国税庁や税務署が、法人や個人に対して行う税務調査。「自分のところにはいつ来るのだろうか?」「どこまで調べられるのか?」と不安に思うこともあるだろう。この記事では、税務調査の時期や流れ、調査内容などについて詳しく解説する。税務調査は、決して怖がるようなものではない。この記事で、不安を解消してもらいたい。

税務調査とは?

税務調査
(画像=PIXTA)

税務調査とは、国税庁や税務署が正しく税金を納めているかどうかを確認するための調査で、任意調査と強制調査がある。

・任意調査
通常行われる税務調査は、任意調査だ。任意調査は、課税処分を行うことを目的としている。

・強制調査
強制調査は、脱税の疑いがあるケースにおいて、脱税額が1億円を超え、かつ悪質な隠蔽工作が行われたと推定される場合に、国税庁査察部が裁判所の令状を取得した上で行われる。

「税務調査」と聞くと、映画やドラマなどの影響からか、強制調査を思い浮かべる人が多い。しかし、よほど悪質でない限り、強制調査を受けることはない。税務調査をそれほど怖がる必要はないのだ。

ただし、「任意」調査だからといって調査を拒否できるわけではない。税務調査官は、納税者に対し税金に関する質問をする権利である「質問検査権」を有している。納税者は、税務調査官の質問に対して黙秘する、あるいはウソをつくことは許されない。

任意調査は、事前連絡によって日程を調整した上で行われるのが一般的だ。ただし、現金で商売をする飲食店など、事業の実態を調査する必要があると認められる場合は、抜き打ちで調査が行われることもある。

税務調査の確率

税務調査は、どの程度の確率で行われるのだろうか。国税庁の発表によると、税務調査の件数を、法人の場合は対象法人数、個人の場合は税額のある申告を行った納税者数で割った「実調率」は、2015年は法人3.1%、個人1.1%だった。ここから税務調査の確率を単純計算すると、法人は32年に1回、個人は91年に1回の割合で税務調査が行われることになる。

しかし税理士などによると、この確率は小さすぎるようだ。法人も個人も「10年に1回程度」が、税理士などの実感らしい。実調率と税理士などの実感が異なるのは、実調率には税理士が関与することもないような零細企業や休眠会社が含まれているからだろう。

いずれにせよ、実際に税務調査が行われる確率は、国税庁の発表より高いようである。「税務調査は誰でも、どこの会社でも受ける可能性がある」と考え、準備を怠らないようにしたい。

税務調査の時期

「税務調査は秋に行われることが多い」と言われるが、本当だろうか。

税務調査の時期は、2月~5月決算の会社は7月~12月、6月~1月決算の会社は1月~6月だ。日本は3月決算の会社が多いため、税務調査は7月~12月が多い。

また税務署では6月末に人事異動があるため、7月から書類審査を行って、9月から実地調査に入ることが多い。したがって、秋に税務調査が多いのは本当のようだ。

なお1月~3月は確定申告のシーズンなので、この時期に税務調査が行われることはほとんどない。

税務調査の流れ

税務調査の流れを見てみよう。

1. 事前連絡で日程調整

税務調査は、事前に連絡があるケースがほとんどだ。予定日の10日くらい前に連絡があり、日程の打ち合わせをする。

税務調査は、個人事業主の場合は1~2日、小規模な法人の場合なら2~3日かかるのが一般的だ。1日の調査は、午前から夕方まで行われる。

2. 事業概要の説明

税務調査初日の午前中は、会社・事業の沿革や業務内容、営業方針、取引先や金融会社との取引条件、役員や幹部社員の職務内容、従業員の業務内容などを、雑談を交わしながら説明する。ここでは、社長や事業主が直接対応するケースが多い。

3. 売上計上などにおける管理体制の聞き取り調査

初日の午後から行われるのは、売上計上などがどのような管理体制で行われ、どのような書類を作成しているのかなどについての聞き取り調査だ。具体的には、以下のような内容を聞かれることになるだろう。

