(本記事は、細入 徹氏の著書『将来の年金不安を解消したいなら今すぐiDeCo・つみたてNISAをはじめなさい』自由国民社の中から一部を抜粋・編集しています)
運用にかかるコストを整理しておきましょう
■ 投資信託にはどんな費用がかかるの?
図表8−1に示すように一般的に投資信託には販売手数料、信託報酬、信託財産留保額、そして税金がかかります。
①販売手数料
投資信託を買うと、アクティブファンドの多くは販売手数料が取られます。
株のアクティブファンドだと販売手数料として例えば3%(消費税別途)等が差し引かれたあとで運用に回されます。
同じアクティブファンドでも証券会社や銀行の窓口で買う場合は顧客の相談に対応したり、人手がかかるため販売手数料が発生しますが、ネット証券だと人手を介さないので発生しないというケースもあります。販売手数料のかからないものをノーロードと言っています。インデックスファンドはノーロードのものが多いのですが、これも窓口経由で買うと多くの場合は手数料がかかります。
確定拠出年金やつみたてNISAの場合は、販売手数料はかかりません(ただし、スポットで投資する従来からのNISAは、株を買う場合は手数料がかかりませんが、一般的に投資信託は手数料が発生します)。
②信託報酬
運用中にかかる費用です。日割りで永続的に残高から抜かれます。これは運用会社によって決められるものなので、どの証券会社等で購入しても費用は同じです。この分だけは確実に利回りが下げられるので信託報酬は安いに越したことはありません。
確定拠出年金の場合は、通常で買うよりも信託報酬を若干安くしています。「DC〇〇ファンド」とか「△△ファンドDC向け」などの商品名がついているものがこれに当たります。
信託報酬は、商品によってバラバラですが、例えば日本株のあるアクティブファンドは年1.5%、これに対してインデックスファンドは年0.4%等で、その差は相当に大きいことがわかります。
③信託財産留保額
誰かがファンドを解約すると、運用会社はファンドを売って現金化したり、そのあとの資産構成を整え直すために売り買いの費用が発生し、他の投資家に影響を及ぼします。そのため、解約する分の0.1%〜0.3%ぐらいをペナルティとして、ファンドのなかに残していってもらおうというのが信託財産留保額です。ペナルティをとらないファンドもあります。
但し、信託財産留保額は額が小さいのであまり気にする話ではありませんが、それでも年に何回もリバランスするとコスト高になるので留意すべきです。
④分配金への課税
投資信託のコストに一番影響の大きいのがこの分配金への課税です。
インデックスファンドの多くは年に1回決算をしています。アクティブファンドは毎月決算するものもあります。決算の結果、それぞれの運用方針に従って分配金(株の配当の様なもの)が支払われます。分配金が支払われたことによって得た利益には税金(約20.315%)が掛かり、税引き後の分配金が投資家の口座に振り込まれます。
しかし、年金づくりのように将来に備えて積み立てていこうという人には、その都度、払い戻されてしまったのでは資産を増やせません。そこで、投資信託を申し込むときに「分配金再投資」を指定しますと、税引き後の分配金はファンドに戻されて複利運用を続けていけます。ファンドによっては分配金再投資ができない商品もあるので確認が必要です。
毎期、分配金を出して税金を引かれながら運用していくと課税分だけ複利の運用効果が削がれてしまいます。長期で資産づくりをするためには、途中で分配金を出さないで複利で膨らまし続けたあとで、まとめて課税される方が有利になります。確定拠出年金もNISAも非課税で運用できるので、非常に有利なことが分かります。
■ 運用実績グラフの見方
運用実績のグラフの一例を、図表8-1に示します。そのファンドの運用者の実績を確認するためのグラフです。
図中のベンチマークというのは、その商品が比較対象としている指標(インデックス)のことです。例えば日本株式ならトピックスや日経平均、日本債券なら野村BPIのようなものです。バランス型ファンドの場合は、いくつかのインデックスを組み合わせてベンチマークにしています。
運用会社は、分配金再投資を前提にして自分たちの運用実績を表示しています。分配金を出したあとの時価で表示したら、分配金をたくさん出すか、少しにするか、出さないかで残った価格が異なってしまい、運用者の実力の評価につながりません。また税金もファンド運用者の腕とは関係ありません。そこで、運用者の実力を表すには分配金に課税をしなかったものとして、そっくり分配金を再投資させた計算にせざるをえません。
それから、最初に差し引かれる販売手数料も、運用する以前にかかる費用なのでグラフには含まれていません。
従って、皆さんが実際に投資して受け取る金額とこのグラフとでは金額がかなり違ってきます。一方で、確定拠出年金やつみたてNISAは販売手数料を取られず、運用益への税金もとられませんからグラフがそっくり自分の実際の残高になります。
陥りやすい運用グラフの落とし穴!
