「人生100年時代」において資産寿命を伸ばすことは、多くの人にとって重要な課題でしょう。「老後2,000万円問題」で有名になった金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」でも、その必要性が訴えられています。その対策として資産運用が考えられますが、運用した資産を現金化する方法までが議論されることはほとんどありません。

今回の記事では、老後資金を取り崩すときの考え方とその方法を紹介しますので、老後の資金計画を立てる際の参考にしてください。

老後も運用を続けながら取り崩すのが得策

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(画像=1eyeshut/Shutterstock.com)

先述の報告書には、「長期・分散・積み立て投資が有効である」と書かれています。実際、老後資金は公的年金だけでは足りないため、それを補うために資産運用を始める人は多いでしょう。では、定年退職した時点で必要な資金に達していたら、運用をやめるべきなのでしょうか。

たとえば、退職金や積み立て投資などで2,000万円を作り、61歳の時にすべて換金して銀行に預けたとします。91歳まで毎年60万円を取り崩していくと、残りは200万円です。自分と配偶者の葬式費用くらいはまかなえるでしょうが、そこから介護費や医療費などを捻出するのは難しいでしょう。

年3%で運用を続けたとすると、91歳時点で葬式費用の200万円を残すとしても、毎年95万円ずつ取り崩せます。公的年金と合わせれば、比較的余裕のある暮らしができるでしょう。総受取額は3,049万円となり、運用をやめた場合と比べて1,000万円近く多くなります。

「目標額を達成したら終わり」ではなく、老後も運用を続けることが、資産寿命を伸ばすための重要なポイントです。

3種類の取り崩し方法

ここからは、取り崩していく金額を決める際の考え方について説明します。最もわかりやすいのは、先ほどの例のように「一定額」を換金する方法です。他に「一定率」を引き出す方法と、両者を併用する方法があります。

「一定率」を引き出す方法の特徴は、始めは取り崩す金額が多く、次第に少なくなっていくことです。先ほどと同じように、2,000万円を年3%で運用しながら取り崩す場合を考えてみましょう。毎年1回、残高の6%を換金すると、取り崩す金額は61歳の時は120万円、90歳の時は47万円です。

91歳時点で759万円が残ることになり、介護費用の平均を約500万円(生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」より)とすると、1人分をまかなえることになります。全員が要介護状態になるわけではないことを考えると、現実的な計画と言えるでしょう。総受取額は3,101万円であり、一定額を取り崩す方法とあまり変わりません。

取り崩し額がだんだん少なくなっていくと、生活水準を下げなければならず、この点に不安を感じるひともいるかもしれません。ただ、日常的な加齢とともに生活費は減っていくのが自然です。体力の低下や人間関係の変化などに伴い、お金を使う活動が少なくなりやすいからです。総務省の2017年家計調査報告によると、消費支出額は60代が29万84円 、70歳以上が23万4,628円でした。

ただし、この方法には欠点があります。取り崩しを始めた当初と後半で金額の差が激しいことです。特に取り崩し初期には必要以上の金額を引き出すことになりかねません。すると運用効率が悪くなることが問題となります。また高齢になると介護や医療など、突発的な支出がかさんで取り崩し額が増え、資金計画が崩れる可能性があります。

そこで、70歳台に取り崩し額のピークを設定し、初期と終期で大きな差がないようにする方法を考えてみます。具体的には、健康寿命の平均である72歳までは一定額を取り崩し、以降は一定率を取り崩す併用式です。61歳から71歳までは毎年60万円を取り崩し、それ以降は6%ずつ換金すると、取り崩す金額は72歳時点で119万円、90歳時点で66万円です。

冒頭で紹介した報告書に、「公的年金だけでは平均的な生活費に年間60万円が不足する」という試算がありました。併用式では、90代前半まで取り崩し額60万円以上をキープできます。91歳時点で1,070万円が残るので、夫婦2人の介護費用も捻出できるでしょう。

毎月分配型投資信託を使う方法

ある時期から一定率を取り崩して行く方法は、資産寿命を伸ばすために有効だと言えるのではないでしょうか。しかし高齢者が運用を続けながら、一定のルールにしたがって生活資金を取り崩していくのは容易ではありません。

そこで、運用から取り崩しまでの一連の流れを簡単に行う方法の一例を紹介します。それは、毎月分配型の投資信託を購入することです。分配金額は状況によって変動するタイプが多いですが、一定額または一定率のものもあります。収益が分配金を下回る場合は元本から払い出されるため、取り崩すのと同じです。

毎月分配型投資信託は特に中高齢者に人気でしたが、2017年~2018年は利用者が減少しました。複利効果を弱め、運用パフォーマンスを低下させる「タコ足配当」であるとの指摘があったことが一因でしょう。つみたてNISAが制定された時、当時の金融庁長官がそれを指摘したことも影響しているかもしれません。

保有資産を換金せず、運用して増やすことだけを考えれば、「複利効果を弱める」という批判は的を射ています。しかし、取り崩しの代わりに分配金を受け取ると考えれば、毎月分配型投資信託は合理的という見方もあります。

証券会社のサービスを使う方法

最近は、運用中の投資信託を一定期間ごとに少しずつ解約できる証券会社が増えています。金額を指定するのが一般的ですが、資産残高に対して一定率を定められるところもあります。「定期売却サービス」や「定期引き出しサービス」などと呼ばれるこのようなサービスを利用することでも、老後資金の取り崩しを簡単にできるでしょう。

老後資金を投資信託で簡単に管理する

資産寿命を伸ばすためには、老後も運用を続ける必要があります。取り崩しは、一定額と一定率、両者を併用する方法があります。始めは定額法を用い、健康状態などによって定率法に変えるのが合理的です。毎月分配型投資信託や証券会社の定期売却サービスなどを活用すると、運用から取り崩しまでの一連の流れを簡単に行えます。(提供:Wealth Road