・受注から代金回収までの管理体制と作成書類
・発注から代金支払いまでの管理体制と作成書類
・仕入帳のチェック
・期末棚卸資産のチェック
・現預金のチェック

4. 帳簿のチェック

2日目以降は、以下の項目を中心に帳簿のチェックが行われることが多い。

・給与や賞与
・労務費
・一般管理費
・雑収入

5. 結果連絡~修正申告あるいは指導

税務調査の結果は、約1ヵ月後に連絡がある。修正申告を求められるケースと、指導に留めるケースがある。

税務調査のチェックポイント

税務調査でチェックを受けやすいポイントには、以下のようなものがある。これらについては、日頃から注意しておく必要があるだろう

売上計上について

・請求漏れがないか
・入金の仕訳処理は適切に行われているか
・今年計上すべき売上を来年に計上する「期ズレ」を起こしていないか
・未計上の現金売上がないか

仕入れ・外注費について

・仕入れや外注費の証票類はきちんと保存されているか
・支払先からの請求書を改ざんしていないか

棚卸について

・預け在庫の管理が適切に行われているか
・積送品の計上漏れがないか

一般管理費について

・経費の使途が明確になっているか
・事務所が自宅を兼ねている場合は、水道光熱費が適切に按分されているか
・出張時の旅費や日当の支給は、規定にもとづき適切に行われているか
・アルバイトなどへの雑給は適切に支払われているか

税務調査対応で気をつけるべきこと

税務調査に対応する際、気をつけるべきことを見てみよう。

日程の調整は遠慮しなくていい

税務調査を受けるとなると、どうしても緊張するだろう。しかし、税務調査は犯罪捜査ではない。税務調査官の質問には誠実に答えなければならないが、緊張する必要はない。日程調整についても、税務署が提示した予定日の都合が悪いなら、都合の良い日を遠慮なく申し出よう。

調査に必要な書類はあらかじめ準備しておく

税務調査では、以下のような書類が必要になる。

・総勘定元帳
・納品書
・領収書の控え
・請求書
・契約書
・稟議書
・議事録

これらの書類は、あらかじめ準備しておこう。総勘定元帳を会計ソフトなどで作成している場合は、プリントアウトしておくといいだろう。

時間の関係で、現場ですべての書類を調査できない場合は、調査官から書類の貸し出しを求められることがある。しかし、請求書や見積書など日常業務を行う上で手元にないと困る書類もあるだろう。

その場合は、書類をコピーして貸し出すことになる。事務所にコピー機がない場合は、あらかじめコピーしておくと調査がスムーズに進む。

ミスに気づいたら税務調査前に修正する

税務調査の連絡があり、申告書などを見直していると、ミスに気がつくことがある。ミスに気づいた場合は、税務調査前に修正申告を行おう。税務調査で指摘されてから修正するより、自ら修正するほうがペナルティが少ないからだ。税務調査日までに修正申告が間に合わない場合は、税務調査の延期を求めることもできる。 

調査官の飲食は用意しなくてよい

税務調査官は、飲食の提供を受けることができない。したがって、昼食やお茶などは、税務調査官のためにも用意する必要はない。

税務調査の対象になりやすいのは?

税務調査の対象になりやすいケースを見てみよう

過去に脱税行為をした会社

過去に悪質な脱税を行い、重加算税の対象となった会社は、3~4年に1度のペースで税務調査が行われることが多い。脱税を再び行う可能性があるとマークされるからだ。

開業して3年ほど経過した会社

開業して3年ほど経過した会社も、税務調査の対象となることが多い。一般に開業して3年が経つと、利益が出るようになっていることが多く、消費税を申告するための帳簿も作成しなければならなくなるからだ。

過去と比較して業績に大きな変動がある会社

過去と比較して業績に大きな変動がある会社も、税務調査の対象になりやすい。具体的には、退職金や貸し倒れ損失など、通常は計上されることが少ない経費や利益が計上された場合だ。

収益・費用が同業他社と大きく異なる会社

同業他社と比較して収益・費用が大きく異なる会社は、税務調査の対象になる可能性が高い。一般的に、同じような事業を営む会社は、収益・費用の内容は似かよることが多いからだ。

長期間税務調査を受けていない会社

調査すべき内容が特にない場合でも、前回の調査から5年以上が経過している会社は、税務調査の対象になることがある。その場合は、「とりあえず様子を見ておく」ことが調査の目的になる。

税務調査の対象として選ばれる傾向が強い業種

飲食店や酒屋、美容院、建設業、IT関連業、風俗業、貸金業などの業種は、税務調査が行われる傾向が強い。

税務調査は落ち着いて対応しよう

税金を逃れるために不正行為を行っている場合は別として、通常の経理を行っているなら、税務調査は決して怖いものではない。ミスを指摘されたら、改めればいいだけだ。税務調査は、どんな会社、どんな個人でも受ける可能性があるものだが、落ち着いて対応するようにしたい。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部