筆で書いてもらうこと。いまの学生たちがデジタルネイティブだからこそ、その一手間が学生の心を掴むのです。「字が汚いのがコンプレックスで」という経営者の方も多いですが、字のうまい下手は関係ありません。

当社でも採用活動で直筆の手紙を伝統的に続けていますが、外資を含む大手企業から複数内定を得るような学生が「あの手紙が決め手になって入社を決めた」「俺も俺も」と、内定式で話し合う光景が毎年見られます。

内定者面談を申し込んで、学生側から「都合がつきません」という返答が返ってきたら要注意です。本当に入社したい企業だったら、1週間以内に1時間くらいの時間はつくれるはずです。ですからまずは面談のアポを取ることが先決。

そして実際に面談をするときは、単なる一方的な営業トーク(クロージングトーク)で終わらせないで、入社に至るまでの不安チェックシートのようなものを作って、学生が抱える不安や疑問点をヒアリングしましょう。そして、その不安を解消するために自社ができることをすべて行うのです。

・人間関係に対する不安 → 懇親会を主催する、人事面談を実施する、など
・仕事内容に対する不安 → 職務体験ができる機会を設け、先輩社員から話を聞ける場を設ける、など
・育成環境に対する不安 → 社内研修を見学してもらう、育成プログラムを体験してもらう、など
・会社の将来性に対する不安 → 経営者面談を実施する、など

これらのことを学生が最終的に入社先を絞り込む6月中に迅速に行う必要があります。当然、不安要素の強いものから優先的に解消していくといいですが、できる限り、すべてを潰しましょう。

当社で中小企業経営者を対象にした採用力アップセミナーを実施しても、いま挙げたような内定出し直後の施策をやりきっている企業はいまのところ1社もありませんが、ここまで徹底的にやりきってようやく内定承諾率を50%にすることができます。おそらくこの傾向は通年採用に入るとさらに強まってくるため、採用活動の中の、「内定者フォロー」という重要度がますます高まると考えています。

親御さん向けの面談・会社説明会・懇親会

いまの時代、内定者の親対策は必須です(内定者の親御さんを味方につける活動のことを「親確」(オヤカク)と言います)。いまの若者の多くは親子の距離が非常に近いため、就職や転職にあたって親の意見を参考にするケースが増えているからです。仮に内定者が入社に前向きでも優秀な学生の親ほど「名前も聞いたことがない中小企業に行くなんて言わないで、上場企業か公務員になりなさい」と猛反発し、内定を辞退するケースが頻発しています。とくに地方はこの傾向が強いです。

そのため、会社のビジョンを語ったり、仕事を始めてからの不安をできるだけ取り除いたり、お子さんが入社後どのような成長をしていくのかイメージをさせたりと、学生に対するアピールと同じ熱量をかけて親御さんを「その気」にさせないといけないのです。

そこで支援先には内定者フォローの一環として、親御さんとの個別面談、もしくは会社説明会を兼ねた懇親会のようなイベントを、遅くとも内定式のある10月までに開催してもらうようにしています。

支援先では、採用目標人数が10人くらいまでの規模では大半の企業が面談を実施しており、それ以上の規模の場合は説明会兼懇親会を開きつつ、Sランクの学生に限って経営者自ら親御さんと個別面談をするケースが多いです。なお、一昔前は家庭訪問を奨励していましたが、近年は「家庭の事情で実家に来てほしくない」という学生もいることに考慮して、親御さんを自社に招く形が増えています。

たしかに手間はかかります。しかし、そこで親御さんをしっかりと自社の味方にしておけば、入社を後押ししてくれるだけではなく、入社後にお子さんが仕事で悩んだり、つらい思いをしたときに親御さんが「もう少し頑張ってみなよ。こんないい会社はなかなかないよ」と応援団になってくれるのです。定着率アップが課題の企業もあるかと思いますが、社員の家族を味方につけるというのも非常に効果的な打ち手のひとつです。

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株式会社船井総合研究所HRD支援部
お客様の業績を向上させ、社会的に地位の高い「グレートカンパニー」を多く創造することをミッションとする。中堅・中小企業を対象に、日本最大級の専門家を擁し、業種・テーマ別に「月次支援」「経営研究会」を両輪で実施する独自の支援スタイルをとる。その現場に密着し、経営者に寄り添った実践的コンサルティング活動はさまざまな業種・業界の経営者から高い評価を得ている。HDR支援部は「組織のイノベーションをサポートする」をビジョンとし、企業の持続的成長を実現するための人事・組織の専門コンサルティング部門。採用→育成→定着分野において、企業成長に合わせた持続的で計画性のある一気通貫の人づくり・組織づくりをサポートしている。

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