(本記事は、安東隆司氏の著書『元メガバンク・外資系プライベートバンカーが教える お金を増やすなら この1本から始めなさい』ダイヤモンド社の中から一部を抜粋・編集しています)

銀行を監督する金融庁の長官が危惧する「乗り換え営業」の闇

銀行
(画像=Creative Lab/Shutterstock.com)

●金融庁トップが「運用ビジネスはお客様思いでない」と

2017年4月に行われた日本証券アナリスト協会のセミナーで、当時の金融庁のトップである森金融庁長官が述べた内容に、多くのファンド会社は凍りつきました。金融庁は銀行など金融機関を監督・指導している省庁であり、ファンド会社とは「投資信託を作っている会社」です。

業界内では非常に衝撃的な内容だったので、そのセミナーで語られたポイントをかみ砕いてご紹介します。

(1)ファンド会社はお客様のためでなく、銀行・証券目線の運営になっている
(2)ファンド会社の82%が、銀行・証券の子会社
(3)ファンド会社は、銀行・証券が手数料を稼ぎやすい商品を作っている?
(4)投資信託の乗り換えの都度、銀行・証券に手数料が入る

(解説)日本では投資信託が6100本以上もあり、次々と新たな投資信託、特にテーマ型の投資信託が数多く作られてきました。このテーマ型とは、「世の中で話題になっているテーマに関連した銘柄(会社)や地域に投資する」投資信託です。例えば新興国、ブリックス(BRICs)ブームの時のブラジル、高い配当注目のハイイールドやインカムなどです。

テーマに沿った投資信託が新たに販売され、2〜3年後に次の新しいテーマの投資信託への乗り換え営業が、長く行われてきました。これは、ファンド会社が銀行・証券等の子会社、系列になっていることが一因です。親会社が儲かるような、「乗り換えがしやすい」商品を、子会社はせっせと作るのです

(5)販売手数料の平均は3.1%、信託報酬の平均は1.5%
(6)こうした高いコストを上回るリターンをあげることは容易ではない

(解説)2017年2月時点のデータで投資信託を販売する時の手数料の平均が3.1%、信託報酬の平均は1.5%となっていました。

ちなみに、私が推奨するレベルは、購入時手数料は無料、そして信託報酬はiDeCoならば、0.4%未満、低コストのインデックス運用の投信ならば0.2%以下ですから、この平均の数字は非常に高いコストです。

こんなに高いコストを払うと、コスト負けして、投資した金額を下回る可能性が大きくなります。

(7)重要な点は販売手数料、信託報酬コストをお客様に理解していただくこと
(8)お客様が高いコストに気づけば、売れなくなり経営が成り立たない、と心配する銀行・証券がある
(9)難しい商品を作って詳しくないお客様に売ることや、手数料獲得がお客様より優先されているお客様の資産を増やせない運用ビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるのでしょうか?

(解説)投資信託で運用する時のコストは、購入時の手数料があります。そしてお客様にあまり認識いただいていない「隠れコスト」として、信託報酬があります。購入した投資信託から、信託報酬の費用は毎日、差し引かれています。

これらのコストを正しくお客様にわかっていただく必要があります。しかし、金融機関の中には、中身がバレてしまったら、「(金融機関にとって)高い収益の商品が売れなくなる」し、商売あがったりになってしまうので、そこまで求めないでくださいとお願いしたケースがあったようです。金融機関が従来の方法で今後も収益を上げることを容認して欲しいという要望でした。

しかし、金融庁長官は、資産運用はお客様の資産を増やすことが重要であって、金融機関の収益を優先してお客様の運用が上手くいかないビジネスなんておかしい、と警告したのです。

*1 販売会社をここではわかりやすく「銀行・証券」と表現した。実際には銀行、保険、証券などの様々な金融機関が販売会社となる。

販売会社系列をここではわかりやすく「子会社」と表現した。

10年で26%!乗り換え営業で支払うコスト

●手数料や信託報酬のコストは10年で26%?

この金融庁が問題視した「乗り換え営業」、すなわち売れ筋の投資信託を使って10年間運用した場合の、実質的なお客様の支払いコストはいくらぐらいになるでしょうか?金融庁が出したコストの平均データから推計すると、

「少なくとも10年で26.37%」

を、お客様は運用コストとして支払うことになります。

1 購入時手数料 3.18%
2 乗り換え2回分の手数料 6.36%
3 保有中の信託報酬等 16.83%

この合計で26.37%となります。

少し詳しく見てみましょう。投資信託の購入時の手数料は3.18%です。

そして、3年で投資信託の乗り換えが行われたとすれば、10年間では、初回の購入時の手数料に加え少なくとも2回の乗り換え時の購入時手数料を払います。すなわち10年間で購入時手数料の支払い合計は9.54%にもなるのです。

そして投資信託を保有している間、支払った信託報酬の平均を1.683%、10年で16.83%にも達します。

信託報酬は預けている「信託財産」から、自動的に毎日支払っています。改めて手数料を支払ったり、口座から引き落とされたりはしていません。それを理由に、実質的にはかかっている信託報酬について、きちんと説明しない販売者がとても多いのです。

つまり、購入時手数料の合計9.54%と、保有期間の信託報酬の合計16.83%で、10年間の総コストは26.37%になると推計されるわけです。

こんなに金融機関に支払うコストが高いのでは、運用成績が良かったとしても、お客様自身が受け取るリターンが少なくなってしまいます。その結果、10年運用して、マイナス3%だったということも起こるわけです。

元メガバンク・外資系プライベートバンカーが教える お金を増やすなら この1本から始めなさい
安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPAN おカネ学株式会社 代表取締役。CFP、日経CNBCなどTVコメンテーター、海外ETF専門家、立教セカンドステージ大学講師。三菱UFJ銀行で17年、三菱UFJメリルリンチPB証券(出向)、ソシエテ・ジェネラル信託銀行勤務という、メガバンク、外資系証券・信託銀行で約26年の勤務を経験。その後半はプライベートバンカーを務め金融商品の運用について熟知。販売手数料(コミッション)を目的にしない、世界的潮流である「預かり資産管理」(フィーベース)のビジネス(RIA)を行う、独立系・投資助言業(内閣総理大臣登録)を2015年立ち上げる。著書に『個人型確定拠出年金iDeCoプロの運用教えてあげる!』(秀和システム)など。

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