■ 本当にこれ程の差がでるのだろうか?
運用の推移グラフをみる際は、大きな落とし穴に気を付ける必要があります。
図表8−2の上段のグラフは、図表2−1(37頁)と同じもので、国内外の株式と債券の市場の推移を示しています。
上段グラフを見る限り、外国株式と日本株式ではその差は歴然です。安倍政権がスタートし、日銀の金融緩和政策で株価が急騰したといっても、外国株式の勢いにはとても歯が立ちそうにありません。
ところが、下段の図は安倍政権がスタートした時期を起点としてグラフをとり直したものです。日本株式と外国株式がほとんど重なってしまいました。これは一体どうしたことでしょう。
図表8−3を見てください。AとBがある期間でそれぞれ2倍になりました。BはAの3倍も背が高いので、同じ2倍になってもAとは傾斜が全然違います。
まして、日本株と外国株ではこの時点で背丈が6倍も違うのですごい傾斜の差になります。
ですから、初期の頃に頑張って差をつけたファンドは、その後の運用結果が同じでも、どんどん差がついたように見えてしまうのです。
■ 長期だと本当にリターンが良くなるのだろうか?
よく「長期になるほどリスクが低下する」「長期になるほどリターンのブレ幅が小さくなる」という話を聞きます。確定拠出年金の研修でもこうした説明をされることがあるようですが、これも錯覚の一つです。
その説明をするためにちょっと一つだけ寄り道させてください。図表8−4の上のグラフはリーマンショック以降の世界の商品市場(「コモディティ」といいます)の推移です。金・銀・バナジウムなどの貴金属やレアメタル、石油やガスなどのエネルギー、とうもろこし・小麦などの穀物、こうしたいろいろな商品群の動きを示す指標の一つです。
2008年8月から12月までの間に一気に4割以下まで落ち込み、それ以降も回復どころか、とうとう3分の1近くまで下落してしまいました。
ところが、上のグラフの左端を起点としてそこからの利回りを計算すると、下のグラフのように年々回復して、すでに数年も前からマイナス10%以下に収まってしまいました。もし、売り手から「リターンがどんどん改善されて良かったですね」などと言われたら本気で怒りますよね。
利回りは時間を土台にした計算なので、時間が長くなるほど当然ながら1年あたりの利回りは段々小さくなるわけです。当たり前のような話で恐縮でしたが、次の図を説明するための足慣らしとしてちょっと用意してみました。
■ 長期だと本当にリスクが小さくなるのだろうか?
さて、図表8−5の上の図は、第6章の図表5−9(86頁)を再登場させたものです。毎月ランダムに上がり下がりするあのバラツキは、「長期で持つと期待する資産残高の上下のブレは段々に大きくはなっていきます。でも、そのブレ幅は利益の増え方ほどは広がりません」ということを物語っていました。
ブレ幅の広がり方が緩やかなのは、期間が長いほどその間の上げ下げが相殺されて(時間軸の上で分散されることで)、なだらかになるということでした。
ところが、この期待通りの10%を挟んで、ブレの上限の曲線と下限の曲線の利回りを、前図で説明したように計算してグラフにしてみると、下のラッパのような曲線になり、「長期で持てばブレ幅は限りなくゼロになってしまう」という夢のような話になってしまいます。私たちが手にしたいのはあくまで金額であって%ではありませんね。%はその効率性を計る物差しに過ぎません。このように計算上の話と事実とはかなり違うことがよくあります。
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